刈り上げおかっぱに、パンツが見えるくらいの短いスカートの女の子─。といえば、国民的漫画『サザエさん』に登場する、ワカメを思い浮かべる人が多いのでは?そんな彼女を“主役”にした企画展が、東京・世田谷区にある『長谷川町子美術館』で開催されている。
サザエさんの次に多いワカメ
「(作者の)町子が雑誌で『わかめちゃん』というタイトルの漫画を連載していたことがありました。このことはあまり知られてなく、来館されるお客様にご紹介したいということで始まりました」
と、美術館で今回の企画展を担当した学芸員の長澤有記さん。
その狙いどおり、美術館の来館者からは、
「ワカメを主人公にした作品を初めて見たし、絵本になっていることも知らなかった」
という声が届いているという。1948年10月号の『少女の友』で連載を開始し、その後『こどもクラブ』『たのしい幼稚園』と3誌にわたって連載されていた『わかめちゃん』。
スピンオフ作品を描くほど長谷川さんにとって、ワカメというキャラクターは、特別なものだったようにみえる。
「『わかめちゃん』は出版社側からの要望などもあったかもしれません。ただ、『サザエさん』の連載を通してワカメは中心人物であり、表紙や扉絵にもサザエさんに次いで多く登場しています。町子はサザエが描きやすいキャラクターだと生前話していましたが、登場数の多さで考えると、ワカメに対しては同じくらい愛情があったのではないでしょうか」(長澤さん、以下同)
ワカメは作者の幼少期にそっくり!?
気になるのはワカメのモデルなのだが、いったい誰なのだろうか。
「町子は生前、ワカメのモデルについて雑誌などで何度か質問を受けているのですが、はっきりとは答えていないんです。身近にいた女の子たちのいろいろなしぐさや、格好などを参考にしたかもしれません。ですが特定のモデルについて、直接本人が言及したものは残っていないんです」
作品で舞台になっている時代、町にはワカメのような格好の女の子が普通だった、と長澤さんはこう続ける。
「私もその時代を直接見たわけではありませんが(笑)、戦前や戦後の雑誌や新聞を見ると、ワカメのようなスカートが短い子はたくさんいたようです。あと、町子の幼いころもワカメにそっくりの髪形をしていました。町子が自分の幼少期を描いた絵がありますが、本当にワカメそっくりなんです。ですから自分自身を含めた、あの時代にいた女の子の姿なのかなと思います」
この企画展には、いつも以上に家族連れの来館者が目立つ、と長澤さん。中にはおしゃべりができるようになったばかりの、2~3歳の子どもがポスターを見て「わかめちゃん」と喜んでいる姿があったという。
「企画展では、『わかめちゃん』が掲載された実際の雑誌を展示しています。その原画も一緒に見ることができます」
“磯野家のアイドル”として、みんなに愛されてきたワカメの、知られざる魅力を感じることができるかも!?
※企画展『わかめちゃん』は2024年3月24日に終了しました。