「2時間弱で“こんなにも?”というスケールの大きさがこの映画の最大の魅力だと思います」
14歳の同級生が殺された。春、晃、朔は犯人と確信した男の家に押しかけ、3人のうちの1人が男を殺し、家には火が放たれる。20年後、刑事になった晃(大東駿介)が帰郷。関係を絶った3人が心にしまっていた事件に光が当たり始める……。
ベテラン俳優たちに感じたこと「見惚れるし、カッコいい」
「サスペンスではあるけど、決して犯人捜しではありません。登場人物たちが向き合わず、なかったことにした罪がどれほど大きくなるかを描いています。当人にとっては正義と思っている悪の複雑さです」
高良が演じる春は、建設会社社長。地元の不良たちを受け入れ、闇の仕事も時に請け負う。
「オラつける役ではあるんですが、春がした経験と現在、冷静に人を束ねる懐の深さを思うと、そうしたくはありませんでした。周りの登場人物が勝手にオラついてくれると思ったので(笑)」
地元警察の先輩(椎名桔平)、暴力団の組長(佐藤浩市)とも対峙しながら今、大切なものを守ろうとする春。
「浩市さんとあんなにがっつり芝居をしたのは初めてでした。緊張しましたが、最高でした。やはり、昔からこの映画界や俳優界で“背中”を見せ続けてくださる方です。桔平さんとのシーンも緊張しましたが、現場ではめちゃくちゃ優しくて。
いまだに牙を抜かれず、とんがっている先輩たちの色気を感じました。見惚れるし、カッコいい。自分も年齢を重ねてきた中で、手本がいることのありがたみをすごく感じます」
本作で初メガホンを取ったのは齊藤勇起監督。井筒和幸や廣木隆一など名だたる監督たちを助監督として支え続けてきた。
「齊藤さんとの出会いは僕が20代のときです。“スーパー助監督”で、いてくれると現場が本当にスムーズに進み、信頼できます。以前はご近所さんで、よく行くカフェが同じで、会ったら一緒にコーヒーを飲んでいました。
あるとき“こんな映画を撮りたい”“そのときには主役をやってほしい”と、まだ構想の段階でおっしゃっていただき、すごくうれしかったです!」
年齢的には齊藤監督が、高良の4歳上。自分たちの世代が映画界の中心となり、牽引する立場になっていることについて尋ねると、
「(共演の)大東駿介くん、(朔役の)石田卓也くんにも思うんですけど、10代のころからオーディション会場で顔を合わせていました。同じ時代に、職業として俳優を選んだ同志です。齊藤監督もやはり同じ世代で経験を積まれて、みんなが必死で映画に関わっている。
そんな仲間と今、こうして映画が1本撮れていることは奇跡だと思うし、希望でもある。僕は今作のようなスケールの大きな映画を“いいな”と思うし、こういう作品が増えたらもっと豊かになると思います。そんな作品に今後も携わりたいです」
俳優20年目、やめたくなったときは?
俳優デビューは『ごくせん(第2シリーズ)』('05年1月期)。そのキャリアは20年目となる。
「20年続けられたことがうれしい。途中でやめることなんて何度だってできましたが、それを選択せずここまでこられたことを自分で褒めてあげたいです(笑)」
俳優をやめたくなったのは、どんなときだったのだろう?
「たぶん、この仕事じゃなくても、何かを20年続けることと葛藤とはセットだと思います。ただ、その葛藤は自分を成長させてくれる種でもあり、どの職業の人でも、やめたくなる瞬間があるのと同じ“やめたい”だったと思います」
そんな気持ちを翻すものは“責任”だったと振り返る。今後、どんな俳優を目指しているかと尋ねると、
「今まで自分のために仕事をしてきたような気がしています。例えば個人的な悔しさを晴らすためだったり、納得するためだったり。でも今は、もっと誰かのためになったらいいなと思うようになりました。芝居に限らず誰かに喜んでほしいとか、笑ってほしいということです。俳優としての自分の視野を広げてそこに向かってやってみる、そんなことを思っています」
撮影は福井で3週間
撮影は、齊藤監督の地元・福井で。3週間行きっぱなしだったという。
「本当に贅沢ですよね。家のこととか何も考えなくていいし、(ホテルに)帰ってくれば部屋がきれいになっていて、最高だと思います(笑)」
春の同僚役の多くは俳優ではなく、地元の人だったという。
「みなさん、とてもいい人で、撮影現場のサポートをすごくしてくれました。だから共演者以上に、ゴハンに行ったかもしれません。地元の有名チェーンの焼き鳥屋さん『秋吉』は安くてうまくて、よく行きました!」
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撮影/山田智絵