左から上戸彩、小沢真珠、佐野史郎、酒井法子

 話題のドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)に何度も作品名が登場し、板東英二とともに再び脚光を浴びている『金曜日の妻たちへ』。“金妻”という愛称で一世を風靡した不倫ドラマの傑作だ。金妻以後、不倫モノはドラマの人気ジャンルとして定着。そこで、思い出の名作、怪作を全国の30~60代女性1000人にアンケート。1位に輝いたのは……?

レジェンド作品もランクイン

 5位に入ったのは『星の金貨』('95年ほか 日本テレビ系)。のりピーこと酒井法子が聴覚障害のヒロインを演じ、主題歌『碧いうさぎ』は大ヒットを記録した。「不倫というよりは純愛。ドロドロ感がなく、ただただ切なかった」(静岡県・54歳)などヒロインの切ない境遇に感情移入した人が多かったよう。「厳密にいうと不倫ドラマではない気もしますが、続編でのりピーと大沢たかおさんが結婚するから、それで不倫イメージがついたのかな。でも大沢さんはすぐ殺されちゃうんですけどね(苦笑)」

 とドラマウォッチャーの漫画家・カトリーヌあやこさんは振り返る。

「要はのりピーと大沢さんが本命カップルで、そこに弟の竹野内豊さんが横恋慕して、のりピーが揺れるという構造が不倫ドラマなんですね。聴覚障害のヒロインに記憶喪失の恋人という初期設定。しかも続編でのりピーは失明し、竹野内さんは半身不随、そして大沢さんは殺される……。

 畳みかける不幸で視聴者の涙を絞り取りながら、何だこりゃなラストに着地(笑)。まさに'90年代を象徴するドラマです」

大河内奈々子と小沢真珠の姉妹バトルが話題だった『牡丹と薔薇』

 4位はドロドロ系昼ドラのレジェンド的作品『牡丹と薔薇』('04年 フジテレビ系)。「物語がどうとかよりも小沢真珠の演技とかオモシロ要素満載で、ついつい見ちゃいました」(北海道・52歳)など誇張されたドロドロな世界観が面白がられた。

不倫ドラマは純愛系とドロドロ系に分かれますが、この作品はドロドロ系の代表作。姉と妹の壮絶なバトルを描き、とにかく妹役の小沢さんの怪演が話題に。姉(大河内奈々子)と不倫している夫の牛革財布を小沢さんがステーキにして出すシーンは衝撃でした。こんなのあり得ないという描写の連続で、毎回誰かが泣き叫んでる(笑)。かつての大映ドラマを見るような感覚で楽しんでいた気がします」(カトリーヌさん)

 3位には最高視聴率30%超えの大ヒットドラマ『ずっとあなたが好きだった』('92年 TBS系)がランクイン。「不倫の行方よりも冬彦さんの恐ろしさ……サスペンスとして楽しんでました」(静岡県・63歳)、「佐野史郎と野際陽子の不気味親子コンビが最高だった」(神奈川県・46歳)などヒロインの夫・冬彦を演じた佐野史郎への絶賛コメントが多数寄せられた。

佐野史郎の怪演で冬彦さんブームが巻き起こった賀来千香子主演『ずっとあなたが好きだった』

「サイコパスな冬彦さんの印象が強すぎて、賀来千香子さんと布施博さんの不倫の恋なんてどっかに行っちゃった(笑)。重度のマザコンでエキセントリックな冬彦さんと母親の野際さんのキャラが立つにつれ、物語の比重もこの2人に置かれるようになって、視聴率もどんどん上がっていった。

 最終的に“ずっとあなたが好きだった”というのが冬彦さんのヒロインへの思いだったというのがわかって視聴者は号泣(笑)。これ以降、不倫をする妻の夫はクセが強い冬彦さんタイプというパターンができたほど、後世に多大な影響を与えた作品です」(カトリーヌさん)

1位はヒロインを応援する声が多数

 そして、不倫ドラマの金字塔『金曜日の妻たちへ』('83年ほか TBS系)が惜しくも2位に。「こんなにもドラマチックで明るい不倫ドラマはない」(神奈川県・56歳)。「小学生のころ、不倫が何かわからずにワクワクしながら見ていた。登場人物の暮らしぶりがおしゃれで、憧れた」(埼玉県・47歳)などのコメントが。郊外の新興住宅地を舞台にした多重恋愛という構造そのものが新鮮だった。

不倫という言葉自体、このドラマがきっかけに世に広まった。それ以前は『よろめきドラマ』と呼ばれてました(笑)。倫理に反するという言葉は強烈で、その後、不倫カップルがめでたく結ばれることはめったになくなってしまったんです。

 横浜のたまプラーザなど田園都市線のベッドタウンを舞台に、友達夫婦同士という狭い人間関係の中で恋愛が発生するというおしゃれな群像劇。その後、脚本の鎌田敏夫さんは『男女7人夏物語』を書き、それがトレンディードラマへとつながっていく。そんな記念碑的作品でもあります」(カトリーヌさん)

純愛系不倫ドラマ『昼顔』に多くの人がハマり1位に

 レジェンドドラマを抑え1位に輝いたのは上戸彩主演の『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』('14年 フジテレビ系)だ。「不倫には否定的な気持ちしかないけど、このヒロインには感情移入してしまった」(茨城県・44歳)、「清純なイメージの上戸彩が不倫する役で、そのギャップが印象的」(東京都・40歳)とヒロインを応援する声が多く、好感度の高い作品だった。

「『昼顔』は純愛系不倫ドラマの頂点に立つ作品だと思います。上戸さん演じるヒロインは子どものいない地味な奥さんで、妻よりもハムスターを愛でる夫とはセックスレス。そんな中、斎藤工さん扮する高校教師と出会って……となれば、もう視聴者は2人の純愛を応援するしかない(笑)。

 ただ、不倫の恋は成就しないという不文律のとおり、結局2人は別れてしまう。それがまた切なくて……。この作品の斎藤さんは草食系のメガネ男子で、全然エロくはないんですけど、それでも漏れ出る色気に女子たちは心をつかまれたのでは」(カトリーヌさん、以下同)

「不適切すぎる」壮絶ドラマも

『昼顔』は映画版も作られ、そこで2人の恋は成就するものの斎藤演じる高校教師は事故死してしまう。不倫の恋は叶った途端、相手が亡くなるというのも定番となっているんだそう。

「トップ10のうち半分の5作品で不倫相手の男性が亡くなっています。そういう意味で壮絶だったのは9位の'97年に日本テレビ系で放送された『失楽園』。古谷一行さんと川島なお美さんが不倫カップルで、最後はセックスの最中に毒をあおり、身体がつながったまま心中する。

 しかも、ラストは死の淵の中の幻想シーンで、全裸の古谷さんと川島さんが草原を歩き去っていくという(笑)。楽園からの追放を象徴してるんですけど、見てるこっちはキョトンですよ。バストトップもあらわな濡れ場も多く、不適切すぎて二度と見られない'90年代らしい不倫ドラマです」

『金曜日の妻たちへ』のパート1で夫婦役を演じた古谷一行さんといしだあゆみ

 昔の不倫ドラマといえば愛欲を満たす激しい作品が多かったが、時代性を反映してか、最近は精神的な欠落部分を満たす純愛系の不倫ドラマのほうが多くなっている。一方、ドロドロ系はというと、相手を好きすぎるあまり精神が病んでしまう“ヤンデレ女”の台頭が目立つとカトリーヌさん。

「昨年放送された『単身花日』の新木優子さんや『泥濘の食卓』の齋藤京子さんがその代表で、不倫ドラマというよりもサイコサスペンスに近いかな。

 自己肯定感が低い“メンヘラ女子”が世の中に増えてきた結果なんでしょうけど、純愛系とは真逆の不健康な、恋愛依存系の作品も増えている。まぁ時代の変化とともに形は変われど不倫ドラマはこれからも作られ続けると思います。視聴者はみんな、“不適切”なものが大好きですから(笑)

カトリーヌあやこ 漫画家&テレビウォッチャー。著書にフィギュアスケートルポ漫画『フィギュアおばかさん』(新書館)など

取材・文/蒔田陽平