1月にスタートした冬のドラマも佳境に入る3月。中には、すでに最終回を迎えた作品もあるだろう。
それらのうち『春になったら』(フジテレビ系)、『不適切にもほどがある!』(TBS系)、『厨房のありす』(日本テレビ系)の3作品は、妻、あるいは母を失った主人公が登場する“父娘ドラマ”。
また、『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS系)も、ちょっと変わった父と娘の関係に焦点を当てている。それぞれ楽しんだ人も多いはず。
忘れられない「父と娘ドラマ」
芸能リポーターの山崎寛代さんは、父娘ドラマの魅力についてこう解説する。
「'70年代、'80年代の父娘ドラマは、コミカルな人情ものが多くありました。当時は、家庭よりも仕事優先の男性が大半で、今よりもシングルファーザーが珍しい時代なので、男手一つで娘を育てる父親はファンタジーに近い印象でしたね。しかし、平成から令和にかけて、新たな切り口の父娘ドラマも登場しているので、時代の変化も見どころです」
父娘ドラマは時代を映す鏡なのかもしれない。そこで週刊女性では、45歳以上の男女にアンケートを実施。心に残る父娘ドラマを調査した。
女性ランキング第5位は、草なぎ剛主演の『僕と彼女と彼女の生きる道』(フジテレビ系)。仕事人間で妻に三くだり半を突きつけられた夫・小柳徹朗(草なぎ剛)と、父とともに家に残された一人娘の凛(美山加恋)が心を通わせる過程を描いた感動作。
コメントでは「娘と暮らしていくうちに、少しずつ父親としての自覚が目芽える様子は、人間味にあふれていて良かった」(東京都・54歳・女性)、「草なぎ剛の演技が秀逸」(茨城県・46歳・女性)など、出演者の名演が票につながった。
一方、男性ランキングの5位は『はぐれ刑事純情派』(テレビ朝日系)。同作は故・藤田まことさんの名作刑事ドラマシリーズだが、彼が演じた安浦吉之助刑事には、亡き妻が残した2人の娘(小川範子・松岡由美)を育てるシングルファーザーという一面も。事件解決後に映し出される安浦家の日常を心待ちにしていた人も多い。
「血縁関係がない父娘でも、仲睦まじく暮らせるのはいいな、と感じた」(福岡県・63歳・男性)といった、血がつながらない娘たちと仲良く過ごす継父の姿に憧れる声も寄せられた。
女性ランキング4位の『おかしな刑事』(テレビ朝日系)もまた、人気の刑事ドラマであり父娘作品だ。ベテラン刑事の父・鴨志田新一(伊東四朗)と、鴨志田と離婚した妻の旧姓で生活するエリート警視の娘・岡崎真美(羽田美智子)。そんなふたりが、周囲に関係を隠しながら事件解決に奔走する異色作だ。
「“おかしな”というタイトルどおり、ユニークな父娘関係が魅力でした。羽田さん演じる真美は、エリートながらとぼけたところがあって可愛らしかったです」(山崎さん)
山崎さんと同じように「家でも、父親のことを『鴨志田さん』と名字で呼んでしまうシーンが微笑ましい」(埼玉県・52歳・女性)との真美を推す声も多数。今年1月、惜しまれながら20年のシリーズに幕が下りた。
続いて女性ランキング3位の『パパはニュースキャスター』(TBS系)は、男性ランキングでも4位にランクイン。故・田村正和さんが父親役を務めるパパシリーズの代表作のひとつだ。田村さんが演じたのは酒癖と女癖の悪いニュースキャスター・鏡竜太郎。独身貴族を謳歌していた彼のもとに「娘」を名乗る3人の少女が現れ、共同生活を送るホームコメディーだ。
女性アンケートでは「クールな田村正和が、おてんば娘たちに振り回される様子に大笑いした」(千葉県・48歳・女性)や「ありえない設定でコメディー色が強かったが、時折感動するシーンがあり、思い出深い」(大阪府・47歳・女性)などの声が集まった。コメントにあるとおり、同作には“ありえない設定”が満載。
そのひとつが、母親の異なる娘たちの名前が全員「愛(めぐみ)」というもの。竜太郎は「もし女の子が生まれたら愛情の愛と書いて『めぐみ』にする」という口説き文句のせいで、全員同じになったという名前の由来も印象的。
男性陣からは「15年前、新入社員に『愛(めぐみ)』という女性がいたので、このドラマを思い出した」(神奈川県・63歳・男性)というエピソードが寄せられている。
「若いころは生粋の二枚目俳優で“父親”のイメージがなかった田村さんですが、'80年代半ば以降、二枚目半の父親役で新境地を開きました。特にこの作品の場合は、奇抜な世界観に説得力を持たせるためにも、田村さんの“カッコよさ”は欠かせない要素でしたね」(山崎さん)
父を尊敬する娘が大ヒットの要因に
男性ランキングの第3位は、故・石立鉄男さん主演作の『パパと呼ばないで』(日本テレビ系)。気ままな独身男・安武右京が、姉の死をきっかけに姪の千春(杉田かおる)を引き取り、子育てに奮闘するホームドラマだ。作中、千春は「チー坊」と呼ばれ、ファンから親しまれた。
「おませなチー坊と、それに手を焼く右京との掛け合いはお見事。脚本家のひとりに、ホームドラマの名手・向田邦子さんが名を連ねており、子どもから大人まで楽しめる作品になっています。下宿先の大人たちが育児を助けてくれたり、チー坊が『サザエさん』のワカメちゃんのような短いスカートをはいていたりするのも昭和っぽくて懐かしいです(笑)」(山崎さん)
アンケートでも「チー坊の演技が最高」(兵庫県・65歳・男性)、「実の親子よりも仲が良く、お互いを思いやるふたりの姿になかなか考えさせられた。笑って泣ける痛快なドラマだった」(東京都・62歳・男性)など、叔父と姪の父娘物語に思いをはせる声が多く集まった。
続いて、男性アンケートで148票を獲得し、2位にランクインしたのが『下町ロケット』(TBS系)だ。父が残した町工場を継ぎ、妻と離婚した主人公・佃航平を阿部寛、一人娘の利菜を土屋太鳳が演じた。
池井戸潤氏の小説をドラマ化した同作は、倒産寸前の町工場が舞台の“お仕事ドラマ”であり、男性ファンも多い。父娘要素も盛り込まれているため、アンケートでは“モーレツ社員世代”から「『パパ、私のことしっかり見ててよね』との娘の訴えを仕事上の課題解決につなげてしまう仕事バカの父親が印象的だった」(神奈川県・68歳・男性)、「父を尊敬している娘の姿が素敵だった」(北海道・62歳・男性)とのコメントが多く並ぶ。
「『下町ロケット』の父娘は、あくまでサブストーリーですが、娘の利菜も父と同じ技術者の道に進みますよね。父の意志を娘が継ぐ、というドラマに心をつかまれた男性も多かったようです」(山崎さん)
実際に「父の背中を見て育った娘が、同じ技術者を目指す関係性にグッときた」(香川県・70歳・男性)との声も。『下町ロケット』には、働く男のロマンが詰まっている。
自分を投影しやすい作品に心惹かれる
女性ランキングで1位に輝いたのは'19年放送の『監察医 朝顔』(フジテレビ系)。同名漫画が原作の『朝顔』は、父娘の切ない過去が物語の核となっている。東日本大震災で母を亡くした法医学者の娘・万木朝顔(上野樹里)と、妻の遺体を捜す刑事の父・平(時任三郎)のふたりが、さまざまな事件を通して遺体の「生きた証」を探るストーリー。第2シーズンでは平が認知症を患ってしまい、娘家族の助けを借りながら生活する姿も描かれる。
重いテーマを扱っているため「認知症になった父のために何ができるのかを模索しながら、監察医として頑張る朝顔の姿に涙」(愛知県・67歳・女性)、「被災や親の認知症など、誰にでも起こりうる題材が心に刺さった」(滋賀県・52歳・女性)との声が多くあがった。女性視聴者は、父娘ドラマの娘役に自らを投影するのかもしれない。
子役の成長が楽しみになった名作ドラマ
一方、男性ランキングの1位に選ばれたのは『池中玄太80キロ』(日本テレビ系)。「娘たちを食事に誘ったものの、支払いに不安がよぎり、トイレの個室で財布の中を確認するシーンが忘れられない」(神奈川県・57歳・男性)や「妻を失った夫、母を失った子どもたち、それぞれが抱える共通の悲しみを時間をかけて受け入れる姿が丁寧に描かれていた」(千葉県・49歳・男性)との熱い声が寄せられている。
主人公の池中玄太を演じたのは名優・西田敏行。彼は3人の子どもがいる女性・暁子と結婚し、5人での生活をスタートさせた矢先、暁子が病死してしまう。それでも玄太は血のつながらない娘たちを自分が育てると決意する。
同作は女性ランキングでも2位に入り「子どもながらに感動した。主題歌の『もしもピアノが弾けたなら』が大好きで、自分でも演奏した」(宮城県・52歳・女性)や「思春期でしっかり者の長女を演じた杉田かおるの演技力にも脱帽」(北海道・52歳・女性)との声も。
「連続ドラマはパート3まで、スペシャルドラマも3作放送された人気作なので、三姉妹の成長を追える楽しさがありましたね。長女の絵理を演じた杉田さんは、チー坊時代から演技に磨きがかかっていましたね。周囲の人の助けを借りながら、子育てに奮闘する玄太は、とても素敵なお父さんでした」(山崎さん)
同作は、間違いなく“父娘ドラマの金字塔”といえる。
最後に山崎さんは「男女の違いがよく表れた興味深い結果だった」と総括する。
「ヒットした父娘ドラマには、父役はもちろん娘役も魅力的、という共通点があり、見返したくなりました。最近は重厚な題材の父娘ドラマが多いですが、たまには『パパと呼ばないで』のようなカラッとした人情ものも見たいですね」(山崎さん)
時代とともに変化している父娘ドラマ。今後の作品にも期待大だ。
OVER45に聞いた印象に残っている“父と娘”のドラマ
【女性】
1 『監察医 朝顔』
父:時任三郎 娘:上野樹里(2019年・フジテレビ系) 170票
2 『池中玄太80キロ』
父:西田敏行 娘:杉田かおるほか(1980年・日本テレビ系) 143票
3 『パパはニュースキャスター』
父:田村正和 娘:西尾まりほか(1987年・TBS系) 138票
4 『おかしな刑事』
父:伊東四朗 娘:羽田美智子(2003年・テレビ朝日系) 98票
5 『僕と彼女と彼女の生きる道』
父:草なぎ剛 娘:美山加恋(2004年・フジテレビ系) 84票
6 『やまとなでしこ』
父:小野武彦 娘:松嶋菜々子(2000年・フジテレビ系) 75票
7 『はぐれ刑事純情派』
父:藤田まこと 娘:小川範子ほか(1988年・テレビ朝日系) 74票
8 『パパと呼ばないで』
父:石立鉄男 娘:杉田かおる(1972年・日本テレビ系) 71票
9 『下町ロケット』
父:阿部寛 娘:土屋太鳳(2015年・TBS系) 63票
10 『しずかちゃんとパパ』
父:笑福亭鶴瓶 娘:吉岡里帆(2022年・NHK) 45票
【男性】
1 『池中玄太80キロ』
父:西田敏行 娘:杉田かおるほか(1980年・日本テレビ系) 185票
2 『下町ロケット』
父:阿部寛 娘:土屋太鳳(2015年・TBS系) 148票
3 『パパと呼ばないで』
父:石立鉄男 娘:杉田かおる(1972年・日本テレビ系) 142票
4 『パパはニュースキャスター』
父:田村正和 娘:西尾まりほか(1987年・TBS系) 110票
5 『はぐれ刑事純情派』
父:藤田まこと 娘:小川範子ほか(1988年・テレビ朝日系) 91票
6 『おかしな刑事』
父:伊東四朗 娘:羽田美智子(2003年・テレビ朝日系) 77票
7 『監察医 朝顔』
父:時任三郎 娘:上野樹里(2019年・フジテレビ系) 65票
8 『パパとなっちゃん』
父:田村正和 娘:小泉今日子(1991年・TBS系) 33票
8 『やまとなでしこ』
父:小野武彦 娘:松嶋菜々子(2000年・フジテレビ系) 33票
10 『しずかちゃんとパパ』
父:笑福亭鶴瓶 娘:吉岡里帆(2022年・NHK) 31票
※インターネットアンケートサイト「Freeasy」にて2月中旬、全国の45歳以上70歳未満の男女各1000人を対象に選択方式で実施
取材・文/大貫未来(清談社)