西島秀俊が天才指揮者に扮する『さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜』、ブギの女王・笠置シヅ子の生涯を描く朝ドラ『ブギウギ』、ミュージカルシーンが話題の宮藤官九郎脚本『不適切にもほどがある!』など音楽をフィーチャーした作品が印象的な冬ドラマ。そこで今回は音楽ショップ関係者48人にアンケート!これまでに感銘を受けた音楽ドラマを挙げてもらった。はたして1位に輝くのは……!?
音楽ドラマベストテン
まずは5位から。ランクインしたのは作曲家・古関裕而の生涯を窪田正孝主演で描いた朝ドラ『エール』('20年 NHK総合ほか)だ。
「なじみのある楽曲を作られた人のドラマで、リアリティーがあり、音楽も素晴らしかった。曲の背景も知ることができて、より親しみがわいた」(山野楽器営業推進部・女性)、「ミュージカル好きなので、ミュージカル俳優がたくさん出演していたのが楽しかった」(HMV・女性)など7票を得た。
「コロナ禍の朝ドラで、志村けんさんの遺作になったことも強く記憶に刻まれました」
とドラマウォッチャーの漫画家・カトリーヌあやこさんはこう振り返る。
「山崎育三郎さん、古川雄大さんなどのミュージカル俳優以外にも森山直太朗さん、RADWIMPSの野田洋次郎さんとミュージシャンの方も出演されていて、すごく音楽を意識した作りでしたよね。
山崎さんが甲子園のマウンドで『栄冠は君に輝く』を歌ったり、薬師丸ひろ子さんが『うるわしの白百合』を歌ったり、極めつきは最終回がメインキャストによる古関裕而コンサート!
こういう仕掛けも音楽ものとして面白かった。今の『ブギウギ』もそうですけど、音楽で時代を描いていく朝ドラは今後も作られていくんだと思います」
3位は2作品が同数の9票でランクイン。『リバーサルオーケストラ』('23年 日本テレビ系)は門脇麦扮する元天才バイオリニストが田中圭扮する変人のマエストロに無理やり巻き込まれ、ポンコツ市民楽団を変革していくという王道オーケストラもの。
「ハードルの高いクラシック音楽ですが、ユニークな登場人物たちがオーケストラならではの人間模様を描き出し、飽きさせなかった」(山野楽器銀座本店・男性)、「門脇さん、田中さんをはじめ演者のみなさんが半年以上練習を重ねた演奏シーンは何度見ても感動します」(山野楽器イオンモール北戸田店・女性)。
「放送中の『さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜』の設定がほぼ同じと言われていますが、実は『リバーサル〜』も韓ドラの『ベートーベン・ウィルス〜愛と情熱のシンフォニー〜』とそっくり。
変わり者の指揮者、市職員の元バイオリニスト、ポンコツ市民楽団という組み合わせはデフォルトかも(笑)。
オーケストラものは楽器別にキャラの個性がはっきり描けて群像劇が作りやすい。練習の成果か、俳優陣がすごく様になっていましたよね。『さよなら~』はホームドラマ的な側面が強いので、音楽ものとしては『リバーサル〜』のほうが充実していた気がします」(カトリーヌさん)
もうひとつの3位は『パリピ孔明』('23年 フジテレビ系)。
「内容はもちろん、英子(上白石萌歌)が歌うオリジナル楽曲や『サヨナラCOLOR』などのカバーが本当に素晴らしかった。出演者もアーティストがたくさんいて、音楽ドラマとして最高でした」(タワーレコード浦和店・男性)、
「ライブや歌唱シーンも多く、音楽ファンならより楽しめたと思います。タワーレコード渋谷店で孔明(向井理)がPayPayを使いこなしてるシーンがツボでした!」(タワーレコード新潟店・男性)とショップ店員さんならではのコメントも。
「“がっかりドラマ”といわれることが多かったので、音楽業界ではこんなに評判がよかったんだと胸をなで下ろしました(笑)。レギュラー、ゲスト、カメオ出演と役の大小問わずミュージシャンがこれでもかと登場して、確かに音楽好きにはたまらなかったかも。
オリジナル楽曲『DREAMER』をYOASOBIの幾田りらさんが作詞・作曲するなど音楽面に関してはものすごく力を入れて作られていましたよね」(カトリーヌさん)
映画化までされたあの名作ドラマが1位に
2位は意外な作品が飛び込んできた。松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平の4人がアマチュア演奏家を演じた坂元裕二脚本のヒューマンサスペンス『カルテット』('17年 TBS系)だ。
「のっぴきならない秘密を持った登場人物たちの会話劇と弦楽四重奏の美しい音楽とのアンバランスさにどっぷりつかりました」(タワーレコード広島店・平本さん)、
「音楽というよりはミステリーの要素が強かった印象ですが、演奏シーンも丁寧でよく工夫されていたと思います」(タワーレコード広報部・寺浦黎さん)など、コミカルでおしゃれな会話を彩る弦楽四重奏という大人の世界観に魅了された人が多かったようだ。
「坂元裕二さんの作品は会話劇に目がいきがちで、今でも『唐揚げにレモンかけるか論争』を覚えている方は多いと思いますが、いわれてみれば音楽家たちの物語。
劇中音楽も楽器を手にした4人のたたずまいも素敵でした。椎名林檎さんが書き下ろした主題歌『おとなの掟』もこの4人が歌っていて、カッコよかったです」(カトリーヌさん)
そして2位とは倍以上の得票数で断トツの1位に輝いたのは『のだめカンタービレ』('06年 フジテレビ系)。
「ドラマの影響で吹奏楽部に入り、大学まで音楽を続けることに。劇中に登場する楽曲がどれも印象的で、いつかこの曲を演奏したいという目標にもなっていました」(山野楽器営業推進部・女性)、
「堅苦しいイメージがあるクラシックのハードルを下げて、老若男女幅広い層に親しみやすい形でドラマ化していた」(タワーレコード新宿店・熊谷祥さん)と、この作品でクラシック音楽の魅力に気づき、ハマった人たちも多かったようだ。
「コメディーのイメージが強いですが、実は数ある音楽ドラマの中でも最も音楽と向き合っていた作品で、それぞれの楽曲の背景まできちんと触れられているんですよね。
一方でラブストーリーとしても素晴らしく、のだめ(上野樹里)と千秋先輩(玉木宏)がトラウマを克服していく人間ドラマでもあるという、三拍子も四拍子もそろった作品。
漫画的表現もうまく取り入れており、これほど幸福な実写化作品はないですよね」とカトリーヌさんも絶賛だ。
6位以下を見てみると、7位には宮藤官九郎脚本『あまちゃん』('13年 NHK総合ほか)がランクイン。
これも音楽もののイメージは薄いが、「ヒロインがアイドルの道を歩む過程で現代のアイドルシーンが描かれる一方で、宮藤氏の'80年代カルチャーへの目配りと昭和アイドルオマージュが結実。『潮騒のメモリー』は時代を超えた名曲として物語を彩った」(タワーレコード仙台パルコ店・平林大樹さん)と“アイドルと時代”を見事に描いた名作だった。
「今の『不適切にもほどがある!』もそうですが、宮藤官九郎作品のオリジナル楽曲って本当にクオリティーが高い。『あまちゃん』では独自のアイドル論が面白おかしく描かれ、『ふてほど』では訴えたいテーマを歌で表現。これほどドラマで音楽をうまく使っている作家さんはいないと思います」(カトリーヌさん)
流行りの音楽を聴けば自然とその時代を思い出す。音楽ほど時代性を表現するのに適したモチーフはないだろう。時代とともにその形も変化しており、これからも新しい音楽ドラマが作られていくのは間違いない。
音楽ドラマベストテン
1位 『のだめカンタービレ』 21票
'06年 フジテレビ系 出演/上野樹里
2位 『カルテット』 10票
'17年 TBS系 出演/松たか子
3位 『パリピ孔明』 9票
'23年 フジテレビ系 出演/向井理
『リバーサルオーケストラ』 9票
'23年 日本テレビ系 出演/門脇麦
5位 『エール』 7票
'20年 NHK総合ほか 出演/窪田正孝
6位 『仰げば尊し』 6票
'16年 TBS系 出演/寺尾聰
7位 『あまちゃん』 5票
'13年 NHK総合ほか 出演/能年玲奈(現・のん)
8位 『美男ですね』 4票
'11年 TBS系 出演/瀧本美織
9位 『君の花になる』 3票
'22年 TBS系 出演/本田翼
『傷だらけのラブソング』 3票
'01年 フジテレビ系 出演/高橋克典
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取材・文/蒔田陽平