'90年代のドラマブーム以降、漫画を原作としたドラマは数多く作られ、傑作も多い。昨年はあの『ONE PIECE』がハリウッドでドラマ化され、Netflixで全世界に配信。漫画とドラマの関係は新たな局面に突入した。とはいえ、漫画原作ドラマに常について回るのが、原作ファンの“がっかり”だ。というわけで今回は、30代~50代女性1000人アンケートを実施。不名誉ながっかり漫画原作ドラマ1位に輝いてしまった作品は……?
女性1000人が選ぶ、漫画原作のがっかりドラマ
5位の『ど根性ガエル』('15年 日本テレビ系)は懐かしき昭和のヒューマンコメディー漫画の実写版。原作の十数年後という設定で内容は脚本の岡田惠和のオリジナル。松山ケンイチがヒロシを演じたのだが……。
「ピョン吉の設定やドタバタの雰囲気が実写では難しかった」(東京都・49歳)、「主人公の年齢が高くなってイメージと違いすぎた」(千葉県・44歳)とあまりに原作とかけ離れていて違和感を覚えた人が多かったようだ。ドラマウォッチャーの漫画家・カトリーヌあやこさんは「私は好きなんですけどね」と苦笑しつつ、こう分析する。
「漫画原作ドラマのがっかりでもっとも多い理由は設定の改変なんです。この作品はヒロシを30歳のニートという設定にし、寅さん風の下町人情劇に仕立てた。
Tシャツのピョン吉も剥がれかかっていて、その声を満島ひかりさんがやっているのがエモいんです。大人になると失われてしまうものの象徴がそのピョン吉で、岡田さんならではの切なく温かい人間ドラマになっている。
原作とはかけ離れていますが、とてもいいドラマなので、漫画とは別物として見ていただきたいです」
4位は嵐の大野智主演の『怪物くん』('10年 日本テレビ系)。「大人の大野くんが怪物くんをやるのはあまりにも無理があった」(北海道・53歳)という意見が多く、この作品も原作と実写の乖離ががっかりの理由のようだ。
「大野さんの“とっちゃん坊や感”は怪物くんというキャラにぴったりだと思うんです。
ただ原作に寄せようとした結果、見た目は大人、中身は子どもになり、わがまま坊ちゃんぶりが増してしまった。国民的アイドルの宿命として、メンバーの誰かが子ども向けコンテンツ化していく問題があって、SMAPだと香取慎吾さん、嵐の場合は大野さんですよね。
子どもは楽しんでいるけど、ママ的にはこういう大野さんが見たいんじゃないんだよなっていう……」(カトリーヌさん)
3位には意外にも昨年の話題作、北村匠海主演の『幽☆遊☆白書』('23年 Netflix)がランクイン。「話数が少なく、駆け足になったのが残念」(北海道・40歳)、「内容うんぬんではなく実写化するのが間違い」(神奈川県・35歳)と原作愛が強いファンからの拒否反応も多かった。
「この作品はがっかりというよりも、もったいないという印象でした。Netflixの潤沢な予算で映画を超えるスケールで実写化。キャストも魅力的だったんですけど、いかんせん5話は短すぎた。それで戸愚呂兄弟との戦いまで描いちゃったのでダイジェスト感がハンパなかった。
ただアクションシーンはアイデアも豊富で素晴らしかったですし、綾野剛さんと滝藤賢一さんの戸愚呂兄弟のビジュアルには気分が爆上がりしました(笑)。
北村さんもすごくよかったですし、このクオリティーで実写化してくれるならシーズン2もぜひ見たいです」(カトリーヌさん)
昨年冬の話題のドラマがまさかの1位に
がっかりの2位は香取慎吾が主人公の両さんを演じた『こちら葛飾区亀有公園前派出所』('08年 TBS系)。「原作のイメージが強すぎるので誰がやってもダメだったと思う」(兵庫県・55歳)というコメントがいちばん的を射ているかもしれない。
「舞台やアニメ版の両さんの声優をラサール石井さんがやってるんですけど、年齢といい風貌といい香取さんよりはハマっているので、比べると……という意見が多いですよね。
香取さんは当時、孫悟空や忍者ハットリくん、慎吾ママなんかをやっていてキャラもののイメージが強かったので、その流れだったと思うんですけど、ドラマというよりコント感が強くなっちゃったのが敗因。やはり漫画的表現が魅力のギャグ漫画を実写化するのは難しいですね。
原作に寄せすぎずに、オリジナル部分多めの下町人情ドラマにしたほうがよかったと思います」(カトリーヌさん)
そして1位には、まだ記憶にも新しい昨年の冬ドラマ『パリピ孔明』('23年 フジテレビ系)が選ばれた。「実写化するとおかしみが減る」(神奈川県・49歳)、「漫画だから面白いということを再確認した」(沖縄県・43歳)など、向井理演じる諸葛孔明が現代日本に転生して新人歌手のプロデューサーになるというとっぴな設定が実写にそぐわなかったようだ。
「物語の作り的には、現代の音楽業界に三国志そのままの諸葛孔明の策がハマるというギャップが魅力なんですけど、いざ実写にすると音楽シーンに現実味がありすぎて孔明の計略に無理感が出てきちゃう。
照明の熱で蜃気楼を作って観客を多く見せるとか漫画的には面白いネタですけど、実写だとあまりにもリアリティーに欠けていてしらけてしまう。あと音楽を題材にした作品の場合、漫画だと聞こえない音の部分も現実化されてしまうので、もう一段階ハードルが上がる。
音楽、スポーツ、お笑いのようなプロの技術や個性が重要なジャンルは実写化が難しいんです」(カトリーヌさん、以下同)
6位以下を見ると9位にはハリウッドが実写化し、Netflixで配信中の『ONE PIECE』がランクイン。慣れ親しんだキャラクターたちを外国人俳優が英語で演じる違和感ががっかりの主な理由ではあるが、カトリーヌさんは漫画原作ドラマの可能性を広げる作品だと高く評価している。
「全世界でとてつもない数の視聴者に見られていますし、配信作品としては大成功ですよね。日本のコンテンツを海外の制作チームが実写化するのは、とても興味深い試みですし、クオリティーもものすごく高い。
日本人で見たかったというコメントもありますが、これを日本人でやると2.5次元っぽくなっちゃう。日本語吹き替え版ではアニメ版の声優陣が声を当てていて、ゾロ役の新田真剣佑さんの声も中井和哉さんが吹き替えるなど遊び心もありますよね」
『幽☆遊☆白書』にもいえるのだが、予算が潤沢なNetflixやAmazonプライムのような配信プラットフォームは常に実写化できる魅力的な原作を探していて、日本の漫画はまさに宝の山。
今までは特撮やCGなどの技術的な問題で実写化不可能だったバトルものの少年漫画も、海外の資本と技術があれば問題なく実写化できるということを、今回の『ONE PIECE』や『幽☆遊☆白書』が証明してくれたのだ。
「この流れは続くと思うので、今後どんな漫画が実写化されていくのか本当に楽しみです」
今回はがっかり作品を紹介したが、逆に漫画原作ドラマを成功に導く要因は?
「まずは納得の配役。これは演者の役に対する解像度の高さみたいなもので、例えば『きのう何食べた?』の内野聖陽さんはケンジにしか見えないけど、ほかの作品の内野さんはまったくケンジには見えないじゃないですか。『ミステリと言う勿れ』の菅田将暉さんもそうですよね。
原作とビジュアルはそれほど似てないのに、中身は一緒だと思えちゃう。あとはがっかりの真逆で嫌な改変がない。漫画を実写化する場合、ある程度の改変は必要ですが、そこで必要なのは作り手側の原作愛。それが見えれば原作ファンも納得するんですよ」
漫画原作のがっかりドラマランキング TOP10
1位 『パリピ孔明』 89票
('23年 フジテレビ系 出演/向井理)
2位 『こちら葛飾区亀有公園前派出所』 78票
('08年 TBS系 出演/香取慎吾)
3位 『幽☆遊☆白書』 72票
('23年 Netflix 出演/北村匠海)
4位 『怪物くん』 63票
('10年 日本テレビ系 出演/大野智)
5位 『ど根性ガエル』 54票
('15年 日本テレビ系 出演/松山ケンイチ)
6位 『セクシー田中さん』 45票
('23年 日本テレビ系 出演/木南晴夏)
7位 『GTO』 42票
('12年 フジテレビ系 出演/AKIRA)
8位 『エースをねらえ!』 37票
('04年 テレビ朝日系 出演/上戸彩)
9位 『ONE PIECE』 35票
('23年 Netflix 出演/イニャキ・ゴドイ)
10位 『地獄先生ぬ〜べ〜』 31票
('14年 日本テレビ系 出演/丸山隆平)