女子大生誕生110周年・文系女子大生誕生100周年記念式典のスピーチで「誰もが幅広い選択肢を持てる社会になること」の大切さを述べた佳子さま

 新しい年が明けたばかりの元日午後、石川県の能登半島は、最大震度7の巨大地震に見舞われた。その後も地震が続き、住宅の倒壊などで多くの死傷者を出した。

新年恒例の一般参賀が中止で

佳子さまが初めて参加された、新年一般参賀で。皇居前広場には8万人が集まった(2015年1月)

 甚大な被害を鑑み宮内庁は、翌1月2日に予定していた新年恒例の一般参賀を中止。新年にあたり天皇、皇后両陛下が、皇居で国民からの祝賀を受ける行事で、両陛下と長女の愛子さま、それに秋篠宮ご夫妻と次女の佳子さまなど皇族方が宮殿ベランダに立ち、訪れた人たちから直接、お祝いを受けるはずだった。

 新春を迎えた両陛下や秋篠宮ご夫妻、そして佳子さまの晴れやかな表情や姿などをこの目にしっかりと焼きつけておきたいと、私は新年一般参賀を楽しみにしていた。

 2日午前、思い立って私は次回の一般参賀に備え、参賀者が入門する皇居正門までの道順を確認しておこうと曇り空の下、皇居へと向かった。地下鉄の桜田門駅で降り、地上に出て桜田門に近づくと、新年一般参賀の中止を告知する宮内庁の立て看板が目に飛び込んできた。和文の下に英文でも知らせがあり、宮内庁の腕章をした男性職員が、中止を知らずに訪れた人たちの質問などに親切に答えていた。桜田門を抜け、お濠に沿ったアスファルト舗装の道を私は時々、大きな空を見上げながら歩いた。

 一般参賀のために設営されたテントの撤去作業が遠くに見える。皇居前広場は広々として実に気持ちがいい。最後はゆるい坂を上り皇居正門の少し手前に到着した。これ以上は進めない。参賀者たちはこの正門をくぐり、二重橋を通り宮殿東庭に出る。次回は通ることになるのであろう正門を近くに見ながら私の胸は少し躍った。

外国人観光客から皇居の人気は高い

2016年10月、国賓として来日したベルギーのフィリップ国王夫妻と挨拶する佳子さま。皇族として国際親善の役割を

 東京の玄関口である東京駅やデパート、有名ブランドショップがひしめく銀座からもそう遠くない場所に、こんなゆったりとした美しい空間がある。外国人観光客からも皇居の人気は高く、この日も7、8割は海外からの訪問客だった。近くにいた関係者に尋ねると、それでもこの日は新年一般参賀が予定されていたので日本人が多いのだという。

「平日なら9割以上が外国人ですよ」との答えが返ってきて、私は大いに驚いた。「ハッピーニューイヤー」。声をかけ、皇居をバックに記念写真を撮る海外からの訪問客は途切れることがなかった。

 2014年1月2日、今からちょうど10年前の新年一般参賀の人波の中に佳子さまの姿があった。彼女が成年皇族となる前年のことで「一般参賀がどんな様子なのか。一度、体験してみたい」との本人からの希望があり、秋篠宮ご夫妻の知人夫婦と一緒に一般参賀に訪れた。宮殿のベランダに上皇ご夫妻(当時の天皇、皇后両陛下)や天皇、皇后両陛下(当時の皇太子ご夫妻)、それに、秋篠宮ご夫妻と姉の小室眞子さんたちが並び、佳子さまを含む参賀の人たちからの祝意に笑顔で手を振り応えていた。

 一般国民に交じって佳子さまは、どんな思いで両親や姉たちを見上げていたのだろう。翌'15年正月、佳子さまは秋篠宮ご一家の一員として宮殿のベランダに立ち、参賀者からの祝賀に堂々と応えたが、前年の体験がどのように生かされたのだろうか。いろいろ興味深いが、見る側から見られる側へ、視点を変えて物事を見ることの大切さを佳子さまは学んだのかもしれない。

ご一家でのタイ訪問から帰国。当時小学生の眞子さん、佳子さまにとって初めての海外体験(2003年8月)

 話はさかのぼるが、'03年8月に、秋篠宮ご夫妻と小室眞子さん、佳子さまはタイを訪問した。眞子さんと佳子さまにとっては初めての外国訪問だった。この年11月20日、誕生日を前にした会見で記者たちから「(略)外国の文化に直接触れ、貴重な経験をされたと伺っています(略)お子さまにとってどのような意義や変化があったと感じていらっしゃいますか」などと尋ねられ、秋篠宮さまは次のように答えた。

「外国に行って日本と違う文化に触れる、これは大変良いことだと思います。日本とはまったく違う文化に触れ、そこで日本との違いというものを感じることができると思います。しかし、一方で同じアジアの国で日本と非常に似ている点、共通している点にも気がつくのではないか、そのことによって、さらに日本の文化を理解するひとつの契機になるのではないかと思いました」

 紀子さまは「国内旅行をしたり、外国を訪問して人々の生活や文化に触れたりすることは、自分の国への理解を深めることにつながり、若いときにそのような経験をすることは大切ではないかと考えております」と話した。

昨年佳子さまが述べた言葉

式典後、東北大学の大学院生と懇談

 昨年9月、佳子さまは宮城県の東北大学で開催された「女子大生誕生110周年・文系女子大生誕生100周年記念式典」に出席。式典の挨拶で佳子さまは、東北大学の「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」の取り組みに触れながら、このように述べた。

「同質な集団で、同じような考え方ばかりを共有するのではなく、いろいろな人が力を発揮し、意見を交換できる環境であることは非常に大切です。このような環境では、新しい視点や価値観を歓迎し、当たり前と感じていたことに疑問を持って、これまでになかったものを見いだし、つくり出すことができると思います」

 最近、よく耳にする「多様性(ダイバーシティ)」というのは、ある集団の中に異なる特徴や特性を持つ人が共に存在することだ。人種や国籍、性別、宗教など、異なる社会的、民族的な背景を持つ人たちが、そうした違いを認め合い、尊重し合いながら共存していくことが、今の世界で求められている。

 皇居前で私が目にしたのは、まさに人種や国籍などが違う多種多様な訪問客たちだった。時代は激しく動いている。異国からの参観者たちの目に、日本のプリンセス、佳子さまはどのように映るのだろう。

文/江森敬治

えもり・けいじ 1956年生まれ。1980年、毎日新聞社に入社。社会部宮内庁担当記者、編集委員などを経て退社後、現在はジャーナリスト。著書に『秋篠宮』(小学館)、『美智子さまの気品』(主婦と生活社)など