「一般的に、砂糖が多く使われた甘いものをとりすぎると、肥満やメタボリック症候群、糖尿病、また、がんのリスクを高めると言われています」と語るのは、がん治療認定医で、産業医科大学第1外科の佐藤典宏先生だ。ところが、最新の研究で、その常識とは反対の研究結果が出た“甘いもの”があるという。詳しく話を聞いた。
奄美大島の住民を10年以上、調査
「私が注目したのは、去年の12月に科学雑誌に発表された論文です。これは鹿児島県奄美大島の5000人以上の住民を10年以上にわたって追跡調査した研究結果なのですが、食事内容を詳しく調べたところ、奄美大島でよく食べられている黒糖を1日1回以上食べる人たちは、あまり食べない人たちに比べて、すべてのがんのリスクが約40%も低下していたのです」(佐藤先生、以下同)
がんの部位別に見ると、男性も女性も特に胃がんのリスクが低くなっていて、女性では乳がんのリスクも低下していたという。上白糖などの白い砂糖はがんのリスクが上がるのに、なぜ、黒い砂糖は下がるのだろうか。
「詳しい理由はわかっていませんが、黒糖などの含蜜糖と呼ばれる種類の砂糖には、糖分だけではなく、ミネラルやポリフェノールといった、原料である植物の栄養成分が残っていることが特徴なので、そのことが関係しているのかもしれません。いずれにせよ、上白糖や三温糖といった精製糖より、黒糖などのほうが身体にいいことは間違いないと思います」
奄美大島の人たちには、おやつの時間に緑茶を飲みながら黒糖を食べる習慣があるという。甘いものに目がないけれどがんのリスクが気になる……という人は、黒糖がいいかもしれない。
ダークチョコレートもがんリスク減
黒糖は食べ慣れていないからちょっと……という人にも朗報が。フィンランド人の男性2万7000人以上が参加した大規模な研究では、食事内容のアンケート調査から、もっとも多くチョコレートを食べていたグループ(平均で1日およそ12グラム)は、食べていなかったグループに比べて、がんによる死亡リスクが12%低下していたのだ。
「チョコレートの原料であるカカオ豆にはポリフェノールが豊富に含まれていて、特にカカオの量が多いダークチョコレートには、赤ワインやコーヒーよりもたくさんのポリフェノールが含まれています。チョコレートだと血糖値が気になる人もいると思いますが、砂糖が入っていないダークチョコレートなら血糖値も上がらないので、おやつにおすすめです」
ポリフェノールには活性酸素を取り除く抗酸化作用や抗炎症作用があり、動脈硬化や高血圧、脳卒中の予防効果もあるのがうれしい。
次に紹介するのは、小腹が空いたときのおやつにぴったりなナッツ。
ナッツには食物繊維、ビタミン、ミネラルに加え、天然のポリフェノールであるエラグ酸やオメガ3脂肪酸のαリノレン酸などの抗酸化成分が豊富。がんを予防する効果が多くの研究で報告されている。
「たとえば、ナッツをよく食べる地中海食の効果を調査した比較試験では、週3回以上、にぎりこぶし程度の量のナッツを食べる人は、がんによる死亡リスクが約40%低下し、大腸がんや乳がんの患者さんを対象とした研究でも、がんの再発を減らす、または生存期間を延ばす効果がわかっています」
おすすめの種類は、木になっているナッツ。ピスタチオやくるみをはじめ、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツなど(ちなみにピーナッツは木ではなく土の中になる)。ただし、脂質が多くカロリーオーバーを招きやすいため、食べすぎには注意が必要だ。
フルーツならブラジルの名産を
最後にフルーツのことを。フルーツをたくさん食べる人は、がんになりにくいことをご存じだろうか。日本人を対象とした研究で、フルーツをほとんど食べない人に比べて、週に1回以上食べる人は、胃がんの発生率がおよそ30%低いという結果が報告されている。
気になるのは、どのフルーツがいいのか、という点だ。残念ながら現在、「これさえ食べればOK」という特定のフルーツとがんリスクの明らかな関係は証明されていないが、動物実験などで効果が報告されているもののなかで“スーパーフルーツ”と言えるようなものがあるという。
「それは、アサイーです。アントシアニンなどのポリフェノールが豊富で、抗酸化作用、抗炎症作用、血管新生阻害作用が確認されており、がんの抑制に効果的です。アサイーのポリフェノールはココアの約4・5倍、ブルーベリーの約18倍にもなります。鉄分や食物繊維、カルシウム、ビタミンCもとることができるので、特におすすめのフルーツといえます」
近所のスーパーではなかなか見かけないアサイー。カルディやコストコといった冷凍輸入食品を多く取り揃えているお店では、冷凍されたピューレ状のものが売られていることが多い。おやつにスムージーやヨーグルトを食べている人は、ためしに入れてみてはどうだろう。
病気になりたくないからといっておやつを我慢したくはないが、かといってリスクを上げたくもない。がんのリスクは少し意識するだけで変わるので、ぜひ、日々のおやつ習慣に取り入れてほしい。
九州大学医学部卒、産業医科大学第1外科講師。日本外科学会専門医・指導医、がん治療認定医。YouTube「がん情報チャンネル」の登録者数14万人。著書に『がんにも勝てる長生きスープ』(主婦と生活社)など。