子ども食堂の問題点を指摘した『週刊女性』記事(2月20日・27日合併号)がネットニュースでも話題となり、取材に応じてくれた南谷素子さんが注目されている。南谷さんは荒川区でNPO法人「いきば」を運営し、子ども食堂をはじめ、子どもたちの「いきば」をつくることに力を入れているが、深刻な事態となっているのが不登校だ。
「子ども食堂には来ることができても学校には行けないという児童もいます。学習面はさておき、今は家にいてもインターネットで外の世界とつながることができるので、ゲームなどを通して友達をつくることもできるでしょう。でもネット上では自分を偽ることができますし、リアルな人間関係や信頼関係を構築する経験がないままだと、社会に出たときにつまずいてしまう可能性もあります」(南谷さん)
不登校児童生徒は29万人以上、原因トップは「無気力、不安」
文部科学省が2023年に発表した調査によると、小・中学生の不登校児童生徒数は全国で29万人以上にも上る。10年連続で増加しており、2023年は過去最多となった。
不登校の原因は小学校、中学校共に「無気力、不安」がトップで、「生活リズムの乱れ、あそび、非行」「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が続く。「いじめ」が原因だと答えている子どもはわずかだ。
学校に行かず、家庭で引きこもっている子どもに接することができるのは親しかいない。そこで南谷さんは不登校児を持つ親を支援する団体を立ち上げ、ランチ会などを開いてきた。実は南谷さん自身、子どもの不登校に悩んでいた経験がある。
「子どもが学校に行けなくなると、親は自分を責めがちです。子どもがずっと家にいるので、仕事にも行けなくなり、経済的な負担も大きくなります。私も子どもが不登校になったとき、どうしていいかわからず、誰にも相談できず、当時は占いにすがってしまったんです」(南谷さん)
自宅から電車で2時間ほどの場所にいる占い師のもとに、ほぼ毎日通ったという。
あるとき、「息子さんは自分の生き方を許してもらいたくて、あなたのところに来たんですよ」と言われ、号泣したという南谷さん。
「とにかく苦しい気持ちを吐き出すことが大事だと気づきました。そうして親が冷静になって、明るくなって、余裕を持てたら、子どもへの接し方も変わり、学校へ行くようになったというケースもあります。親が自分のことを真剣に考えてくれているんだと、子どもに理解してもらうことが第一だと思います」(南谷さん)
南谷さんの子どもは1年間の不登校の末、学校に復帰した。このときの経験を生かして、南谷さんは数秘術の勉強をして、占い師としても活動するようになったという。
「不登校が解消するきっかけはさまざまですし、明確な答えはありません。だからこそ親御さん自身にも希望や生きる力を感じてもらい、時間をかけて忍耐強くお子さんに接していただくことも大事だと思っています」(南谷さん)
もちろん公的な場では、占いではなく、悩みをしっかり聞いて、不登校が解消した事例を伝えたり、子どもが自分で選択することを待つ姿勢を促している。
世間では子どもが不登校から抜け出した“成功談”が多く語られているが、その方法を押しつけてくる人には要注意だ。
「どの家庭も個別な事情があるので、学校を変えるとか、田舎暮らしをするといった方法ですぐに解決する問題ではありません。『うちの子は不登校から抜け出せて偉い』と自慢話になっている人もいますが、不登校解消がゴールではないはず。子どもが学びと成長の機会を持ち、自分らしい人生を歩んでいくための手助けをするのが親や社会の役目だと思います」(南谷さん)
再登校率は90%以上の画期的なプログラムが登場
不登校への対応は行政でも行われており、フリースクールとの連携もそのひとつだ。しかし民間のフリースクールはお金がかかるので、経済的な余裕がないと通わせることができない。
「自治体では適応指導教室による無料サポートを実施していますが、基本的には学校とシステムは同じで、転地療養のような場所となっています。それが不登校解消の抜本的な解決になるのかは疑問で、行政もまだ手探りの状態です」(南谷さん)
一方、不登校児童生徒を3週間で再登校に導くプログラムを提供している会社がある。不登校支援事業を手がける株式会社スダチは、2020年7月から現在までで約800人を再登校に導き、再登校率は90%以上を誇る。どういうプログラムを用意しているのか、代表の小川涼太郎さんに聞いた。
「親御さんにお子さんへの接し方を学んでいただき、弊社サポーターのオンラインでのアドバイスのもと、お子さんの自己肯定感を高めていただくプログラムです。お子さんとご家庭の状況をしっかりとヒアリングしたうえで、それぞれの状況に合わせたプログラムを作成させていただいております」(小川さん、以下同)
サポーターが子どもに接することはなく、あくまでも親へのサポートのみ。そのため子どもは親がプログラムを実践していることは知らず、間接的に再登校へ導くメソッドだ。不登校の原因を追究する必要もなく、親が家庭の状況を整えることに焦点を当てている。
「これまで不登校児を持つ親御さんは、見守りましょう、少し様子を見ましょう、好きにさせてあげて、そのうち元気になりますよといったアドバイスを受けてきて、具体的に何をすればいいかわからず、不登校を解決できず困っていました。こういった見守りは古い考え方であり、現在は積極的に介入しないと不登校は解決できないことがわかっています」
自ら再登校する5つの条件
スダチのプログラムは、発達心理学と脳科学の理論に基づいて作られているのが特徴だ。子どもに愛情をうまく伝え、ダメなことはダメだときちんと教えてしつけをやり直すことを基本としている。
「子どもの不登校が長引く大きな要因は、ゲーム、ネット、スマホ依存です。デジタル機器を長時間利用しているお子さんは、利用していないお子さんより学習効率が落ちることもわかっています。やるべきことをやっていないのに、やりたいことだけやるというルールは社会には存在しません。それを教えて、ゲームやネット依存を直すことが不登校解消の大きなポイントになります」(小川さん)
小川さんは子どもが自ら再登校する5つの条件を次のように挙げる。
1.子どもの自己肯定感を高める
褒めたりスキンシップをとることで子どもの自己肯定感を高めていく
2.正しい生活習慣に戻す
朝はきちんと起き、正しい生活リズムで過ごすことは脳科学的な側面から見てもメリットばかり。朝起きないとそもそも学校に間に合わない
3.正しい親子関係を築く
厳しいだけだと嫌な親になってしまう。優しいだけだと親子関係が逆転してしまう可能性があるので、厳しさと優しさのバランスが重要
4.考える時間を与える
現代の家庭では、子どもの意思とは関係なく、楽なほうへと気持ちが流れ、考える時間がなくなってしまうことが多い。そのため、意図的に子どもが自分と向き合い、これからについてしっかり考える時間をつくってあげる必要がある
5.マインドセットをする
マインドセットとは子どものネガティブな考えをポジティブに変換していくもの。マインドセットができるようになると、嫌なことにも立ち向かえるようになる
「お金がかかっても解決したい」
前述の南谷さんも不登校児童生徒の親の支援をしてきたが、無料支援には限界がある。
「親御さんにもプライドがあって、自分の家庭が一番だと思っている方も多いんです。話し合いをずっとしてきても、なかなか親御さんの気持ちは変わらない。すると子どもも変われないですし、そこが一番の悩みでした」と南谷さんは話す。
一方でスダチのプログラムを親がきちんと実践するのは、「お金を払っていること」も大きいと小川さんは話す。
「相談に来られる方はお金がかかっても解決したいと、本気で子どもに向き合うケースが多い。サポーターがマンツーマンで親御さんを指導しますし、それが不登校解消の実績につながってきました」(小川さん)
小川さんは自治体などで無料講演を依頼されることも増え、独自メソッドの効果を伝え続けている。
「同じ職場にいても楽しそうに働いている人もいれば、うつになる人もいます。それって何が違うんだろうと考えたとき、子どもが大人になるまでの過程でどういう教育を受け、どういう考えで生きてきたかが重要なんだと思いました。子どもが再登校することは単なるステップでしかありません。一番の目的は、この先の将来を幸せに生きていくことなんです」(小川さん)
リアルに寄り添ってくれる南谷さんのような活動や、スダチの科学的なアプローチにより、親が変われるかどうか。不登校児童生徒29万人をこれ以上増やさないための鍵は、親の子どもへの接し方にかかっている。
南谷素子さん(なんや・もとこ)
高校英語科講師、予備校勤務を経て、自宅にて学習塾を8年間開室。2018年より東京・荒川区で「こども食堂サザンクロス」を運営。「NPO法人いきば」理事長。ランドセルリサイクル事業「ぐるぐるランド」も手がけ、荒川区内不登校支援ネットワークにも携わる。寄付先などの情報はhttps://ikiba.org/に掲載
小川涼太郎さん(おがわ・りょうたろう)
1994年生まれ、徳島県出身。2019年に総合教育事業の株式会社スダチを設立。不登校の子どもたちに向けたボランティア活動を通して、“目的意識がない不登校”で悩んでいる子どもたちや親御さんが多くいることを知り、2020年4月に不登校支援事業開始。株式会社スダチ https://sudachi.support/
取材・文/紀和 静
取材協力/株式会社ドリームパスポート