現在は鍼灸(しんきゅう)院で患者さんの治療にあたる傍ら、YouTubeや書籍などで腎臓の大切さを発信するなど、精力的に活動している鍼灸師の大野沙織さん。実は本来2つある腎臓のうち、左側しか機能していないという。
腎盂腎炎を発症、起き上がれないほどに
「22歳のとき、腎臓に細菌が感染する『腎盂腎炎(じんうじんえん)』だとわかったんです。当時は会社に泊まり込むほど仕事がハードで。ずっと腰痛や腹部の片方だけ驚くほど腫れたりしたのですが、最初のころは病院に行っても異常が見つからず、しばらく原因不明でした。
そのうち週2回は嘔吐(おうと)したり、起き上がれない状態に。超音波エコー検査を希望してやっと病気が判明しました」(大野さん、以下同)
しかし、「手術までは半年待ち」と言われてしまう。このつらい日々をなんとかすべく治療法を探しているうちに出合ったのが鍼灸だった。
「それまで理解してもらえなかったつらさを、鍼灸師さんが脈を診るだけで言い当ててくれたことに感銘を受けました。『こういう仕事をしてみたい』と思い、術後に鍼灸師を目指すことにしたのです」
尿管の一部を摘出する手術は成功したものの、腎盂腎炎を繰り返していたことが原因で、残念ながら右側の腎機能は停止していた。
そんなハンディキャップを背負いながらも猛勉強して、鍼灸師の国家資格を取得。28歳で自身の鍼灸院を開院した。
腎臓は「命そのもの」!日々のケアで健康維持を
腎臓には血液をろ過して老廃物や余分な塩分を尿として体外に排出したり、身体に必要なものは再吸収する働きがある。東洋医学では「命そのもの」といわれるほど、“健康維持の要”となる器官だ。
「腎臓が元気な人は、疲れにくくいつもハツラツと若々しい。一方で腎臓が疲れていると、疲れやすさ、冷えやむくみ、白髪や薄毛、肌の衰えなどの症状が出ます。さらには婦人科系の病気や心の不調にまで関わってくるのです」
こうした症状に思い当たる人は腎臓の機能を簡単にチェックする方法があるので、試してみよう。腎機能を上げるツボでもあるので、なんとなく調子が悪いと思ったら刺激してみて。
お疲れ度Check!あなたの腎臓大丈夫?
内側のくるぶしから上に上がっていき、大きな骨に当たったところから指3本分後ろが腎臓のツボ。
ここを押して痛みがあったりゴリゴリとした硬さがある人は、腎臓が疲れている可能性大。
腎臓ケアは食事から!簡単なスープなら続く
腎臓を元気にするためにいちばん大切なのは「食事」だと実感している大野さん。腎臓にいい栄養をとることが元気になる近道であり、特にスープをすすめている。
「スープがいい理由は、何より簡単だから。材料をサッと炒めて軽く煮るだけなので、疲れやすい人でもパッと短時間で作れます。加熱するので野菜の細胞が壊れ、有効な成分が丸ごといただけるのもいいところ。
あれこれ作らなくても、一皿で大事な栄養をしっかりとれるのも忙しい人にはぴったりです」
大野さん自身も腎臓がひとつになってからは以前より疲れやすくなり、料理をするのもつらいこともあったと話す。
食生活が不規則だったり、ストレスを感じている人などにもおすすめだ。
「誰でも60歳になると腎臓の機能は、若いときの半分程度にまで下がるといわれているので、年齢的な衰えを感じている人にもぜひ取り入れてみてほしいです」
使う食材は腎臓にいいものばかりだが、どれも簡単に手に入るものなので、長続きしやすい。まずは週1回から解毒スープ生活を試してみて。
まずは基本の解毒スープ!慣れたら症状に合わせて
大野さんは腎臓ケアを目的としたさまざまなスープの簡単レシピを発信しているが、作り方や食べ方にいくつかのポイントがある。
「野菜や食材のうまみを生かしたスープなので、味つけはとてもシンプルに。栄養価の高い旬の野菜を選びましょう。私は減塩にはこだわらず、塩化ナトリウムの含有量が少なくてミネラルが豊富な天日塩、発酵期間の長いみそなどを使っています」
まずは万人におすすめで、腎臓を癒してくれる「基本の“腎臓メンテ”スープ」から始めてみよう。花粉症、不眠、免疫力低下といった悩みに応じたレシピもあるので、慣れてきたらトライしたい。
「ただし、いくら身体にいいからといっても、毎日同じスープばかり食べないほうがいいですね。同じものばかり食べていると私たちの脳は飽きてしまい、身体をよくしようという反応が鈍るからです。
いろいろなものをまんべんなく食べるほうが、栄養的なバランスもいいですし、脳や腎臓にもいいのです。レシピの材料のほかに冷蔵庫にある残り物を加えてアレンジしてもいいですし、気軽においしく、ストレスを感じない範囲で続けるのがいちばんです」
腎臓が元気に働けるようになれば、栄養も吸収率もどんどんアップするそう。併せて、腎臓に負担をかける食材を避けることも心がけたい。
「実は添加物だけでなく、小麦や乳製品、サプリメントなどは腎臓の負担になることが多いため、できるだけ避けるほうがいいでしょう」
また食事以外にも、ツボ押しやマッサージは毎日欠かさず行っているそう。
「腎臓のツボは脚の内側や足裏にもあります。疲れていたり不調の度合いが高い方は1日3回、朝昼晩やってみてください」
今日からすぐできる腎臓ケアで、身体をしっかりサポートしよう。
解毒スープ生活3か条
1.スープは週1回から
まずは週1回、スープと少しのごはんで。栄養が偏らないように、毎日・毎食ではないほうがベター。
2.旬の食材、いい調味料を使う
野菜は栄養価の高い旬のものに。調味料は腎臓への負担が少ないミネラルが多い天日塩を活用する。
3.腎臓の負担になる食品は避ける
腎臓に負担が大きい添加物が多い市販のお弁当や加工食品、菓子など小麦粉や砂糖をたくさん使ったものは控えめに。
基本の“腎臓メンテ”スープ
腎機能アップにいい食材が盛りだくさん。
材料/2人分
・ブロッコリー(小房に分け、茎は小さく切る)……1/2株
・玉ねぎ(2cm角に切る)……1/2個
・にんじん(いちょう切り)……1/2本
・大根(いちょう切り)……4cm
・かぼちゃ(1.5cm角に切る)……150g
・ミニトマト……6個
・きのこ類(ほぐす)……80g
・なす(半月切り)……1本
・蒸し大豆……1/2パック(50g)
【作り方】
フライパンにオリーブオイル(分量外)をひと回し入れ、材料をすべて炒める。水400mlと塩小さじ1(共に分量外)を加える。ふたをして弱めの中火で約20分煮る。
《POINT》解毒作用のある玉ねぎ、βカロテンの豊富なブロッコリーをはじめ、腎臓にいい食材がギュッと1皿に。大根やにんじんは皮の周りが栄養価が高いので、皮はむかずに使うのがポイント。
お悩み別!おすすめ解毒スープ
【花粉症】根菜と舞茸のみそ仕立てスープ
舞茸が炎症を抑え、根菜が腸内環境を改善
材料/2人分
・大根(いちょう切り)……4cm
・にんじん(いちょう切り)……1/2本
・ごぼう(斜め薄切り)……1/2本
・舞茸(ほぐす)……80g
・れんこん(皮をむいて半量は半月切り、半量はすり下ろす)……200g
・しょうが(すり下ろす)……少々
・みそ、白みそ……各大さじ1
【作り方】
鍋に大根とにんじん、しょうがを入れ、水400ml(分量外)を加えて軽く煮る。ごぼう、舞茸、れんこんの半月切り、塩小さじ1/2(分量外)を加えて軽く煮る。
すり下ろしたれんこんを加え、ふたをして弱火で約10分煮たら、仕上げにみそと白みそを溶き入れる。
《POINT》アレルギー反応は免疫機能の暴走が原因。舞茸はアレルギー反応や皮膚の炎症を抑制、れんこんをはじめとした根菜類は腸内環境を整え、免疫機能のバランスを整えてくれる。
【免疫力UP】ツナとセロリの濃厚豆乳スープ
ツナとセロリで心と身体をリラックスモードに。
材料/2人分
・セロリ(茎は小口切り、葉はざく切り)……1本
・大豆の水煮……1パック(170g)
・ツナの水煮……1缶弱(60g)
・えのきだけ(3等分に切る)……80g
・無調整豆乳……200ml
・みそ……小さじ1
【作り方】
フライパンにオリーブオイル(分量外)をひと回し入れ、セロリの茎を炒める。大豆とツナを汁ごと入れ、炒めながら軽く煮る。
塩小さじ1/2とこしょう少々(共に分量外)、セロリの葉、えのきを加え、えのきがしんなりするまで炒め煮に。水150ml(分量外)を加えて軽く煮立て、豆乳とみそを加えて火を止める。仕上げにオリーブオイル(分量外)を適量加える。
《POINT》ストレスは免疫力を下げる大きな要因。ツナ(鮪)は抗ストレスホルモン「パントテン酸」が含まれ、セロリの香りは心をほぐす作用が。自律神経の乱れを整えてくれる働きも。
【不眠解消】トマトと豆腐のみそ豆乳スープ
アミノ酸がたっぷりで、夜ぐっすり&朝スッキリ!
材料/2人分
・昆布だし(水1Lに対して5cm角のだし用昆布2枚を入れ冷蔵庫で3時間置いたもの)……300ml
・しょうが(すり下ろす)……小さじ1/2
・玉ねぎ(繊維に沿って薄切り)……1/2個
・木綿豆腐(崩す)……1/2丁
・トマト(ざく切り)……1個
・かつお節……1パック
・みそ……大さじ1/2
・無調整豆乳……200ml
【作り方】
フライパンに昆布だしを入れて火にかけ、しょうがと玉ねぎを加えて軽く煮る。
豆腐、トマト、かつお節、塩小さじ1/2(分量外)を入れて5分ほど煮たら、みそを溶き、無調整豆乳を加えて温める。仕上げにオリーブオイル(分量外)を適量加える。
《POINT》豆腐や豆乳には、睡眠ホルモン「メラトニン」のもとである「トリプトファン」の材料となるアミノ酸が豊富。トマトは脳の興奮を静めて身体の深部体温を下げる働きも。ストレス対策にも◎。
自分でできる「簡単 “腎”ツボマッサージ」
「腎臓が疲れていたり機能が下がっていると、初めのうちはツボを触るだけで痛い場合も。でも続けていくうちに痛みはなくなり、次第に気持ちよくなります。身体も温まって内側から元気になるのが実感できます」
デトックスに
(1)椅子に座り、右脚の付け根に両手の親指を当てる。上半身をやや倒し、息を吐きながら3秒間押す。
(2)痛みがあったり硬くなっている部分を探りながら、手をひざのほうに少しずつ押し進めていく。3回繰り返す。(1)、(2)を反対の脚にも同様に。
むくみの改善に
(1)左足裏の中心に、右手の親指に左手の親指を重ねて当てる。上に向けて押し上げるように強く5回押す。
(2)右手をグーにして、(1)の場所から土踏まずに向けて押し滑らせる。(1)、(2)を反対の足にも同様に行う。
教えてくれたのは……大野沙織さん●鍼灸師。「心合いの風鍼灸院」院長。現在はひとつの腎臓で生活している。腎臓の養生を発信するYouTubeチャンネル「腎機能アップ!ちゃんねる」は、登録者12.5万人の人気ぶり。
取材・文/遊佐信子