かつては新人女優の登竜門と呼ばれ、無名の女優がいきなりヒロインに選ばれることも多かったNHKの連続テレビ小説、通称“朝ドラ”。
オーディションではなく直接オファーに
しかし、現在放送中の『ブギウギ』の趣里をはじめ、今後のラインナップだけを見ても2024年度前期『虎に翼』には伊藤沙莉、後期『おむすび』には橋本環奈がヒロインに決定。
先日、2025年度前期『あんぱん』のヒロインに今田美桜が選ばれたことが発表されるなど近年、有名女優の起用が相次いでいる。なぜ、以前のように新人が抜擢されなくなってしまったのか。
「特に2018年の『まんぷく』の安藤サクラさん以降、『なつぞら』(2019年)の広瀬すずさんもそうですが、直接オファーでヒロインになる人が増えてきた。オーディションの機会が減ってきているのも一因じゃないでしょうか」
そう話してくれたのは、ドラマウォッチャーで漫画家のカトリーヌあやこさん。その背景には昨今の労働環境の変化があるのではと語る。
「直接オファーが増えたきっかけと思われるのが、2019年にNHKが働き方改革を実施し始めて、労働時間の上限が決められたこと。オーディションって手間と時間がとてもかかるんです。長時間労働もできないし、その労力を省くようになってきているのも要因のひとつだと思います。
しかも今はネットで叩かれやすい時代で、朝ドラは看板枠ですから失敗もできない。新人のヒロインを選ぶよりも、人気と実力のある女優に任せたほうが安心ですよね。オーディションをやるにしても、『あんぱん』の今田さんのように、旬の女優が選ばれるんだと思います」(カトリーヌさん、以下同)
NHKの朝ドラ事情
SNSの普及により、新人女優の発掘が難しくなったのも原因だそう。
「昔、『君の名は』(1991年)でヒロインを務めた鈴木京香さんが“私にとっては学校でした”とおっしゃっていたように、新人を発掘して1年間を通して朝ドラと事務所でその女優を育てていくという土壌があったんです。でも、今は福岡にいたころの橋本環奈さんのように、一般の人が発掘し、SNSで“1000年に1人の逸材”といわれて話題となり、あっという間に人気者になってしまう。
近年、ほぼ無名でヒロインに抜擢されたのは『あまちゃん』(2013年)の能年玲奈(現・のん)さんくらいじゃないでしょうか。局にとっては、フレッシュなヒロインの原石が見つけづらい時代ですし、労働環境の変化もあり、育てる余裕もないんだと思います」
往年の朝ドラファンとしては、新人女優がヒロインをきっかけに芸能界に羽ばたいていくという姿を再び見てみたいもの。今後も人気女優の起用は続くのだろうか。
「今田さんは歴代最多の3365人の応募の中から選ばれていますから。もはやヒロインオーディションは神々の戦い(笑)。そういった中で、最近は清原果耶さんが『あさが来た』(2015年)や『なつぞら』を経て『おかえりモネ』(2021年)で主演を務めたように、朝ドラ出演をステップにヒロインになるケースが増えているんです。
NHKも視聴者の反響を試しているのかなって感じもしますし、これからはそういった流れが続いていくのではと思います」