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 三重県松阪市が今年の6月から導入する予定の「救急搬送されても入院に至らなかった場合、1人あたり7700円を徴収する」という新制度に賛否両論さまざまな声があがっている。

タクシー代わりに救急車

 適用されるのは松阪市内で救急医療を担う3つの基幹病院。市の担当者に新制度の導入について聞くと、

「年々救急車の出動件数が増加していて、昨年には16,180件と過去最高を更新しました。全国の同規模消防本部と比較しても突出して多くなっています。このままでは必要な人への早期治療に支障が出てしまい、助かるはずの命も助からない」(松阪市健康づくり課担当者、以下同)

 と説明。タクシー代わりに救急車を使おうとするといった“救急車の不要不急の乱用”が救急外来をひっ迫させている現状があるという。

 7700円という金額は、健康保険法の「選定療養費」に基づく制度から決定したもの。病床数200床以上の地域医療支援病院などを対象に、紹介状を持たない“飛び込み”の初診患者から徴収するもので、保険適用外。松阪市は、救急搬送され入院に至らなかった軽症者にこの選定療養費を適用し、運用をしていく方針だ。

 7700円を徴収される対象となるのは、あくまで軽症者。

「すぐにでも入院や手術が必要な方や入院に至った方、紹介状を持参された方、公費負担医療制度の対象になっている方、災害により被害を受けた方、労働災害や交通事故に遭った方などは適用外です」

 とはいえ市民への認知はまだ浅く「松阪市の救急搬送すべてを有料化するのか?」などの問い合わせが1日に10件前後寄せられているという。

救急科の医師の負担が深刻

「『どうして有料化したんだ』、『高齢者からの徴収はしないでほしい』、『救急車を呼ぶのをためらうのでは』といった声もありますが、今回の取り組みの趣旨をしっかりと説明させていただき、単純な救急車の有料化ではないことをお伝えしています。厳しいご意見だけではなく賛同もいただいています」

 今回の松阪市の決定を受け、「救急車の不要不急の乱用だけでなく、地方の医療体制の脆弱さも新制度導入の要因のひとつでは」と指摘するのは、医療経済ジャーナリストの室井一辰さん。

「都市部への人口集中や少子高齢化などに伴い、地方での医師不足は年々深刻化しています。病院や診療科・医師が偏在しており、住んでいる地域によっては、何時間もかけて通院をしないといけないというのは珍しくはない。

 さらに、今年の4月から医療の現場でもいわゆる“働き方改革”がスタートし、医師の負担を減らそうとする取り組みがあります。それも今回の決定に影響しているかもしれません」(室井さん、以下同)

医師の働き方改革

 医療現場でも一般の会社員と同様に労働時間の上限規制が厳格に適用される影響で、これまでのような診療を続けていくことはむずかしくなるという。

「基本的に年960時間を超える時間外労働ができなくなります。実はこれまで診療科によって勤務時間には大きなばらつきがあり、救急科など急な対応を迫られることの多い診療科は長時間労働が当たり前でした。

 過重労働の目安である、週60時間を超えて働いている医師の割合を診療科別に計算すると、救急科は40%を超えている。医師に負担をかけて成り立っていた救急外来の働き方を是正するのには、人員の余裕を持たせることは重要。病院の人手が足りなくなることに対応した判断だったのではないでしょうか」

救急車を呼ぶか迷ったら

 今後、松阪市以外の地方都市や首都圏でも、救急車利用による選定療養費の徴収が導入される可能性はあるのか?

「実は救急搬送後の選定療養費は松阪市だけでなく、愛知県の豊川市民病院などでもすでに導入済み。ほかの地方自治体でも導入される可能性は十分あるかと思います。救急車は緊急のときに使うべきという意識を高めるのが重要というのは、どの自治体でも変わらないからです」

 では、救急車を呼ぶかどうか迷う場合、どう対応するのがよいのか。

「救急車を呼ぶか迷った際には、『#7119』に電話をするのがよいと思います。『#7119』とは、医師や看護師などが電話で症状を聞き、緊急性があるのかを判断する相談窓口です。急いで病院に行くべきか、すぐにでも救急車を呼ぶべきかなどのアドバイスが受けられます。しかし、全国すべての地域で実施されているわけではないので、注意してください」