彼氏との関係に悩む女子大生や、妻を亡くした男性……心の不調を訴えて『中京こころのびょういん』を訪れる患者に“処方”されるのは、本物の猫だった!?
癒しの『猫ぐすり』
雑種のサビ猫にラグドール、三毛猫や黒猫、ベンガルにメインクーンなど、柄も種類も性格もさまざまな猫たち。どの子も個性豊かで可愛い!
「読者の方の感想を読むと、ほとんどが“猫が可愛い”って書いてくれているんです。内容はあまり関係なく、猫の描写が良かったのかなあ、とか思ったり(笑)。
作品の中身も多少あるかもしれませんが、読者の99%がおそらく猫好きの方だと思うので、着目点が猫、とにかく猫なのかな、という気がします。そんなつもりはなくても、好きな猫のしぐさの描写に注目しちゃいますよね」
と、語ってくれたのは著者の石田祥さんだ。モフモフの愛くるしい猫の描写は、やはり日々の観察から?
「猫は好き……ではあるんですけれど、実は飼ったことがないんです。触ったこともなくて……。周りにもまったくいないんです(笑)。こういった取材では、“120%猫を飼っている前提”で聞かれるんですが、実はあまり詳しくもない(笑)。
しかも、なんなら気に食わないとシャーッとされそうで怖くて……。頑張って猫カフェにも2回ぐらい行ったことがあるんですけど、こっちが怖がっているのがバレるのか、全然寄ってきてくれないんですよ。
“猫だなあ、どの子も可愛いなあ”と思って見ていても、不思議とどの子も寄ってきてくれず……」(石田さん、以下同)
作品の登場人物も、猫を飼うのが初めてだったり、猫好きではなかったりとツンデレで、猫との距離感が不器用で初々しい。
「私が猫に距離感があるせいか、登場人物も“この猫でかいな”とか、結構クールなことを考えていたりします。猫を飼っている人だったら“大きければ大きいほど可愛い!”って言う人も多いですよね(笑)。
だから私みたいに“近づいたら噛まれるかも”と思ってビクビクして近寄れないでいるような、ほとんど猫を飼ったことのない人にも読んでほしいですね。
“もしかしたら、こういう猫なら飼えるかも”って考える練習台として読んでもらえたらいいな。お気に入りの猫が見つかるかもしれません」
『猫ぐすり』の効能は?
猫を処方されて、登場人物が元気になる。やはり猫ごとに効能が違う?
「猫ありきというよりは、処方されるのは本当にどの猫でも正直いいかなと。この猫だから治せるとか、この種類の猫がこの悩みに合う、とかはないですね。普通の人が見れば、ただの猫なのに、悩みがある人が見ることで意味のあるしぐさに見えてしまう。
猫がただニャンと鳴いただけでも、悩んでいる人からしたら“会社行け”って言われた気がする、みたいな(笑)。実際には猫は何もしていないのに、勝手にその人が癒されて治っていくスタイルです」
日々の猫情報はリアル猫ではなく、ネットやSNSの動画などから収集しているという石田さん。実は強烈な鳥派(!)で、インコと文鳥を飼っているのだとか。
「猫と仲良しの鳥の話題を聞くと、そういうペアもいいなって心が動いたりします。違う種類同士のバディみたいな関係を作品に出したり。鳥は好きすぎて……作品にするのは難しいです。
“鳥はこんなことはしないよね。動きは、鳴き声は〜”とかリアルに考えて、書けなくなってしまうかも(笑)。猫はキャラにしやすいし、アテレコもしやすい。今は楽しみながら猫のキャラを書かせてもらっています。
『猫を処方いたします。』第3弾は、今年の夏ぐらいに出る予定です。うまくいけば5冊ぐらい続けたいな」
意外にも鳥好きの著者さんだったけど、ツンデレな猫たちにはコレくらいの距離感がちょうどいいのかも? 次はどんな猫ちゃんが処方されるか待ちたい!
作品に登場する猫たち
タンジェリン(1巻第4話より)
メス/ラグドール/4歳
水色の瞳、白い毛に耳と目の周りに茶色のポイント。デザイナーの美意識にかなう上品かつ可愛い猫。ただし、可愛すぎて依存性が高く危険。
ミミ太(1巻第5話より)
オス/スコティッシュフォールド/生後5か月
追いかけると逃げることあり。目も体も丸々としていて、薄茶色の模様。きな粉をまぶしたおはぎそっくり。猫じゃらしで遊ぶのが好き。
虎徹(2巻第1話より)
オス/ベンガル/4か月
まさに小さいヒョウ。素早い動き、活発な性格。トイレにはこだわりあり。ベビーフェイスのスーパーモデルの異名を持つ。
みちこさん(2巻第2話より)
メス/メインクーンの雑種/年齢不詳
白黒のぶち模様に長い毛。耳毛ふっさふさの巨大猫。ぶすっとした表情で動じない大物感あふれる性格。
※一部猫抜粋
【読者発】わたしの猫ぐすり
更年期障害で毎朝起き上がるのが苦痛な日々。ある朝、台所で洗い物をしていると、窓越しにある隣家の塀の上に猫が。赤茶けた黒猫でひげがヨレヨレで目つきも悪い。
その子が、なぜか毎日のように塀の上や庭に現れるように。おかげで、あんなに苦痛だった台所に立つのも、気が楽に。おい、ぶちゃいく猫ちゃん、生きてるか。頑張れよって、窓越しに呼びかけたりしてます。(新潟県・更年期ママ)
長いこと独身だった一人息子が結婚。送り出して寂しくなった私の心を慰めてくれたのが駐車場で拾ったキジネコのグリ。12歳で亡くなるまで日々、笑顔をくれました。写真は盛りつけたツナサラダのツナだけ盗むグリ。
普段はしたことがないので記念撮影し、きれいに残った野菜だけを息子と2人で食べたのはいい思い出です。(東京都・パリジェンヌ由美子)
就職したばかりのころの話です。ミスばかりして、帰り道はいつも気が重かったです。アパートに帰る道は繁華街を抜けるのですが、スナックの前にいつもボサボサの毛をした2匹の猫がいました。
ごはんの皿があって、誰が触ってもじっとしていました。私は触れなかったのですが、夕方その子を見ると何かほっとしたのを覚えています。(千葉県・いっしー)
長女が結婚した際に“私の代わりに”と言って連れてきた保護猫のヒナ。夫も私もメロメロになりました。ヒナが虹の橋を渡ってしまった後、廃人のようになっていたわれわれの元に、また長女が2匹の猫を連れてきました。
長毛種の彼らは抜け毛で手入れが大変。“まったくもう!”と言いつつ、いいボケ防止になっています(笑)。(秋田県・まんずはぁ)
子どものことで悩みが重なって、夫婦の会話も途絶え、暗かったわが家。明るくしてくれたのは、マンチカンのモウちゃん。ご近所からご縁があって引き取りました。
驚いたのは、みるみるお腹が大きくなってきたこと。実は妊娠していたのです。子猫が生まれて一気にわが家はにぎやかに。悩んでいる暇もありませんよ。(神奈川県・モウちゃん母)
石田祥(いしだ・しょう)●1975年、京都府生まれ。高校卒業後、金融会社に入社。その後、通信会社勤務の傍ら小説の執筆を始める。2014年、第9回日本ラブストーリー大賞に応募した『トマトの先生』 (宝島社文庫)が大賞を受賞し、デビュー。他に「ドッグカフェ・ワンノアール」シリーズ、『元カレの猫を、預かりまして。』、『夜は不思議などうぶつえん』(共に双葉文庫)がある。
取材・文/ガンガーラ田津美 癒しの猫さま画像/飼い主提供