ロサンゼルス・ドジャースが発表した大谷翔平選手の通訳である水原一平氏の解雇。アメリカの複数のメディアが水原氏は違法賭博に関与していたと報じていて、本人も20日夜の試合後にチームメイトに対して、自分がギャンブル依存症であると告白したうえで、「すべて自分のせいだ」などと説明したという。
ギャンブル依存症とはいったいどういう病気なのか。精神科の医師に話を聞いた。
借金を繰り返すようになる
「ギャンブル依存症というのは、簡単にいうと、ギャンブルをやめたくてもやめられなくなり、借金などの経済的な問題や、仕事や学業を休むといった社会的な問題が起こる精神疾患のひとつです」(北九州市の南ヶ丘病院 別府拓紀先生、以下同)
水原氏は、アメリカのスポーツ専門チャンネルのESPNの取材に対して、サッカーの国際試合やNBA(バスケットボール)、NFL(アメリカンフットボール)などといったスポーツ賭博をしたと説明している。
「依存の対象となるギャンブルは、パチンコやスロット、競馬や競輪のほか、スポーツ賭博も当然、あてはまります」
たんにギャンブルが好きな人と、ギャンブル依存症の人には明確な違いがあるという。ギャンブルが好きなだけの人は、ギャンブルがしたくても我慢でき、仕事や家庭生活も続けられる一方で、ギャンブル依存症になると、賭けはじめると止まらなくなる、ギャンブルが生活の中心になる、借金を繰り返すようになる、といった特徴がある。
「ギャンブルをしていることを家族や周囲の人に隠したり嘘をついたりするのも、ギャンブル依存症の典型的な症状です」
脳の機能が変化してしまう
では、ギャンブル依存症になりやすいのは、どういった人なのだろうか。
「海外では、子どものころにカジノや競馬場に行った経験があると、ギャンブル依存のリスクを高めるという報告があります。大人がギャンブル場に子どもを連れていかないことや、教育現場でギャンブル依存症について教えることも大切です」
ギャンブル依存症になると、脳の機能に変化が起こるという。最初はギャンブルを行うと報酬系と呼ばれる脳の回路によって、ドーパミンという快楽物質が大量に出るが、ギャンブルを繰り返すうちにこの回路が鈍感になり、やがてドーパミンがあまり出なくなってしまう。すると、ギャンブルをしても満足できなくなり、その結果、ますますギャンブルがエスカレートしていくのだ。
「ギャンブル依存症は本人の意識や性格の問題ではなく、脳の変化によって起こるので、本人ひとりだけで解決することは難しいです」
本人が依存を自覚してギャンブルを完全にやめることはもちろん大事だが、借金のことは弁護士に相談したり、同じ依存症の人が集まる自助グループに参加したりすることも有効だという。
「また、最近ですと思考や行動のパターンを見直す認知行動療法がギャンブル依存症の治療にも取り入れられるようになってきました。医師などの専門家や患者たちで話し合い、ギャンブルをしたくなったときの対処法などについて考えていきます。そのなかで、自分はなぜギャンブルがしたくなるのか、どういうケースなら我慢できるのかなど、自分の考え方や行動パターンを見直して修正していきます。
ただ、依存症には反復性があり、制御しようとしても再びその行動を取り戻そうとする性質があるため、こういった治療を行っても些細なきっかけで再びギャンブルをしてしまうことがあります。しかし、それは本人の意識の問題ではないので、もし再発したとしても、あきらめずに再び治療を始めることがとても重要です」
薬をのめば治る病気とは違い、ひと筋縄ではいかないギャンブル依存症。長い闘いになることも多いのだ。
球団は水原氏を解雇したことは認めたが、解雇の理由についてはいまだ詳しいことは明らかにしていない。本当にギャンブル依存症なのか、続報が待たれる。