南谷さんがボランティアとともに作っているお弁当

 認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの調査によると、現在、子ども食堂の数は全国で9131か所にも上る(2023年12月現在)。これは全国の公立中学校と義務教育学校を合わせた数に匹敵し、子ども食堂は年々増加していることがわかる。

運営者が語る「子ども食堂のリアル」

 子ども食堂とは、子どもが1人でも行ける無料または低額の食堂のことだ。おなかをすかせた子どもへの食事提供、孤食の解消、食育、地域交流の場づくりなど目的はさまざまで、任意団体やNPO法人だけでなく個人で運営している人も多い。

「私たちの目標は、“子ども食堂をなくすこと、子ども食堂がいらない社会をつくること”なんです」

 こう語るのは、東京・荒川区「こども食堂サザンクロス」の南谷素子さんだ。

 南谷さんは、2018年に個人で運営を始め、その後、NPO法人を設立。自宅を拠点にして近隣の子どもたちに食事を提供してきた。

「私は高校の英語科講師を経て、自宅で学習塾をスタートさせましたが、学習障がいがある子どもが多いことに驚きました。話を聞くと食生活に問題があることに気づき、勉強をサポートする以前に、問題を抱える子どもと親を支えていかなければならないと思い、子ども食堂を設立したのです」(南谷さん)

 料理教室を開くほどの腕前を持つ南谷さんは、小さいころから料理を作るのが大好きで、子ども食堂では特技を生かせる。また、南谷さんの子どもが養子で、障がいがあったことも、児童福祉へ強い関心を持つきっかけとなった。

「25年前に特別養子縁組で8か月だった息子を迎えました。息子を養護施設から連れて帰る日、施設のほかの子どもたちが大勢やってきて『家族ができていいな』とうらやましそうにしていた姿をずっと忘れることができません。

 また、息子は同じことを何度言ってもわからない、同年代の友達と同じことができないといった特性があり、のちにトゥレット症候群とADHD(注意欠如)、IQは83(境界知能IQ71~84)と診断されました。

 育てづらい部分があった息子ですが、地域や福祉の方のサポートもあって、今は社会人として元気に働いています。子ども食堂の設立には、息子のように障がいがあり、生きづらさを抱える子どもたちの居場所をつくってあげたいという思いもありました」(南谷さん)

南谷さんがボランティアとともに作っているお弁当

 コロナ禍で子どもたちが集まることができなくなり、現在はお弁当を配布するスタイルで運営している。南谷さんのお弁当は、おいしく、栄養バランスが考えられており、子どもたちにも大好評だ。

子ども食堂を通じて、子どもの過酷な状況を知る

 しかし運営を続けるうちに、想像以上に過酷な子どもたちの現実を目の当たりにする。虐待やネグレクトを受けている子ども、リストカットをしている子ども、妊娠に気づかない子どももいた。

「うちはクローズド型で、週に1回、シングルマザー、不登校の子ども、児童相談所から紹介されたケースのみ食事を提供しています。料金は大人が300円、子どもは100円です。生きづらさを抱える子どもは発達障がいがあるケースも多いのですが、それに周囲が気づかず、子どもは将来に希望を持てず、罪を犯してしまうこともあるのです」(南谷さん)

 親に発達障がいがあり、仕事が長続きしない、無計画に妊娠してしまうといったことから、貧困に陥ってしまうケースも少なくない。

※写真はイメージです

「親が経済的に安定して、子ども食堂を卒業していただくことが願いですが、私がスタートしてから6年間ずっと生活保護を受けながら来られている親子もいます。親に生きる力を身につけていただかないと、貧困から一生抜け出せなくなります」(南谷さん)

 今は運営上の問題も山積みで、「この先続けていけるかはわからない」と南谷さんは不安をもらす。

「食材費や光熱費は、荒川区や団体からの助成金や寄付で賄っています。多いときには1日50食を作っており、寄付でいただいた食材を皆さんに渡すオペレーションも必要です。圧倒的に労力が足りていないのですが、毎回、手伝ってくださる方を探すのも大変。さらに助成金には透明性が求められるので収支報告の業務も発生し、休む暇がありません」(南谷さん)

 親から身の上について相談されたり、依存されたりすることもあるが、南谷さんはカウンセラーではない。子ども食堂はただ食事を提供すればいいわけではなく、心身共に負担の大きい業務のため、「もうやめよう」と思ったことが何度もあるという。

「子ども食堂に期待が寄せられていますが、はたして食事を提供するだけで子どもの人生が変わるのか疑問に思うこともあります。具体的な目標や成果もないので、スタッフがモチベーションを保つのも大変です。子どもたちの教育だけでなく、親の再教育の必要を感じることも多々あり、行政や専門家につなぐことも行わなければなりません」(南谷さん)

 それでもなんとか続けてきた原動力は子どもたちからの「おいしい!」という声にほかならない。

「みんな残さず食べてくれて、『今日のおかずは何?』と楽しみにしてくれています。例えばニンジンは、子どもが嫌う野菜として知られていますけれども、おいしい味つけは子どももわかる。“ニンジンしりしり(千切りニンジンを炒めて卵でとじた料理)”なんて、大人気のおかずのひとつです。

 子どもを見守っていくことは自分の使命だと思っていますが、年齢的にもいつまでできるかはわかりません。この先、引き継いでくれる次の世代の人も探しているところです」(南谷さん)

助成金で運営する大変さ、自治体の支援にも差がある

 全国に広がる子ども食堂だが、支援内容は自治体によって異なる。南谷さんの旧友でもあるAさんも他県で子ども食堂の運営に携わっているが、東京都ほどの助成はなく、無給で働くボランティアの善意に頼っているのが実情だ。

「役所の職員や議員に助成の必要性を訴えても、『あなたたちは好きでやってるんでしょ』という目で見られ、ボランティアスタッフの大変さをなかなかわかってもらえません。満足に食べられない子どもたちを見て、放っておけないから活動しているのであり、国や自治体から人件費を計上してサポートしてもらわないと、この先、持続していくのが難しくなります」(Aさん)

 また、クローズドではなく、オープンな子ども食堂に来る人の中には、特に生活に困っていない人もいる。

「安く食事ができるからと団体で来て利用される方もいます。シングルマザーのお母さんが、自分の子どもたちではなく若い彼氏を連れてやってくるといったことも……。一方で、子ども食堂があるという情報が届かず、本当に利用したい子どもが利用できないということも起こっています」(Aさん)

 南谷さんも助成金や寄付での運営に限界を感じ、ランドセルのリサイクル事業「ぐるぐるランド」も始めるようになった。

南谷さんが運営している「ぐるぐるランド」では、リサイクルしたランドセルを安価で提供している

「貧困などでランドセルが購入できないご家庭に向けて、ユーズドランドセルを2000円から8000円ほどで安価再販を行っています。日本人だけでなく荒川区で暮らす外国人家庭でもご利用いただいています。使わないランドセルがある方はぜひ寄付をお願いします」(南谷さん)

 安定した組織運営のため、南谷さんは「NPO法人いきば」を作り、その中で子ども食堂事業とランドセルリサイクル事業を行うことにした。また、「就労継続支援B型ココレ」の開設も予定している。

「“ココレ”とは、イタリア語でCOCOLE、寄り添うという意味です。生きづらさを抱える子どもたちの居場所だけでなく、働く場所を見つけられない障がい者の方、社会との交流が閉ざされてしまっているひきこもりの方など、就労の継続が難しい方々の居場所をつくりたいのです。困難なことやわかってもらえないことがあっても、『大丈夫、できてるよ!』という安心感をココレで味わってほしいと思っています」(南谷さん)

南谷さんが運営している「ぐるぐるランド」では、リサイクルしたランドセルを安価で提供している

小林幸子さんもお米を寄付、すべての人が当事者意識を

 コロナ禍による不景気や物価の高騰などを背景に、食材の寄付は減っているが、著名人から寄付が来ることもある。2023年は歌手の小林幸子さんが自ら手がけるブランド米の「幸子米」150キロを寄付してくれた。

小林幸子(撮影/週刊女性写真班)

「150キロのお米は3か月半~4か月分になるのでありがたいです。小林さんはうちの子ども食堂に来てくださり、子どもたちと一緒におにぎりを作ってくれました。このことはニュースとしても取り上げられました。著名人の方が発信してくださることで、子ども食堂の現実を多くの人に知っていただければと思います」(南谷さん)

 増加を続ける子ども食堂だが、冒頭の南谷さんの言葉のように、本来望ましいのは“子ども食堂が必要ない社会となること”だ。

「10年後の子どもたちが幸せに生きていける世の中にしていきたい。そして、そのためには私たちみんなが当事者意識を持つことが大切です。

 未来を担う子どもたちのためにも、子ども食堂への寄付やお手伝いに目を向けていただけるとうれしいです」(南谷さん)

南谷素子さん(なんや・もとこ)●高校英語科講師、予備校勤務を経て、自宅にて学習塾を8年間開室。2018年より東京・荒川区で「こども食堂サザンクロス」を運営。「NPO法人いきば」理事長。ランドセルリサイクル事業「ぐるぐるランド」も手がけ、荒川区内不登校支援ネットワークにも携わる。「就労継続支援B型ココレ」の開設を今春予定。寄付先などの情報はhttps://ikiba.org/に掲載。
南谷素子さん(なんや・もとこ)●高校英語科講師、予備校勤務を経て、自宅にて学習塾を8年間開室。2018年より東京・荒川区で「こども食堂サザンクロス」を運営。「NPO法人いきば」理事長。ランドセルリサイクル事業「ぐるぐるランド」も手がけ、荒川区内不登校支援ネットワークにも携わる。「就労継続支援B型ココレ」の開設を今春予定。寄付先などの情報はhttps://ikiba.org/に掲載。

取材・文/紀和 静 取材協力/株式会社ドリームパスポート