「家屋倒壊や津波など地震による直接の被害で亡くなることを〈直接死〉といいます。1995年の阪神・淡路大震災では亡くなった方の80%以上が直接死で、地震発生から15分以内に亡くなられていました。
今回の能登半島地震も同様に直接死が多いと考えられています」
と話すのは、NPO法人体験型安全教育支援機構代表理事の清永奈穂さん。
石川県の発表によると、遺族の同意が得られた114人の犠牲者のうち、家屋の倒壊が死因となったのは100人と約9割を占めている。古い木造家屋が多い地域ゆえに、被害が拡大したと考えられている。
「過去の地震統計からいえるのは、50代以上の女性に直接死が多いこと。例えば、年齢構成のデータでは阪神・淡路大震災と東日本大震災どちらも、50代を境に死者数が急増していました。
また阪神・淡路大震災の死者数は、男性2192人に対して、女性は3279人。女性の死者数は男性の約1.5倍で女性のほうが被害に遭いやすいことがわかっています」(清永さん、以下同)
揺れ始めの8秒間が生死の分かれ目
週女読者はまさに地震の犠牲になりやすい世代。そこで命を守るためにできることを清永さんに教えてもらった。
「地震は最初に小さな揺れがあり、続いて大きな揺れが来ます。私たちの研究チームが阪神・淡路大震災や2007年能登半島地震の罹災(りさい)経験者に聞き取り調査をしたところ、
『まずカタカタと小さな揺れが3~5秒。次にガタガタと大きな揺れが2~3秒。その後にズゴゴゴ、ドーンと頭の上で何かが大爆発したような縦にも横にも揺さぶられる大揺れが3~5分続いた』とのこと。
この爆発的な揺れの瞬間は、『怪獣に首根っこをつかまれてブンブン振り回されている感じ』『洗濯機に放り込まれてグルグル回されているような感覚』で、『死ぬ』『怖い』といった恐怖感も覚えず、何も考えられないそうです」
家屋倒壊や家具転倒などでケガや失命の危険性が高まるのは、この爆発的な揺れの時間帯。しかし、罹災者の声からもわかるように、そのときは何も考えられず動くこともできず、避難行動など到底とれない状況なのだ。
「ですから、小さな揺れのうちに素早く身を守る行動をとることが大事。罹災者によると、カタカタという揺れに続くガタガタという大きめの揺れの間も、動こうと思えば何とか動けたそうです。
そこで私は、カタカタとガタガタの時間を合わせた〈8秒〉の間に、安全な場所に身体を移動させることを提唱。その啓発活動も行っています」
〈あっ地震!〉と思ったら、そこから8秒をめどに〈ともかく生きる〉ための動きができるか否か。それが生死の分かれ目となる。その8秒間にとるべき行動として、清永さんが提案しているのが〈3つの動物のポーズ〉だ。
「これらはもともと子どもたちにわかりやすく伝えるために考案したものですが、大人もすべきことは同じ。揺れ始めの8秒で、〈うさぎで探して、ねずみで走って、かめで守る〉と覚えてください」
〈うさぎ〉のポーズとは、倒れないように両手両足を床につけて低い体勢をとること。その上でうさぎのように前後上下左右を観察。倒れてくるものや落ちてくるものがない、安全な場所を探す。多くの場合、頑丈な机の下や何もない部屋の隅がこれに該当する。
次に〈ねずみ〉のように身体を低くして走って、安全な場所に移動。
その後は、〈かめ〉のように身体を小さく丸めて足を引っ込め、両手で首の後ろを守るポーズで、爆発的な揺れに耐える。
地震がきたら…?普段からイメージを
「命を確保するために守りたいのが、〈首の後ろ〉〈胸〉〈おなか〉〈手足〉の4か所。首の後ろは重要な神経の通り道であり、胸とおなかには生命維持に欠かせない臓器があります。
また手足をケガすれば、その後の避難行動が難しくなる可能性が。かめのポーズならこの重要な4か所を守ることができます」
今回の能登半島地震では、天板の高さが30cmの座卓の下に潜り込んで、九死に一生を得たケースも。
「この人は揺れが落ち着いた後に座卓の下からはい出し、無事でした。家はペシャンコにつぶれていたそうで、最初の小さな揺れで避難行動をとらなければ、確実に命に危険が及んだと考えられます」
週女世代の女性が特に気をつけたいのが、地震発生時に気にかけてしまう家を守る動き。
「まずガスの火を止めなければ、と考える人がいますが、現在は震度5以上の地震発生時はガスメーターが自動的にガスを止めてくれます」
さらに注意すべきが〈これまでは大丈夫だった〉という経験からくる油断。地震大国の日本では震度3~4の揺れは珍しくないが、いつものことと油断していると、続けて大揺れがきたときに対処できない。
「今回の地震では1度目の揺れの後、『大丈夫よ』と電話で無事を知らせる連絡をしている最中に2度目の大揺れがきて、亡くなられたケースがありました。大地震は一度で収まらず、その後に何度も大きな揺れが起こりますし、津波がくる可能性もあります。
ですから、揺れが収まったからと油断せず、安全を確保しながら避難所に移動するなど、次にとる行動を検討してほしいと思います」
また8秒間にとるべき行動を知識として知っていても、大地震発生時、とっさにこれらの行動をとるのは難しい。
「罹災経験がある高校生220人に調査を実施したところ、安全な場所を探す、机の下に隠れるなど行動がとれた人は35%ほど。反対に何もできなかったという人が38%でした。
学校で避難訓練をして、ある程度の分別がつく年代でも、適切な行動をとることは難しいことがわかります」
そこで、普段から心がけたいのが、イメージトレーニング。つまり大地震がきたときの家の中でどう動くのかや、よく通る道、よく行く場所がどうなるかのシミュレーションだ。
「突き上げるような大きな揺れがくると、タンスや冷蔵庫など大型の家具や家電が動き出して倒れたり、窓ガラスや食器が割れて床に破片が散乱したりします。
道路では塀や自動販売機などが倒れたり、電線が切れたり、ビルのガラスが割れて降ってきたりするかもしれません。
大揺れでは想定外のことが起こりますから、物が倒れてきたり落ちてきたりしないかを十分に検討して、安全な場所を確保しておきましょう」
スーパーや学校、パート先など屋外施設の場合は避難経路も必ず確認しておこう。
家具の転倒防止やガラスの飛散防止など、一般的な地震対策を施すこともお忘れなく。
「そして、実際に、3つの動物のポーズをたびたび練習しておくこと。そうすれば、いざというときパニックにならずに命を守る行動がとれるはずです」
お話を伺ったのは……清永奈穂さん●立教大学大学院修了。ステップ総合研究所代表。阪神淡路、能登の地震等を25年余り研究。『おおじしん さがして、はしって、まもるんだ』(岩崎書店)など地震に関する著書も多数。
取材・文/中西美紀