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「友人の紹介なら大丈夫だと思った僕がバカでした」

 こう話をするのは、アニメやマンガの世界をステージで表現する2・5次元舞台に出演している若手俳優のA氏

 犯罪行為の見返りに、高額な報酬を提示される“闇バイト”。若者たちが軽い気持ちで応募して、後戻りができない深みにはまっているケースも。現代の社会問題となっているが、A氏も甘い言葉に誘われて、知らぬうちに、闇バイトに手を出してしまった。

“携帯の契約だけで最低4万円”

「2023年4月のことでした。舞台で共演したことのある友人からLINEで“携帯の契約をするだけで最低4万円もらえるけど、やらない?”と連絡がありました。僕がバイトをして月に稼ぐ額は10万円ほど。ただ、舞台の仕事が入ると、バイトもあまり入れられなくなり、さらに収入が激減してしまうんです。舞台のギャラも雀の涙で……。誘いが来たときは、ちょうど舞台の仕事をしていて、生活するためのお金が足りない時期でした」(A氏、以下同)

 誘ってきた友人は、大手芸能事務所に所属する俳優だ。その俳優仲間から紹介されたのが、Bという男だった。

「後で調べてわかったことですが、Bは2020年に慶應ボーイコンテスト、通称“ミスター慶應”のファイナリストに選ばれた男と一緒に、女性に代わるがわる性的暴行をする事件を起こし、強制性交などの容疑で逮捕されていました。その後、不起訴になったようですが……

 そのBが、今は闇バイトの斡旋に関わっている可能性が高いという。

「危ない仕事じゃないのかと、Bにも電話で聞きましたが“問題ない、大丈夫”と言う。僕も友人が紹介してくれた話なら大丈夫だと思って、引き受けてしまいました。Bからは、携帯の契約と受け渡しをするだけで日当5万円を支払うと言われたんです。正直にいえば、生活はカッツカツだったので、5万円という報酬に目がくらんでしまい……」

 2023年5月16日、Bの指示に従ってA氏は、都内にある複数の携帯ショップを訪れ、スマートフォン4台を購入した。

「その後、携帯の引き渡しのため指定された場所でBと落ち合ったんです。金髪にジャージ姿でやって来たBは、携帯を受け取ると、当初言っていた日当に少し色をつけた6万5000円を支払って去っていきました。後払い決済サービスやクレジットカードを利用して支払った携帯の購入代金は、全部で72万円。この代金はBから毎月分割で支払うと言われていましたが、1回だけ8444円が振り込まれて以降入金はなく、連絡がつかなくなりました

 結局のところ残ったのは、多額の負債だった。

Bからは、ほかにも携帯を契約してくれる人を紹介したら、現在の負債分は即座に全額払うと言われていました。僕を勧誘した友人も同じように言われて、僕に声をかけたようです。後々聞くと、友人は消費者金融からお金を借りて、購入代金を立て替えたことで200万円ほどの借金を負ったみたいで……。彼も別の俳優仲間に誘われて手を出したそうです。ほかにも若手の俳優が何人も被害に遭っていますが、お金が返ってきた人は誰もいません

 A氏は今も、携帯代金を支払い続けている。

毎月3万円ほど支払わなければならず、生活はさらにギリギリ。警察にも相談しましたが、現状は僕がBに言われて商品を買っただけになっているので、警察としては動けない、と。また“SIMカードが入ったまま渡していたら、犯罪組織に悪用される可能性もあったぞ”と、すごく怒られてしまい……」

携帯ショップに蔓延る“手配師”の存在

 闇バイトの怖さは、自身も犯罪者に陥る可能性があること。法律事務所Z依田俊一弁護士は、

「携帯ショップに対して目的を隠して契約をしているため詐欺罪が成立する可能性がある。携帯電話不正防止利用法にも抵触する可能性がある」

 と話す。つまり携帯ショップやキャリアが被害者ということ。だが、A氏はある不審な点があったと明かす。

「事前に回線契約をした格安SIMから乗り換えるため、大手キャリアの携帯ショップを訪れたときのことです。Bからは“あくまで本人が使うという前提で、契約をお願いします”“端末未開封でお願いしますと伝えてください。これはショップ側もわかっていると思います”と連絡がありました。しかし、ショップでは“未開封でのお渡しはできません”の一点張りで」

 困ったA氏は、Bに連絡したという。すると、

「Bが携帯ショップに連絡をしたところ、担当者が別の男性に代わったんです。そして“Bさんの紹介なら大丈夫です”と言って、未開封のまま引き渡してもらえました。急に発言が一転したので、店員もグルだったのかも……」

 ショップ側も闇バイトに加担していたのか。『週刊女性』は、A氏が訪れた携帯ショップの運営会社に問い合わせたが、

「原則、未開封のまま携帯電話を販売することはありません。弊社スタッフが闇バイトに関与しているとのご指摘については調査しておりますが、現時点ではそういった事実は確認できておりません」

 大手キャリアにも連絡してみたが、

「動作確認などで店頭にて開封するケースはございますが、すべてのお客様へ開封をご案内するなどの規定はありません。販売店スタッフが闇バイトに関与しているとの指摘について、弊社調査では確認できませんでした」

LINEアカウントから誘導される詐欺事例

 との回答。違法な契約や転売行為が相次いでいることは携帯ショップやキャリアも把握しているはず。にもかかわらず、携帯ショップの回答と矛盾する“客に開封を案内する規定がない”というキャリアの言い分は、責任逃れのようにも感じる。とある携帯ショップの社員は、その背景についてこう話す。

「携帯ショップは、大手キャリアから厳しいノルマを課されています。ノルマの達成ができないと、販売奨励金が減額され、ショップの経営が立ちゆかなくなってしまう」

 そこで登場するのが“手配師”と呼ばれる存在だ。

手配師は“転売ヤー”と組み、求めに応じてノルマに届かない店舗で携帯の契約をしてくれます。だから携帯を自身で使う目的でない客だと気がついていても、黙認するケースもあります。携帯契約の“闇バイト”があることは認識していますが、店側も追い詰められている状況。携帯ショップもキャリアも、手配師の存在について知りつつも、知らないフリをしているはずなのです

 こうした歪な構造を、Bも利用したのだろうか。

 『週刊女性』はBに話を聞くべく、LINEで連絡をしてみた。通話には出ず、メッセージで《どちら様ですか?》と返答があり、そこで記者だと名乗って質問を送ると既読にはなったが、返答はなかった。

「知らぬうちに犯罪に加担してしまう状況が、本当に怖いと思います。こうやってお話しすることで、これ以上、被害が拡大しないことを願います」(前出・A氏)

依田俊一 慶應義塾大学卒、東京大学法科大学院修了。M&A、事業承継、芸能・広告案件に強みを持つ。現在は、法律事務所Zのパートナー弁護士/デジタルエンターテイメントコンソーシアムアドバイザー弁護士として活動