『会員制』。しばしば飲食業界に見られる営業形態。飲食店において、これを選ぶのは、ほぼすべてが高価格帯の店といっていいだろう。
「イライラして」
このたび、店を会員制とすることを決意した飲食店店主は、その決断の発端をそう話す。しかし、いわゆる高価格帯飲食店ではない。ラーメンだ。福岡県八女市にある『あなたの心を鷲掴み』。大量の豚骨と水、そしてしょうゆのみで作られた超濃厚な豚骨ラーメンで日々行列ができる人気ラーメン店だ。
“18歳未満の入店お断り”
「選ぶ権利は店にだってあることを明確にしたいという思いが強いですね」
そう話すのは、店主の三浦隆寛さん。実はこの店、以前“18歳未満の入店お断り”で話題に。行列で起こるトラブル対策としてそのルールを敷いた(行列に対し、店に“なんで子どもなのに並ばないかんのか!”といった暴言が最も多かったため)。今回、さらなる“規制強化”となった。
「ラーメンって気軽に安く食べられるものという意識が強い。うちの店がある筑後エリア、そして福岡はその意識がより強いんです。だから“なんで並ばなきゃならん”“並んでまで……”となる。自分は並んででも食べたいと思ってもらえるラーメンを作ると決めて店を出しました。出すときは家族・従業員に、“この地域に受け入れられなくても、八女市のお客がゼロでも周りから呼んで行列つくるから心配せんでええ”と言って、結果並んでもらえるようになりました」(三浦さん、以下同)
値段や気軽さなど、ラーメンは飲食店の中でも特に“こういうもの(この程度でいい)”と思われがち。
「選ぶという言い方をしたら客商売として失礼かもしれないです。こちらも選んでもらえるために味はもちろん接客も最善を尽くす。自分は作り手の気持ちとして“この人の最後の晩餐かもしれない”と思って1杯1杯作っています。接客も自分がやられたら嫌なことは絶対にしないと決めて徹底している。
なので1杯1杯に時間がかかるのは当然だと思っています。しかし、理解してくれない人、文句を言う人はやっぱりまだいます」
会員制を選んだ覚悟
─言葉を選ばずに言うと、そういう人は来なくていいということから会員制に?
記者がそう聞くと、
「さらに言葉を選ばなければ、“僕はあなたに飯を食わせてもらわなくていいです”。三浦のラーメンを食べたくて楽しみに来てくれるお客さんたちで十分です。そういう人に飯を食わせてもらいたいです、と」
その結果、店を会員制に。「並んででも食べたいと言ってもらえるようになって5年くらい。次にステップアップしたいと思ったのもあって」
新たに博多への出店を計画中とのことで、現在のお店を会員制にする予定。営業は月に数日。会員の募集、選定については検討中だ。
「申し訳ないけど、うちの店のラーメンを楽しみにしてくれる人だけで十分だから。“1000円の壁”とか値段の話もそう。どれだけ原価がかかっているか……。
ネットの書き込みだったり、なんもわかってねぇやんって人には来てもらわなくて構わない。あんまり言うと感謝の気持ちがないって言われるかもしれないけど……。でも、来てくれて喜んでくれるお客さんに対して情熱かけてますから」
ラーメン店の会員制、そしてそこに至るまでの経緯についてどう感じるだろうか。最後は三浦さんの弁で締めよう。
「あなたのわがままを聞いてくれるお店に行ってくださいよ。この時代、検索すれば行く前にわかるでしょう」