現在は夫とともにパリに住むゆかさん。写真提供=徳間書店(撮影:松園多聞)

「夫は最近、肉を焼くことにこだわっていて。低温調理器で数時間調理して、最後に熱々の鉄のフライパンで表面を焼いたステーキがおいしいです。あとチキンビリヤニも」

 “論破王”の異名でおなじみの実業家・ひろゆきこと西村博之氏。彼の妻である西村ゆかさんのエッセイ『転んで起きて 毒親 夫婦 お金 仕事 夢 の答え』(徳間書店)が注目を集めている。ふたりの出会いはひろゆき氏が2ちゃんねるの管理人だったころ。そこから同棲、結婚、パリ移住と、20年にわたる期間を共に歩んできた。

毒親に苦しめられてきた過去

 冒頭の言葉は、ゆかさんが好きなひろゆき氏の手料理について。Webディレクターのゆかさんは、あるとき「私の家事負担が大きすぎる」ことから、ひろゆき氏に「家事1日交代制」を提案されたという。

《と言っても、ひろゆき君は掃除が大嫌いで、洗濯物も真っ直ぐ干せない。だから、実際のところは、ひろゆき君は夕飯を作っているだけなのだけれど、それでも私の負担はぐんと減った》(『転んで起きて 毒親 夫婦 お金 仕事 夢 の答え』より。《》内は以下同)

 逆にひろゆき氏が好きなゆかさんの手料理は、カレーライスやそぼろごはんなど「日本の給食みたいな料理」だそう。

 また夫婦ゲンカはテキストメッセージで、という斬新さ。

「お互い気が強いので、直接話すとなかなか引かないんです。ヒートアップしてケンカになりがちなので、夫が“揉めごとはテキストでやろう”と。最初は“私としゃべるのが嫌なのかな”とショックで寂しかったんですけど、始めたら全然角が立たないし、問題点が伝わりやすい。ケンカも多少減りました」

ひろゆきは「自分で選んだ家族」

 ゆかさんといえば、「妻が掃除が好きで」と生配信中に発言したひろゆき氏への、「好きじゃねーよ」というツッコミが話題になったことも。今でも掃除は「好きじゃないです。きれいな状態は好きですけど、他の人がやってくれるなら、もう全然やってほしいです」と苦笑。

《ひろゆき君と暮らすようになり、ちょっとでも気を抜くと、鼻をかんだティッシュが床に散らばるようになった。そして、洗濯した服とこれから洗濯に出す服をごちゃ混ぜにされた。あるいは、いつ使ったかわからないマグカップがそこかしこに並んだ》

「たぶん気になる基準が違うんです。食事の後にテーブルを拭くとか、洗い物をして最後に流しの周りを拭くとか、私は普通だと思うんですが、夫は料理をしてコンロに油が飛んでもそのまま。でも、まあいいか、その最後のところは私がやろう、みたいな感じです」

 そんなひろゆき氏との夫婦生活。これまでに倦怠期はなかったのか尋ねると、

「ないですねえ。まったく刺激がないような生活に、むしろちょっと憧れます(笑)」

《小さな子に言い聞かせるようなことを、アラフィフという、もう十分に大人であろう相手に、日々言い聞かせているのが西村家なのである》

 ゆかさんにとってひろゆき氏は“自分で選んだ最初の家族”。ハプニング続きでもどこかほのぼのとした日常生活が目に浮かぶ。

 だが、ここに至るまでの半生は平坦なものではなかった。エッセイには母との確執や摂食障害など、壮絶な体験が綴られている。

摂食障害と母との関係

 1歳半で両親が別居し、4歳のときに離婚。その後、母はギャンブルに手を出し、借金をするようになった。母と大ゲンカしたゆかさんが部屋の窓から飛び降りようとした、中学時代のエピソードが強烈だ。

《「わかった。じゃあ、ここから飛び降りて死ぬね」/泣きながらそう言って、母の顔を見た。(中略)/でも、母は表情ひとつ変えずに「バカじゃないの」と言った》

 家を空けることも多く、どうして帰ってこなかったのか尋ねるゆかさんに、「あんたの顔を見たくなかったからよ」と吐き捨てたこともあった。中でもキツかったのは、借金にまつわることだったという。

「母は親族からも借りていたので、“返してってお母さんに言って”と、私が間に立たされて。子どもだったからばか正直に母に伝えると、気を悪くして私に冷たくなり、今度は親族に“もう少し待ってって怒ってた”とそのまま伝えて、また私に怒りをぶつけられ……。

 いつも顔を合わせている人たちだったので、巻き込まれている状態がずっと続いているのが心理的にとてもつらかったです」

 また中学生のころから、家には母の彼氏らしき人が出入りするようになり、それもゆかさんの心を蝕んだ。

《むしゃくしゃした気持ちの反動で、コンビニで大量にお菓子を買い込んだ。そして、それを一気に食べ尽くした。ものすごく気持ちが悪くなり、トイレで吐いた。/胃から、さっき食べたアップルパイが出てきた。/嫌な気分が一緒に出ていったような不思議な爽快感があった。/その爽快感が私の心を捉えてしまったのである》

 そこから12年、過食嘔吐に苦しむことになる。だが、治したいと思うようになるまでには長い時間がかかった。

「母はギャンブル依存症でしたが、私の摂食障害も一種の依存症のようなものだったのかなと。吐くとほんの一瞬だけ、嫌なことが全部外に出て楽になった気になる。異常な行動だと今はわかるんですけど、当時は“この手段まで奪われたら自分はどうすればいいんだろう”と思っていたんです」

 25歳を過ぎたころ、転職先の職場にあまりなじめなかったことや、当時付き合っていた人との別れなどから、症状はどんどんひどくなる。

「1日に5回くらいコンビニでお菓子を買い込んで、トイレで食べて全部吐いて、スッキリして、また仕事。食費だけで月に15万〜20万円くらい使って、ストレス発散で買い物もして借金もかさんで。さすがにヤバいと気づいたんです」

 そこで初めて、自分の症状が摂食障害であり、病院に行かなくてはいけない状態であることを知る。このころ、ひろゆき氏との出会いが。そして彼の言葉が、ゆかさんの背中を押した。

「彼は“僕はこう思うから、こうしろ”ではなく、“どうしたいと思ってるの?”と、こちらが自分で考えて答えを出せるように、話を導いてくれる人。それで私も“本当にちゃんと治さなきゃいけないんだな”と気づけたんです」

 ゆかさんの過酷だった道のりに、SNSでは共感の声が上がっている。そんな人々へのメッセージをお願いすると。

「“大丈夫だよ、なんとかなる方法はあるかもしれないから”ということと、一歩踏み出す勇気を読んで感じてもらえたらうれしいです。そしてもし今、昔の私のように毒親で苦しんでいたら、とりあえず逃げ切ってと。逃げていいし閉じこもっていいから、とにかく自分を守って、と伝えたいです」

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取材・文/今井ひとみ