「確実に私の代表作になると思いますし、私の人生を描くうえでは絶対に外しちゃいけない期間だなと思っています」
4月1日から新たな朝ドラ『虎に翼』がスタート。主人公・猪爪寅子を演じているのは伊藤沙莉(29)。モデルは日本初の女性弁護士で、後に裁判官となる三淵嘉子さんだ。
女学校卒業目前の昭和6年。卒業後は嫁ぐことが当然とされていた中、寅子は“はて?”。お見合いに違和感を覚える。
「寅子にはすごく共感します。自分の中に浮かび上がった疑問に対して置いておかずに、1回立ち止まる丁寧さがある人だから。その分、勢いもあるんですけど(笑)。カッコいい女性だなと思って演じさせていただいてます」
優秀だった学業を生かすのは家庭のみ? 猪爪家に下宿する書生・佐田(仲野太賀)が学ぶ明律大学に弁当を届けにいくと、授業が聞こえてくる。(当時の)民法上“既婚女性は無能力者”。寅子は心底驚き、その違和感を教授に伝えると、同大学女子部の受験をすすめられる。当時、女性に法律を教える日本唯一の場所だった。
「親友の花江(森田望智)はむしろ結婚に夢を持ち、家庭に入ることが楽しみな子。それもそれで、結婚の素敵な見方だと思うけど、寅子の感覚は現代寄り。
結婚自体がダメなんじゃなくて、結婚をした女性が法律上“無能力者”とされる失礼さに早い段階から気づく子。そんな疑問が法律への疑問にかわり、もっと大きな夢になっていく。寅子の夢の原体験が結婚にあるところが、すごく面白いと思います」
オファーは「まさかなことで、ご褒美」
朝ドラへの出演は『ひよっこ』('17年)以来2作目。これまでに何度も朝ドラヒロインのオーディションを受けてきたが、実らず。コンプレックスすら抱いていたそうだが突然、本作ヒロインのオファーが届いた。
「まさかなことでした。すごくご褒美である分、挑戦が詰まっている気がして。楽しい中にも、毎回大きな課題があったり。その“ただ事じゃない感じ”が私はすごくいいなと思うし、やっぱり贅沢だなと思っています」
クランクインは昨年9月。約半年がたち、朝ドラヒロインに慣れてきたかと尋ねると、考え込む。寅子がなじんできたかと質問を変えると、笑顔の花が咲く。
「そうですね! 最初は“やるぞ、頑張るぞ!”と思っていたけど、日々撮影をしていく中で“本当にこれでいいのかな?”といった迷いや葛藤、難しさなどもたくさん出てきて。
でも、自分自身がブレなければ、寅子としては成立するんだなと思って。特に、第1週の完成作を見て“よかった。ちゃんと寅子になれている気がする”と思えて。そこからは、寅子でいることに関しては、迷いがなくいられてます」
仕事がなかった時期、勇気のいった決断
明律大学女子部の受験に父(岡部たかし)は賛成するも、母(石田ゆり子)は“地獄の道”だと許さない。地獄かもしれないけど、やりたい気持ちのままに突き進んだ自身の経験を尋ねると、
「女優業だと思います。早くから、オーディションにたくさん受かっていたわけでもないので」
ドラマ『女王の教室』('05年)などに出演する子役だったが、大人になっていく中で演技を続けるかどうかの選択を迫られたときがあったという。
「ちょうどお仕事がなかったときで。そして、続ける決断をしてからもなかったし(笑)。そんな中で、飛び込むというか、やり続けることは意外と勇気はいりましたね」
今や、主演でも脇でも独自の存在感で輝く、オファーの殺到する女優に。
5月には30歳を迎える。今後はどんな女優像を描いているのだろう?
「もっとどっしりしたいと、すごく思います。まだ、どこかピョンピョンしているところがあるので(笑)。もうちょっと、みんなが頼れる存在というか、委ねたり、頼ったりしてもらえる女性であり、役者でありたいなとは思います」
自分の言葉で自分の心を話し、撮影用のミモザの花束には大喜びしてくれる。そんな素直な快活さは、きっと毎朝、テレビ画面からもあふれ出る──。
“虎に翼”&“鬼に金棒”は?
“虎に翼”は中国の法家・韓非子の言葉で“鬼に金棒”と同様に“強いうえに、さらに強さが加わる”の意。これがあったら最強というものは?
「一時的に記憶をなくす力ですね。リハーサルをへて、当日に段取り、テスト。そして本番という流れを何回戦かやるんですね。すると、自分の中ですごく大切にしたい鮮度が落ちてしまう。ただ、相手に向けてちゃんと出すものは頑張って出したい。
だから、一瞬の記憶を消せたら、お芝居の鮮度が保てるのかな、と。ただ、それを得たところで最強ではないんですけどね(笑)」
『虎に翼』
毎週月~土、朝8時~(NHK総合)ほか放送中