「お金が欲しい」「もっと増やしたい」──誰もがそう願うもの。何らかの手立てを知りたいが、「仏教」にその術を求める人は少ないだろう。
仏教から教わる「お金の考え方」
「少し意外かもしれませんが、仏教では在家者に対し、財産の作り方についても詳しく指南しています。普遍的な人間の不安や苦しみに向き合い、解決してきた『智慧』が受け継がれています」
こう話すのは、愛知県にある佛心宗大叢山福厳寺住職、大愚元勝和尚。僧侶、事業家、作家、講演家、セラピストとさまざまな顔を持ち、YouTubeでも情報発信。「僧にあらず俗にあらず」を体現する、異色の人物だ。
「仏教の経典のひとつに『シンガーラ経』というものがあります。そこでお釈迦様は大富豪の息子であるシンガーラに、財産の作り方について説いています。
教えの基本は、自分の収入を4分割にして使うこと。
1つ目は生活費、2つ目は貯蓄、3つ目は欲しいもの、好きなことに使う“今”への投資、4つ目に勉強をする、新たな技術を身につけるための“将来”への投資をすることをすすめています」(大愚和尚、以下同)
一般にも、貯金に回す割合は2~3割が理想とされてはいるものの、生活費の割合に驚いた人は多いはず。
「例えば1か月に20万円の収入があったとします。その20万円を4分割すると5万円ずつに振り分けられます。
“今どきその額で生活できるわけがない”と思う人もいるでしょう。けれども大切なことは、“5万円では生活できない”と決めつけるのではなく、“どうしたら5万円で生活できるか”を考え、工夫することが大切なのです」
“欲”を抑えて心を育てればお金は増える
しかし、なぜ収入の半分も“自己投資”が必要なのか。景気の悪い昨今、生活していくのに精いっぱいで、多くの人は貯金はおろか自己投資にお金をかけられない気が……。
「そうでしょうか。食べたいものも食べられない、買いたいものも買えない。そんな生活を送っているでしょうか?
経済発展を遂げた現在の日本では、日々の暮らしに困るほど貧しい家庭はあまり見られなくなりました。にもかかわらず、生活苦を感じて貯金もできない世帯が後を絶ちません。それはお金の使い方に問題があり、そこには『欲』が影響しているのです」
欲は仏教用語でいう煩悩のひとつだ。
「煩悩のうち、人をもっとも毒するのが『三毒』と呼ばれる『貪・瞋・痴』です。貪は欲望や執着、瞋は怒りや憎しみ、痴は無知や誤解を指しますが、この状態に陥ってしまったら消費行動に拍車がかかりやすくなり、財産を失うとされます」
例えば、仕事や家庭でイライラやストレスが募ったとき、買い物などをして嫌な気持ちを発散したくなるもの。
「手っ取り早く『快』を得られるのが消費です。その人にとって、高額であるほど満足感とともに大きな快を得られます。ですが日々の不快を消し去るために散財していたら、お金は貯まりませんね」
消費そのものが悪というわけではない。問題は、十分満たされていながら、「もっと、もっと」と欲しがることにある。
「仏教の世界では、私たちが必要以上のものを激しく求める、欲を欲するとき、その行いをいさめます。その対処法として、『心』のあり方が大切なのです」
真の資産家はブランドバッグよりもビニール袋
「足るを知る」という言葉がある。欲張らず現状の物事に満足すること。その状況に感謝し、受け入れることで心が豊かになる例えでもある。
「仏教にも“まだ得られていないものを欲せず、すでに得られているもので満足する。そうすれば心穏やかに生きられる”といった教えがあります。欲が多すぎると苦しみや煩悩に陥りやすくなり、結果的に財を失うことになりかねません」
しかし、人は収入が増えれば増えるほど、いい家に住み、いい車に乗り、ブランドバッグを持ちたがるもの。
「ところが、真のお金持ちほど暮らしぶりは地味で堅実なのです。勤勉に働き、決して派手な生活は送っていません。他人をうらやんだり、比較することもない。自分なりのスタイルを守り、ルールに従って長い目で見てしっかりと資産を築いています」
大愚和尚の知る資産家のひとりは意外にも地元の小さな花屋さんだという。
「朝早くから夜遅くまで働き、堅実に商売を守られています。生活や見た目に派手さが一切ないため、誰も資産家とは気づきません。高級ブランド品のバッグではなくビニール袋を持って歩いておられますよ。心穏やかに気負わない日々を送られていることが感じられます」
さらに、真のお金持ちは仏教の教えで重要とされる「慈悲心」を備えているとも。
「慈悲心とは相手をいたわり、苦しみや悲しみを取り除き、喜びを与えることです。それは、お金の使い方にも表れるんです。
自分だけでなく、人のためにお金を使うことを惜しまない。お金がなければ知識や経験を惜しみなく提供する。
そうすれば、相手は与えられた喜びを返したくなりますよね。結果、お金や人が複利で集まり、人生も資産も豊かになっていきます」
冒頭で紹介した収入の半分の自己投資は、こうしたお金の使い方を理想とする。実際、それを体現する生き方をした人物がいるという。
「『日本の公園の父』であり、“蓄財の神様”と称される本多静六氏です」
本多氏は貧乏な農家に生まれながらも東大教授にまで上りつめた。そして、造園家として明治神宮の森や日比谷公園など日本を代表する公園の設計を手がけている。
「徹底した倹約生活のもと、お釈迦様が唱えた『収入の4分の1貯蓄』を実践。少し貯まったら投資を行い、また造園事業を通じて社会に貢献し、現在の価値で約100億円の資産を築きました。そして晩年、ほぼ全財産を寄付して人生を終えるのです。同氏の著書をぜひ、読んでほしいですね」
家計を見直すよりも生き方を見直すべき
「今だけ、お金だけ、自分だけ」の生き方をしていないだろうか。そんな生き方をしていたら、欲しているはずのお金に逃げられ、貧しくなるばかりだと大愚和尚は語る。
「今だけでなく将来のことを考えると、ムダなお金は使わなくなります。次に、お金に支配されてストレスをためていた時間を、やるべき仕事や勉強に使ってみてください。
そして、人のために何かすることを心がけましょう。生き方を見直すことは、心と財産を育てることに通じます」
収入を常に「貯蓄、将来への投資、生活費、今への投資」と4分割して振り分けること。そして、この優先順位をしっかり守れば、着実に貯金が増え、お金に対する不安は減っていくのだ。
お金がないと嘆く前に知るべき5つの教え
一.自分の心と将来に投資をする
二.必要以上のお金を欲さない
三.お金より人徳という財産をつくる
四.イライラして文句ばかりの人にお金は集まらない
五.与えられた仕事以上のことをしてみる
取材・文/百瀬康司