「三浦しをんさんの原作を読んだのは、学生のころ。空港で買って、飛行機の中で。岸辺みどり役はとても光栄だし、選んでいただいてすごく幸せな気持ちになりました。女優をやっていてよかったと思う反面、原作はすごく人気だし、映画化もアニメ化もされていて。辞書編集部の最後の3年間に突如現れる女の子の役目を自分がまっとうできるのか? すごく試されているような気持ちになり、プレッシャーはありました」
ファッション誌編集部で働くオシャレ女子・岸辺みどり(池田エライザ)は突然、地味な辞書編集部へ異動に。新たな辞書『大渡海』を作り出すための一員となるも、馬締光也(野田洋次郎)ら言葉への深いこだわりを持つ面々に戸惑うばかり。
「みどりを演じるにあたって、とことん、この子と一緒に転ぼうと思いました。やっぱり自分の役は“よく見えたい”というエゴが出てきちゃうんですが、そうではなくて一緒に折れて、学んで、立ち上がって。とにかくまっすぐ、人間らしく」
“辞書は入り口”。言葉の意味を知りたくて辞書を開いた人が、その言葉を使っていくきっかけとなる重責。そんな入り口が1冊に数十万以上詰まっている尊さ。みどりは言葉の多面性と正しさの重要性に気づきながら、辞書作りに邁進(まいしん)していく。
「“辞書はあなたを褒めもしませんし、責めもしません”という松本先生(柴田恭兵)、馬締さんの“悪い言葉はありません”。そんなセリフは普段、生活している中で何度も何度も自分の頭の中にふと降りてきてくれる言葉です」
泣かないと決めていたのに
台本20ページ以上にわたる長ゼリフが1話に1シーンくらいあったというが、
「“これどうやって撮るんだろう?”“どうやって覚えればいいんだろう?”と最初は思いましたが、撮影を重ねる中で、みどりがなぜそれを伝えたいのかがわかるし、心の底から納得がいくから自然とその言葉が出てきて。納得できていないと頭で(考えて)しゃべるから詰まったりもするんですが、みどりに関してはセリフを音読しているのではなく、出てきちゃう状態になっていました」
取材前日にクランクアップ。泣かないと決めていたのに、帰宅後に号泣してしまったという。
「本当に温かくて、終わってほしくない現場で。クランクアップの際に『大渡海』の表紙を模して作ったみんなの写真集&寄せ書きをいただいて。大切すぎてまだ読めていないんですが、きっと大号泣すると思います」
自分を好きになるきっかけは意図せぬところに
みどりのように、希望とは異なる場所に身を置くことになった経験を尋ねると、
「あります」
モデルとして人気を博し、演技にも挑戦するようになっていく中で、
「そもそもは、お芝居をやりたいと夢見たことはなくて。演出を受けたこともなかったですし、“次は右、次は左”みたいな指示を受けることは苦手なほうで。もともと図画工作の時間でも、課題とは一風変わったものを作りたくなるタイプ。早起きも、人に言葉をうまく伝えることも苦手だったので、まさか人前で演技をするなんて考えられなかったんですけど……」
モデル時代は“カッコいい自分”を見てもらうために努力を重ねていたが、
「お芝居で初めて触れる感情や自分自身が知らない自分に出会えて。“こんなに惨めな泣き方ができるんだ”とか“こんなに情けなくなれるんだ”とか。モデルももちろんプロフェッショナルなお仕事ですが、感情の深いところには手が届かなかった。今作の1話は涙するシーンから始まりますが、自分の見え方なんて忘れて、感情が爆発していて。そんなシーンの後には手が震えたりするんですよね。自分の気持ちを超えてるから。最初はどこか不本意とすら思っていたのに、この仕事だからこそ出会えることがあると知りましたし、自分を好きになるきっかけは意図せぬところにあったりする。だから、みどりちゃんにも“大丈夫、続けてごらん”と言ってあげたいです」
癒しは猫2匹&インコ5羽
女優・歌手として多忙な日々。そんな中で癒しの時間となっているのは、「猫を2匹、インコを5羽飼っていて。部屋は別々なんですが」
猫の名はシャンプーとビスケ。「基本、お休みの日は家で動物たちを甘やかして(笑)。彼&彼女たちがトロ~ンとほぐれていく姿を見ると、幸せな気持ちになります」
プレミアムドラマ『舟を編む ~私、辞書つくります~』
2/18(日)スタート。日曜夜10時~(NHK BSプレミアム4K、NHK BS)
ヘアメイク/長野一浩(MARVEE)
スタイリング/高橋美咲(Sadalsuud)
衣装協力/CREOLME、YEVS