新人女優の登竜門として、多くの人気女優が経験してきた“朝ドラヒロイン”。今や初々しさだけでは選ばれることが難しく、ベテランが演じることも珍しくない。人気、実力、はたまたNHKへの貢献度……。次に朝の顔として日本中に笑顔を振りまくのは一体、誰!?
朝ドラヒロインになりやすい2つの条件
好評のうちに幕を閉じた、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』。4月1日からは伊藤沙莉(29)がヒロインを務める『虎に翼』の放送が始まったばかりだが、早くも次回作『おむすび』のヒロイン・橋本環奈(25)と、次々回作『あんぱん』のヒロイン・今田美桜(27)への期待の声も高まっている。
毎回大きな注目が集まる、通称“朝ドラ”のヒロイン。その選出方法はオーディションと、制作側からの直接オファーである「キャスティング」の2つに大きく分かれる。今回の『虎に翼』はキャスティングだが、ヒロインに歌や踊りなどのスキルが求められた前回の『ブギウギ』ではオーディションが採用された。
とはいえ一般公募のオーディションとは違い、応募者たちは全員、大なり小なりの芸能事務所に所属するプロの役者たち。『ブギウギ』ヒロインの応募者は2471人にも及び、その狭き門を見事突破した趣里(33)はバレエ歴20年以上、プロのバレリーナを目指していたほどの実力者だ。
水谷豊と伊藤蘭の一人娘ということでも話題を呼んだが、発表会見では、朝ドラのヒロインオーディションに過去3度、落選していたことも明かした。
「かつては若手女優の登竜門と呼ばれてきた朝ドラのヒロイン。選ばれればその後のキャリアに大きな影響を及ぼすことは間違いありません」
と話すのは、'70年代からすべての朝ドラを視聴し続けている朝ドラウォッチャーで、コラムニストの田幸和歌子さん。女優なら誰もが1度は夢見るであろう、朝ドラヒロインの座。最近の傾向として、
●すでに脇役としてNHK朝ドラへの出演経験がある。
●ドラマ、バラエティー問わず、NHKの他番組への出演経験がある。
という2つの項目をクリアした者が、選ばれやすいようだ。
「今回の伊藤沙莉さんをはじめ、趣里さん、清原果耶さん(22)、杉咲花さん(26)、高畑充希さん(32)、土屋太鳳さん(29)など当てはまる方は大勢いらっしゃいます。NHKでの仕事を通じてまずは制作サイドからの信頼を得て、それがまた次の仕事につながっていくという流れでしょう」(田幸さん、以下同)
とすれば、来年度後期以降のヒロインもある程度予想しやすいというもの。そこで編集部では、日本一早い“ネクストヒロイン”大予想として、次の4人に注目してみた。
坂道グループ出身のヒロイン候補は
大本命は、『ちむどんどん』でヒロインの妹役を演じた上白石萌歌(24)。NHKの歌番組『The Covers』では、水原希子(33)から引き継ぎ5代目の女性MCも務めている。
「大河ドラマ『いだてん』では素晴らしい演技を見せ、身体能力の高さも披露してくれました。ただひとつ気の毒なのが、出演した『ちむどんどん』が近年まれにみる不評作だったことでしょうか」
SNSでは、その不可解なストーリー展開から“史上最低の朝ドラ”とも揶揄された、通称“ちむど”。朝ドラが朝8時からとなった2010年以降で、最低の平均世帯視聴率を記録してしまった。もちろん出演者らには何の落ち度もないものの、最終回のトンデモ演出と相まって、なんとも後味の悪い結果に。
「姉の上白石萌音さん(26)はすでに『カムカムエヴリバディ』でヒロインの経験があります。姉妹そろって、朝ドラの視聴者層である中高年女性の支持が高いのも強み。萌歌さんが主演で、リアルな姉妹共演の朝ドラも見てみたいですね」
第2候補は、『舞いあがれ!』でヒロインの親友・久留美役を演じた山下美月(24)。アイドルグループ『乃木坂46』のメンバーとして紅白歌合戦の出演経験もある。
「父親思いで、苦労して育った久留美役を好演されていました。役柄のキャラクターから、山下さんに好感や興味を持った視聴者も多くいると思います。残念なのは、山下さんがすでに乃木坂46の卒業を発表してしまったこと(笑)。
というのも、現役アイドルの朝ドラヒロインは'86年に『はね駒』の主演を務めた斉藤由貴さんと'90年の『凛凛と』の荻野目洋子さんしかいないんです。山下さんには、乃木坂メンバーであるうちにぜひヒロインになってほしかったですね」
第3候補は、同じく『舞いあがれ!』で朝ドラ初出演を果たした長濱ねる(25)。アイドルグループ『欅坂46』の元メンバーで、NHKではバラエティー番組の出演も多い。
「昔から朝ドラヒロインには、古風な雰囲気も出せる“たぬき顔”が選ばれがち。長濱さんはまさにそのタイプで、可能性は大いにあると思います」
最後のイチオシ候補は、現在ドラマや映画で大躍進中の富田望生(24)。『ブギウギ』ではヒロイン・スズ子の付き人役、『なつぞら』ではヒロインの親友役を演じた。朝ドラ以外でもNHK制作のドラマに多くの出演経験があり、Eテレでレギュラー番組も持つ。
「役柄に合わせて体重までコントロールするほどストイック。演技派で、実力のある役者さんです。だからこそ、朝ドラでの富田さんの起用法に苦言を呈したい! 毎回、わざとらしい笑いのシーンで富田さんをオチに使うようなやり方はやめてほしい。三枚目扱いするのはもったいない方ですよ」
40年以上にわたり朝ドラを見続けてきた田幸さんによると、ヒロインの引き立て役として個性派の女優を起用し、いかにも取ってつけたような道化役を演じさせるパターンが多々見受けられるという。
『ふてほど』の好演でヒロイン候補にグンと近づいた?
「いわゆる“華やか美人系”ではない役者さんをお笑い担当かのように演出するなんて、とてもおじさんっぽい嫌なやり方だなと感じます。もし富田さんをヒロインとするなら、あえてプロデューサーも脚本家も演出家もすべて女性でまとめたチームで挑んでみてほしい。これまでの朝ドラの富田さんとは、まったく違った印象や魅力を発揮できる作品になると思います」
編集部ではこれまでの傾向を分析して4人のネクストヒロインを候補に挙げたが、筋金入りの朝ドラウォッチャーである田幸さんの見方はまた異なる。
「ヒロイン候補にグンと近づいたと思うのは、河合優実さん(23)。最近のブレイクぶりに、NHKのドラマスタッフは歯ぎしりしているかも(笑)」
今年1月から3月まで放送されたドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)。宮藤官九郎が描く昭和タイムリープの物語が大いにウケ、冬ドラマの話題を独占した。河合は阿部サダヲ演じる主人公の娘・純子として登場。聖子ちゃんカットにロンタイ姿で、昭和のスケバン女子高生を演じ切った。
「このドラマで一気に知名度が上がった河合さんですが、もともと『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』や『神の子はつぶやく』など、多くのNHKドラマに出演しています。いってみれば、NHKが長年かけて大事に大事に育ててきた役者さんを、クドカンさんのドラマに持っていかれちゃったようなもの(笑)。ご本人が『大人計画』ファンということで仕方ないですが、NHKは複雑な思いかもしれませんが、朝ドラの河合さんもぜひ見てみたいですね」
“ヒロイン最有力候補”として田幸さんが注目するのが、當真あみ(17)。朝ドラ出演は未経験だが、大河ドラマ『どうする家康』では家康の長女・亀姫役に抜擢された。
「まだ17歳という若さですが、昨年はNHKの看板ドラマ『大奥』のシーズン2でも魅力的な役を演じていました。さらに3月に放送された特集ドラマ『ケの日のケケケ』では主演も務めており、もはやNHK内で確固たるレールが敷かれたようなもの(笑)。どこかのタイミングで朝ドラヒロインに選ばれるだろうと予想しています」
最後にもうひとり、田幸さんが推すのは『舞いあがれ!』でヒロインの恋敵・史子を演じた八木莉可子(22)。『カーネーション』で主演を務めた尾野真千子に激似だと話題になったことも。
「とても華がある役者さんで、時にはかわいく、時には美しく、それでいて狂気を感じさせるような演技もできる方。透明感も抜群です。NHKの夜ドラ『おとなりに銀河』でヒロインを務めた演技も、印象に残りました」
人気女優たちもオーディションで落選した過去が
はたしてこの中から未来のヒロインは現れるだろうか。オーディションにしてもキャスティングにしても、ヒロインの座をつかみ取るのは至難の業。最近では、「ヒロイン落選」の経験を語る女優も珍しくない。
例えば、ファッションデザイナー・森英恵の孫で、モデルとして活躍する森星(31)は『あまちゃん』のヒロインに落選。アイドルグループ『AKB48』を卒業した柏木由紀(32)も、これまでに4度オーディションを受け、すべて落選したことをバラエティー番組で明かした。
福原遥(25)、川栄李奈(29)、安藤サクラ(38)など何度かの落選を経て見事ヒロインを勝ち取った者も多い。また、ヒロインには落選したものの、脇役として起用されるケースも目立つ。
『わろてんか』では、落選した広瀬アリス(29)が、葵わかな(25)演じるヒロイン・てんの夫に思いを寄せるリリコ役に起用された。また『べっぴんさん』のオーディションには、アイドルグループ『ももいろクローバーZ』のメンバーがそろって参加し、全員落選。
だがその後に百田夏菜子(29)が、ヒロインを演じる芳根京子(27)の親友役に抜擢された。そのほか、吉岡里帆(31)、石田ゆり子(54)、小芝風花(26)、森七菜(22)なども、ヒロインには落選したが脇役としてキャストに加わっている。
当落の基準について田幸さんは「朝という時間帯からして、ヒロインには“明るく元気”なイメージが求められがちなことは確か」と話す。
「最近は、おじさん世代が多いNHKの制作サイドが目指すものと、私たち女性視聴者が求めるものにズレがあるようにも感じます。いかにもおじさん感覚で、勝手に理想の女性像を描いているのかと疑いたくなる作品もありますね」
今年から来年にかけては『おむすび』の橋本環奈、『あんぱん』の今田美桜と“元気なヒロイン”の朝ドラ王道パターンが続きそうな予感だ。しかし「朝から元気いっぱいのドタバタ劇は正直しんどい」という視聴者の声も少なくない。
「視聴者の多くは40代以上の女性で、落ち着いた大人のヒロインを求めているはず。例えば、出産後の安藤サクラさんを思い切って起用した『まんぷく』は素晴らしい作品でしたし、『スカーレット』の戸田恵梨香さん(35)は主人公の“老い”までも素敵に演じられました。そろそろまた、しっかりした大人の女性の物語を見たいですね」
ここ4~5年ほどは視聴率の低迷に苦戦している朝ドラだが、根強いファンは多い。心揺さぶる新たなヒロインの登場に、大いに期待したい。
取材・文/植木淳子