森永卓郎

 昨年12月、ステージ4のすい臓がんであることを公表し、闘病中の経済アナリスト・森永卓郎氏。病院での抗がん剤治療を経て退院。現在はラジオ番組に出演するなど働きながら治療を続けている。メディアの取材を控えているという中、がん治療の近況や家族への思い、最新刊で明かす日本経済転落の驚きの真相などを語ってくれた。

がんが発生した場所を特定できず

1月には長男のYouTube動画に出演。3分半の動画は60万回再生、たくさんの応援メッセージが寄せられた。(YouTubeチャンネル「森永康平のリアル経済学」より)

「現在投与しているのは、『オプジーボ』のみです。血液のパネル検査を行いましたが、原発(最初にがんが発生した場所)を特定できず、つまりどこにがんがあるのかがわからないので、抗がん剤を打てない状況です。その代わりに、採血して、免疫細胞を増殖培養して身体に戻す治療をしています。効果は1か月後にならないとわかりません」(森永氏、以下同)

 治療の近況をこう説明する。当初、すい臓がんステージ4と医師に診断されたものの、「原発不明がん」の結論に至り、故に大もとのがんをやっつける抗がん剤は見送りに。がん免疫療法薬のオプジーボを投与しつつ、自身の免疫機能を強化してがん細胞と戦っているということ。

「3月に入った頃に、がんの浸潤が大きくなったか、小さくなったかがわかります。それを踏まえて、(今後の治療を)どうするのか判断する予定です」

 自由診療のため、費用の負担は大きい。1か月半で400万円以上かかったという。このままのペースで治療を続けた場合、1年間で2000万円程度はかかる見通し。

「標準治療で健康保険適用なら、高額療養費制度により自己負担はほとんどない。基本的には標準治療をおすすめします」と話す。

家族と過ごせる時間を取り戻す日々

1月には長男のYouTube動画に出演。3分半の動画は60万回再生、たくさんの応援メッセージが寄せられた。(YouTubeチャンネル「森永康平のリアル経済学」より)

 家族に支えられて治療に専念する森永氏。家族と過ごすのは貴重な時間にほかならない。

「結婚して40年あまり、仕事で家にほとんど帰らなかった。いまはかみさんと朝から晩までずっと一緒にいられるので、とても幸せです」

 目下の楽しみは、レギュラー出演するラジオ番組でのリスナーとのやり取り。

「無事快方に向かったら、ニッポン放送で、モリタク歌謡コンサートを開催してくれることになっている。それも楽しみです」

 加えて、教鞭をとる独協大学経済学部のゼミ生に対する熱い思いを吐露。
「4月からゼミが始まる。新入生には半年間でモリタクイズムを叩き込みたい」と意気込む。

 がん闘病の日々を送りながら、ラジオ番組で「死ぬまで闘うぞ!」と宣言するなど、森永氏は前を向いている。その原動力は、氏が使命とする「権力と闘うこと」にある。昨年5月に刊行され、ベストセラーとなっている著書『ザイム真理教 それは信者8000万人の巨大カルト』を読めば一目瞭然。そして、同書を上回る衝撃作『書いてはいけない』が3月9日に上梓される。日本経済転落の知られざる真相を述べたものだ。

命あるうちに世に出したかった「私の遺書」

「1980年代半ばに世界経済の2割近くを占めた日本のGDP(国内総生産)は、いまや5%を割り込むところまで転落しています。なぜ、日本経済が転落したのか。理由は2つあります。ひとつは、財務省がとてつもない財政緊縮(増税等)を続けたこと。もうひとつは、1985年に墜落した日本航空123便の“事件”で、アメリカに大きな借りを作ってしまったことです。日本航空123便墜落は事故ではありません。戦後最大の事件です」

 森永氏が長年、日航123便の墜落を事件と訴えていることは暗に知られている。同書の一文では、がんステージ4の告知を受けた瞬間、何かを食べたい、どこかに行きたいなどとは微塵も思わず、「自分の命あるうちにこの本を書き上げて世に問いたい。そのことだけを考えた」と胸中を告白。そして「その意味で本書は、私の40年にわたる研究者人生の集大成であると同時に、私の遺書でもある」と続けている。

 おりしも、日経平均株価はバブル後の最高値を更新中。2024年1月から新NISAがスタートしたこともあり、日本株の好調で日本経済は上向いているように思える。だが森永氏の見方は180度異なり、投資には慎重であるべきと警鐘を鳴らす。

老後資金は新NISAに回してはいけない

「バブル崩壊がいつになるのかを予測できる人は誰もいません。ただ、私は崩壊の日は近いと思っています。新NISAで投じた投資資金は、最悪10分の1になります。ですから、老後資金をNISAに回しては絶対にいけません。投資してよいお金は、あくまでも全損になっても構わないお金だけです」

 しかしながら物価高で庶民の生活は苦しく、増税や社会保険料アップが追いうちをかける。明るい老後を迎えるにはどんな準備をしておけばいいのか。

「大都市を捨てて、トカイナカ(都市と田舎の中間)に移り住む。そこで自給自足に近い暮らしをすれば、明るい老後が待っていると思いますよ」

 埼玉県所沢市の自宅近くに畑を借り、自らその生活を実践。お金も食料も、人に委ねず自分で育てられる力を養うことが第一。森永氏が今伝えたいもう一つのメッセージだ。