大人顔負けのバツグンなトークセンスに、愛らしい変顔。SNSに投稿された微笑ましい動画が反響を呼び、昨年は『24時間テレビ』にも出演した6歳の女の子、りおなちゃん。先天性のハンディキャップを抱えており、生後間もないころから何度も入退院を繰り返してきた。ネガティブな意見も届くなか、娘の姿を発信し続ける母に理由を聞いた。
SNSへの投稿は娘の病気への理解を広めることが目的
「パパさ、『お風呂掃除した』『食器洗った』ってママにいちいち報告するのやめて?」
「パパがママを手伝ったとこ見てませんけど、わたし。掃除機かけたんもママですけど。わたしの世話したのもママですけど。あなたは何をしてますかぁ?」
妙に大人びた口調でパパを手厳しく"お説教”する動画でバズっている女の子がいる。「ちいりお」こと、りおなちゃん(6)だ。6歳児にしてチャンネル登録者数126万人(2024年2月現在)という人気ユーチューバーで、ショート動画の中には2000万回再生を超えるものも。
「明るくふざけている娘の様子を、TikTokに投稿したのが最初でした。りおなは、おしゃべりと周りを楽しませるのが大好きな子です」
そう語るのは、「ちいりおちゃんねる」の管理人で母親の佳寿美さん(35)。一見、仲がいい家族によるほのぼの動画かと思いきや、実は、佳寿美さんがわが子の姿を積極的に動画で配信するのには、明確な目的があるという。
「りおなは、生まれつき骨にさまざまな異常がある『先天性骨系統疾患』の疑いがあって、現在の身長は98cm、体重は14.5kg。6歳児平均である身長116.3cm、体重21.1kgと比べるととても小さく、3歳児くらいの体格。今でこそ、口が達者なお調子者のりおなですが、乳児のころから何度も生死の境をくぐり抜けてきました。SNSへの投稿は、そんな娘の病気への理解を広めることが目的です」
りおなちゃんのことを一番近くで見守り、支えてきた佳寿美さんが、これまでの子育てを振り返る。
「りおなの妊娠がわかったのは、長男の育児休暇が終わり職場復帰をしてのころ。少し早いかなと思いつつも子どもは2人欲しかったので、夫と一緒に喜んだのを覚えています」
原因不明の病気『側弯症』と診断される
しかし、まさに妊娠が判明したその日、2歳の長男が『急性脳症』で救急搬送。次いで、おなかの子は身体全体がむくみ心機能が低下してしまう病気、『胎児水腫』であることがわかったのだ。
「お医者さんから『この子は生まれてこられないかもしれない。もし生まれても、重い障がいがあるかも』と言われたときは、頭が真っ白になりました。本当に悩みましたし、夫婦で何度も話し合って……。でも、このとき回復は絶望的と言われていた長男の病気が奇跡的に完治。おなかの子にも"奇跡”を信じることにしたんです」
しかし、りおなちゃんは生まれてすぐ新生児集中治療室に運ばれた。『下顎後退症』という病気で、呼吸がしづらく危険な状態だったためだ。
「さらに、上顎に穴が開く『口蓋裂』の影響で、集中治療室から出たあとも母乳を吸えなくて。ミルクは鼻から胃までチューブを通して注入していました」
退院後も、自宅で鼻チューブでの食事補助は続いた。
「2時間かけて慎重にミルクを入れるのですが、当然泣いて嫌がるし、ほとんど吐いてしまって。これを1日に8〜10回行うんです。吐き戻しで汚れた服なども洗濯しなくちゃいけないし、1か月のうち半分以上通っていたかかりつけの病院までは車で片道1時間。長男もいたので、毎日が手いっぱいで」
りおなちゃんが2歳になるころ、口蓋裂は手術で完治。しだいに食事に支障はなくなり、言葉の発達も順調。ようやく穏やかな日々が訪れる……かに思われた。
「2歳半のころ、今度は背骨に異常が見つかりました。通常まっすぐ伸びるはずの背骨が徐々に曲がっていく原因不明の病気『側弯症』と診断されたんです。りおなの場合、急激なスピードで進行して肺や心臓を圧迫し、4歳半ごろには手術を受けることに」
手術によって骨のねじれは改善されたが、手術中に脊髄が圧迫された影響で─下半身に麻痺が残った。
「脚が動かせず歩けなくなったと知ったりおなは、ショックで泣いてしまって……。2度目の手術で脊髄の神経が回復する可能性が見えて、少し前向きになれたことはせめてもの救いでした」
昨年、小学1年生になり学校に通い始めた、りおなちゃん。車椅子で過ごしているが、自分の脚で歩くことを諦めたわけではないという。
「月に1度、愛媛から片道5時間かけて大阪のリハビリ施設に通っています。りおなは、かなり周囲に気を使う性格で、幼いながらも" 身の回りのことを全部誰かに世話してもらう申し訳なさを感じている様子。親としては、できることはなんでもしてあげたいんです」
娘の病気は見た目でわかるからこそ偏見の目にさらされやすい
治療やリハビリにはどうしてもお金がかかるため、佳寿美さんはフルタイムで働きながら、りおなちゃんの闘病を支えている。
朝、りおなちゃんを小学校に送り届けたあと出勤。昼休みには再び学校へと向かい、自力では動かせないりおなちゃんの脚の血流が滞らないようマッサージを施す。
その後は会社に戻って通常勤務。そして15時、小学校に行ってりおなちゃんを職場に連れて帰り、定時の17時まで仕事。帰宅後は夫と協力してりおなちゃんのリハビリを行い、さらに家事や動画編集もこなす。
「夫も、動画では『家事や育児をしない』と、りおなに叱られてはいますが(笑)、長男の学童のお迎えに行ったりと家事も育児も分担しています」
幼い子どもの顔をネットにあげることに強く反発する声もある。「子どもで金を稼ぐな」「子どもの病気をだしにして、親が注目を集めたいだけ」など、届くのは肯定的なものばかりではない。
「でも、圧倒的に多いのは温かい応援のメッセージです。りおなにとっては、リハビリのモチベーションにもなっているようで。メディアに取り上げていただくことも増え、病気への理解が少しずつ広がっている実感があります」
SNSを通じて、思わぬ出会いも訪れた。
「YouTubeで発信するなかで親身になってくれるお医者さんとの出会いがあって。その人からのアドバイスで、今は歩けるための治療をしています。保険診療ではないので全額負担ですが、娘にもどんな治療なのかきちんと説明をして、受けることを決めました」
りおなちゃんが受けているのは、再生医療というまだ研究段階の治療法。病気やケガで生じた臓器や組織の障害を、体内の幹細胞をもとに修復、再生するものだ。必ず治る保証はないが、一縷の望みがあるならばと、家族で支え合い治療に励んでいる。
「娘の病気は見た目でわかるからこそ、偏見の目にさらされやすい。直接何かを言われるわけでなくても、距離を置かれたり、腫れ物に触るような扱いを受け、そうした態度に傷つくことも……。娘のポジティブな姿を発信し、病気があっても明るく受け入れてもらえる、娘にとって生きやすい社会を用意してあげたい─そう願って、発信を続けています」
取材・文/大野瑞紀
佳寿美さん(ちいりおママ) 1988年生まれ、愛媛県在住。2014年に長男を、2017年に長女・りおなちゃんを出産。娘の病気について発信しようと2021年にSNSをスタート。" ちいりおママ”として、りおなちゃんとの共著『今日もさわやかに麗しく生きていきましょう』(KADOKAWA)を上梓