おにぎり屋『ぼんご』

 東京・大塚駅前、路面電車の線路脇には毎日長い行列ができる。開店は11時半だが1時間前には客が並び出し、土日祝日には3時間以上並ぶこともざら。

 待ってでも食べたいのは、女将(おかみ)の右近由美子さん(72歳)らが握る“至高のおにぎり”だ。その最大の魅力は、食べたときにご飯が口の中でほろっとほどける食感。

お米の炊き方、握り方にこだわりの職人ワザ

「うちのおにぎりは『握らない』んです。ご飯は握った分だけかたくなってしまうの。作るときはご飯や具をまとめて“形を整える”イメージです」(由美子さん、以下同)

 今回は週女読者のため、自宅で『ぼんご』のおにぎりを再現するポイントを伺った。

「ご飯は新潟県岩船産のコシヒカリを使っていますが、おにぎりにはお米の粒が大きいほうが空気が入っておいしいですよ。炊きたてのご飯にはお米の表面に余分な水分がついているので、炊き上がったらすぐ、切るように混ぜて水分を飛ばすのも大切です

 温度が70~80℃になってから、おにぎりにしていく。

「手で取るには少し熱いですが、ご飯が熱くないとおいしくないですし、むしろ作りやすいです。冷めるとご飯が団子になっちゃうんでね」

 店では握るスピードを上げるために型を使用するが、家庭ではまな板や茶碗、皿の上にぽんとのせてもいいそう。

「特製の塩を手に取り、最後に3回程度で形を整えます。ご飯のフワフワ感をうまくまとめてほしいので、のりは少し厚めのものが向いています。『ぼんご』では一級品を使っていますが、最近は価格が上がって困っちゃうわよ」

1日に1500個以上のおにぎりが出るため、仕込みは1日中。厨房では、常時5人のスタッフがフル回転

定番の具材だけでなく新しい令和の味も開発

「お米とおかずを一緒に食べてもらう感覚なので、どれも具だくさんなんです。それに種類が多いと、毎日食べても飽きないでしょ(笑)」

 実は『ぼんご』は、由美子さんの夫が、誰にでも愛される店をやりたいと昭和35年に始めたもの。そこにお客として通っていた由美子さんが嫁ぐ。そのころすでに具が20種類ぐらいあり、生たらこや納豆入りは、まだ珍しかった。

 今では具の種類が58種類。そのほとんどが、お客さんとの会話の中でリクエストによって生まれていった。

「お客さんの意見はとても参考になりますよ。だからお客さんと話ができるように、カウンターしかないんです」 

 さまざまな人の意見を聞いて、完成までに1年半ほどかかったレシピもある。

「この店は、大塚という下町の人付き合いと、そこにやって来るお客さんがあってこそ。私は料理人でもなかったから本当に助けられたのよ。この大塚という町でやっているから、繁盛させてもらえてると思いますよ」

 メニューには「卵黄×肉そぼろ」「豚キムチ×納豆」など具を組み合わせたものも。

「お客さんも『今日はこの具の組み合わせを試してみよう』と、新鮮な味わいを楽しんでくれますね。お店を続けるのは大変ですが、わざわざ大塚に来て、並んでくれたお客さんがおにぎりをおいしそうに頬張る顔が、私の毎日の力になっています」

おにぎり屋『ぼんご』のおにぎり

究極のおにぎりを作る3大ポイント

1)2時間米を浸水させる

 米をといだら、水を入れた釜で2時間浸水させ、家庭用炊飯器なら早炊きモードで炊く。パラッと炊いたほうがおいしい

2)炊けたら蒸気を飛ばす

 炊けたご飯の蒸気が見えなくなるまで、上下にひっくり返しながらよく切る。それによって米がコーティングされる

3)ご飯を「握らない」

 握らないというのは、米をつぶさないということ。のりで包むことで食べやすくなる

究極のおにぎりを作る3大ポイント

米粒をつぶさない握り方

『ぼんご』流、握らないおにぎりの作り方を解説。自宅でもやってみよう!

(1)しゃもじで米を切るように底からすくい上げる

 炊き上がったら保温ジャーなどに移し、すぐに蒸気が見えなくなるまで、上下にひっくり返しながらよく米を切る。それによって米がコーティングされる。

(2)おにぎり2/3個分のご飯を丸めて置く

 水で濡らした手でご飯を取り、まな板や皿の上に軽く丸めて置く。後で上にまたご飯をかぶせるのでできあがりの2/3ほど(約150g)が目安。

(3)指で具を入れるポケットを作る

 具をたっぷり入れるため、ご飯の真ん中に、具を入れる穴をあける。

(4)好みの具をたっぷりのせる

 具を入れて表面をならす。『ぼんご』の具材の量は通常よりかなり多め。最初は自分の作りやすい量を入れてみて。

米粒をつぶさない握り方1〜4

(5)1/3個分のご飯を上にかぶせる

 具の上に1/3(約75g)のご飯をふたをするようにのせる。ふんわりと置くのがコツ。

(6)表面を3回ほど軽く押さえる《ココがポイント》

 両手に水と塩をつけ、(5)を手で包む。すぐ食べるなら塩は中指関節ひとつ、時間がたって食べる場合は人さし指と中指の関節2つ分までの手塩に。

(7)ご飯を動かしのりを巻く

 半切りにしておいた板のりをまな板に置き、どちらかの端に寄せて(6)を置く。ご飯がのっているほうを起こし、反対側に倒してのりを密着させる。

(8)のりの端をそろえ形を整える

 おにぎりを立てたらのりの端を合わせ、軽く押さえる。まな板の面におにぎりを当て、形を整えるとよい。好みで頂点部分に具材をのせる。

米粒をつぶさない握り方5〜8

定番のほか、新作も人気!「具材は“組み合わせ”も楽しい」

 お客さんが発案した具をいつも試している由美子さん。最近では複数の具材を組み合わせたおにぎりがバズっている。その中でまねしやすい種類をご紹介!

定番のほか、新作も人気!「具材は“組み合わせ”も楽しい」

・キムチの辛味と納豆のバランスが絶妙の『豚キムチ×納豆』

・コクとボリュームが楽しめる洋風味『ベーコン×チーズ』

・昆布のうまみとほどよい酸味がマッチ『しそ昆布×明太マヨネーズ』

・山ごぼうのコリコリの歯応えが人気『山ごぼう×青じそ』

右近由美子さん●新潟県生まれ。東京で働き出し、おにぎり屋『ぼんご』に嫁ぎ47年。シャキシャキの下町の女将さんとして人気。

教えてくれたのは……右近由美子さん●新潟県生まれ。東京で働き出し、おにぎり屋『ぼんご』に嫁ぎ47年。シャキシャキの下町の女将さんとして人気。


取材・文/宇野美貴子