今年7月にせまる、20年ぶりの新紙幣発行。なかでも一万円札の肖像画が変更されるのはなんと38年ぶり。長年親しまれてきた福沢諭吉から、“日本経済の父”渋沢栄一へとバトンタッチされる。
実際プレミアはつくの?
もちろん旧紙幣もこれまでどおり問題なく使えるが「大事にとっておけばいつかは価値が上がるかも!」と、淡い期待を抱いている人も多いはず。
引き出しの奥に、夏目漱石の千円札や新渡戸稲造の五千円札が忘れ去られたままになっている家も少なくないだろう。
実際のところ、旧紙幣や古い硬貨にプレミアはどれほどつくのだろうか。
「例えば、昭和61年に発行停止となった伊藤博文の千円札は、ネットオークションなどで、現在1200円程度で取引されています」
と教えてくれたのは、ファイナンシャルプランナーで貨幣収集家でもある伊藤亮太さん。
お札の発行停止から38年もたっているのに、たったの200円しかアップしていないとは……。なんだかがっかり。
「ただ古ければいいというわけではありません。いわゆる“ピン札”と呼ばれるような、状態のいいキレイなお札なら、もう少しいい値がつくでしょう」(伊藤さん、以下同)
すべてのお札には「記番号」と呼ばれるアルファベットと数字が印刷されている。数字は必ず6ケタで、アルファベットは頭に1~2文字、末尾に1文字と決まっている。
「A012345B」「CD678901E」など理論上、129億6000万通りの組み合わせがあり、もちろん同じ記番号はひとつとしてない。
「新札が印刷される際、記番号のアルファベットはAから、数字は000001から使われていきます。すべての組み合わせを使い切ると、頭のアルファベットは2つに変わります。
つまり、頭のアルファベットがA1つであるものは、初期に印刷されたお札であることの証明となります。中でも、頭と末尾の両方がAである“A―A券”は人気が高く、価値がアップします」
今年の2月に国内コインショップが開催したオークションでは、現行の五千円札である樋口一葉デザインのA―A券が出品された。極めつきは、6ケタの番号が「000058」だったこと!
これは何億枚と発行された現五千円札の中で、58番目に印刷された極めて初期のものであることを意味する。最終的に、このお札には12万8000円もの値がついた。
「伊藤博文の千円札、岩倉具視の五百円札などのA―A券は特に貴重とされています。数が少ないのでオークションでもめったに出回りません」
財布や貯金箱から探したいレア硬貨とは?
一方、最近とんと見かけなくなった二千円札には、非常にレアな「エラー紙幣」が存在するという。
「どのお札にも、記番号は見やすいように左上と右下の2か所に印字されています。もちろんこの2つの記番号はまったく同じものでなければならないのですが、印刷時のミスで左上と右下のアルファベットが異なっている二千円札が一定数存在します。
オークションでは10万~20万円の高値で取引されていますよ」
このように、製造過程のミスでなんらかの不具合が生じたものは「エラー紙幣」「エラー硬貨」などと呼ばれている。非常に数が少ないため、驚くほどのプレミア価格がつくことも。
「2月のオークションでは、穴のあいていない50円玉に180万円の値がつきました。このほかにも穴の位置がずれているコインや、図柄がめくれたりはみ出している“ヘゲエラー”と呼ばれるコインもあります。
最近は造幣技術が向上し、このようなエラーコインは減りました。数十年前に造られ、誤って市場に流通してしまったものが、今わずかに残っているだけです。希少価値が増したぶん、価格も高騰し続けているのです」
コレクターのあいだでは「記念貨幣」も根強い人気。最近では大阪万博の開催を記念した銀貨の発行が話題に。第1次から第3次までデザインが異なる千円銀貨が、それぞれ1万3800円で5万枚ずつ発行予定だ。
「銀貨としては決して安くない価格で、しかも5万枚も発行されるとなれば将来的に価値が上がるかどうかは難しいところ。そもそも記念貨幣自体、あまり値上がりが期待できないものなのです」
記念貨幣は比較的頻繁に発行されており、近年も天皇陛下ご即位、沖縄復帰50周年などを記念したものが抽選販売された。
「長年にわたり人気が安定しているのは、1964年の東京オリンピックを記念して発行された千円銀貨。この銀貨の中にはごくまれに、表面が鏡のように美しく仕上げられた個体が存在します。
これらは“プルーフライク”と呼ばれ、今年2月のオークションでは16万8000円で取引されました。60年前の発売当時、この銀貨は約1000万枚も発行されています。プルーフライクとまではいかずとも、意外と実家の押し入れに眠っている可能性もありますよ」
記念硬貨なんて持ってないもん……という人も、がっかりするのはまだ早い。古い貯金箱や財布の中にあるごく普通の小銭が、レアコインの可能性も!
「昭和最後の年である昭和64年は50円玉と100円玉が発行されず、それ以外の硬貨も発行枚数が極端に少ないため高値で取引されています。また平成最後の年となった平成31年は、1円玉と50円玉の発行枚数が非常に少なく、現在も人気です」
ネットオークションをのぞいてみると、何の変哲もない平成31年の50円玉が600円ほどで販売されていた。高額取引とまではいかないが、偶然こんなレア硬貨を財布の中に見つけたらちょっぴりうれしくなることは確かだ。
「プレミア貨幣を手に入れてみたい人は、今がいいチャンスかもしれません。新紙幣発行に向けて現行の紙幣は印刷が終了しており、記番号のアルファベットが“Z―Z”のものがすでに出回っていると思われます。
先ほどお話しした“A―A券”とともに、人気の記番号のひとつです。財布の中のお札を一度確認してみてはいかがでしょう」
今回の新紙幣はまず、一万円札が6億枚、五千円札が7千万枚、千円札が8億3千万枚発行される予定。莫大な数に思えるが、近年の電子マネーの普及によりこれまでと比べ少ない発行枚数となった。
発行初日に銀行の窓口でまとまった現金を下ろして、新紙幣の“A―A券”を狙ってみたい気もするが……。
「それはコレクター全員が一度は考えること(笑)。でも“A―A券”ひとつとってみても、どの都道府県に、どんなふうに配分されるかはまったく未知数で、日本銀行は決して教えてくれません。全国のすべての銀行の支店数を考えると、残念ながら非現実的ですね」
金は天下の回りもの。ひょんなことから自分のもとに、レア紙幣が回ってくる幸運を願うしかなさそうだ。
教えてくれたのは……伊藤亮太●ファイナンシャルプランナー。証券会社に勤務後、独立系FP会社「スキラージャパン株式会社」を設立。著書に『図解即戦力 金融のしくみがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など
取材・文/植木淳子