食品業界に激震が走った。3月22日、小林製薬が製造した“紅麹”配合のサプリメントを摂取した人が、腎疾患を発症していたと発表したのだ。
4月4日時点で、該当するサプリメントを摂取していた5人が死亡、入院患者は延べ196人に膨れあがった。人工透析が必要になった人もいたという。
小林製薬は、問題のあったとされる3商品を自主回収。同社から原料の供給を受け、配合する商品を発売していた企業も回収に追われている。
その因果関係は明らかになっていないが、こうした報道を受け、不安に感じている人も多いはず。
そこで、今回の問題で知っておくべき重要な5つのポイントを挙げてみた。
【Q1】紅麹って何?どんな効果が?
サプリメントに詳しい名古屋大学特任教授で総合内科専門医でもある柴田玲医師が解説する。
「紅麹は、紅麹菌というカビの一種を穀物や米などを媒介として繁殖させた発酵食品です。古くから中国や台湾などで漢方や薬膳として使われているもので、主に血中のコレステロールを低下させる効果の期待できる成分を多く含んでいます。実は、私たち医師が処方するコレステロールを下げる薬にも同じ成分が使われているんです」
紅麹は、お酒の原料や調味料のほか、赤い色素が着色料としても使われてきた。自主回収される商品の中には、私たちが普段から食べているみそや酢のほか冷凍食品やコンビニ弁当もあった。紅麹を使った製品は、食べないほうがいいのだろうか。
「古くから使われている素材であり、紅麹を使った食材が安全だったため長らく食べられてきました。そのため、紅麹を使った商品を必要以上に怖がる必要はありません。今回の件においては、腎疾患が起きたこととの因果関係はわかっていませんが、私は製造過程で混入したと思われる成分が問題だと考えています。
ちなみに紅麹は“シトリニン”という有毒物質を産生する種類もありますが、小林製薬が使用していた紅麹菌は、シトリニンが発生しない菌株ですので、その点は安心してほしいと思います」(柴田医師)
【Q2】サプリの服用はやめるべき?
とはいえ、消費者の心配は尽きない。健康食品を製造販売する企業などを取材する業界紙の記者は、現状をこう明かす。
「紅麹を使用していないサプリメントでも、定期購入のキャンセルが相次いでいます。企業には“大丈夫なのか”との問い合わせが殺到し、混乱に陥っている。店頭での販売も落ち込むでしょうし、業界としては大打撃です」
このように、サプリメントの服用を中止した人も多いはず。しかし、前出の柴田医師は、こう話す。
「本来含まれる予定でなかった成分の混入が問題ならば、サプリメント全体に今回のようなことが起こりえる可能性は確かにある。そのための安全性を担保する制度設計は必要だと思います。
だからといってサプリメントの服用を多くの人がやめてしまうことに、医師として危機感を覚えています」(柴田医師、以下同)
それはなぜか。
「多くの人がサプリメントによる自己管理をしなくなることで、毎年増え続けている医療費が追いつかなくなり、私たちが支払う社会保険料もさらに高くなっていく。だからこそ、日々の健康管理はご自身で気をつけていただく必要があると思っています。サプリメントは、その健康管理を助けるひとつの手段となるものです」
ただ、サプリメントの服用には、注意点もあるという。
「先にも話しましたが、例えばコレステロールを下げる薬に使われている成分は、紅麹にも含まれています。つまり、飲んでいる薬とサプリメントで、重複する成分を摂取すると内臓に悪影響が出る場合があるんです。これ以外にも、薬に入っている成分とサプリメントの成分の飲み合わせが悪い場合もあるんです。
そのため、かかりつけのお医者さんがいる場合には、どんなサプリメントを飲んでいるのか伝えて相談してください。今回の問題が起きたことで、患者さんがどのようなサプリメントを飲んでいるか聞くべきだと思った医師も多いはずです」
【Q3】サプリを服用して体調を崩したら?
多くの人が安心だと思ってサプリメントを服用し、健康被害に遭った。身体に悪影響のある成分が入っていても、気がつかない場合もある。
「問題が大きくなった背景には、腎疾患が起きたという点が大きい。腎臓は沈黙の臓器と呼ばれており、何らかの症状が出た場合には、かなり悪化している状態の可能性が高い。
しかし、日本腎臓学会が行った調査では、小林製薬が販売していた該当サプリメントで腎疾患を発症したケースの4分の3は、服用を中止すれば、治療をせずとも腎機能がほぼ回復しているとの結果が出ているんです。
今回のようなことが起こりえるのだと意識しつつ、飲み始めて体調を崩したり、何かしらの異常が出た場合には、すぐに服用を中止してください」
ただ、こんなケースもあると警鐘を鳴らす。
「みなさんが薬局で買える市販薬や漢方、サプリなどは安全だと思っている方が多いような印象を受けるんです。というのも、私の外来に漢方薬のかなりひどい副作用で来られた患者さんがいたんです。しかし“漢方は安全だから、そんな副作用が起きるワケないでしょう”と言う。漢方もサプリメントも、副作用やアレルギー反応が起きることがある。自分の身体に合わない可能性があることも、考えて使用してほしい」
そして医療機関との連携が大切なのだと訴える。
「手足のむくみやおしっこの回数が増えたなどの異常を感じ血液検査を受けたことでわかったケースや、健康診断を受けて問題が判明した人もいたようです。ですから、最低でも年1回は健康診断を受けて異常がないか確認することが大切です」
問題となっているサプリメントの紅麹原料を製造していた小林製薬の工場は、品質・衛生管理に関する指針『適正製造規範(GMP)』の認証を取得していなかった。この点も、消費者にとって選択のポイントになると、前出の業界紙記者が話す。
「GMP認証を受けた製造工場で作った商品には、GMP製品マークを記載することができます。店頭で手に取った際やWEBで見たときに、認証マークがあるかどうかは、サプリメントを選ぶ一つの基準となるでしょう。誰もが知る大手企業だから安心という考えは、捨てるべきです。小さい会社でも、しっかりやっているところはたくさんあります」
消費者が心から安心するためには、企業の努力も必要不可欠だ。
【Q4】プベルル酸ってそもそも何なの?
小林製薬が自社工場で'23年中に製造した原料の一部から、本来では含まれるはずのない成分『プベルル酸』が見つかっている。
「このプベルル酸は、'23年9月以降に製造された原料に特に多く含まれていたそうです。小林製薬が調査したところでは、'23年9月以降に製造・販売された商品に健康被害の訴えが集中しているとのことです。しかし、このプベルル酸が悪影響を及ぼしたのか、その因果関係はわかっていません」(同・業界紙記者)
そもそも、このプベルル酸とは、何なのか?
「青カビが作り出す天然の化合物なのですが、実際のところよくわかっていないんです……」
そう話すのは、前出の柴田医師。どうしてか?
「私もプベルル酸という名前を聞いて、世界中の医学論文を閲覧できる専門サイトで調べたのですが、該当する論文は5~6件だけでした。通常メジャーな成分であれば、数千、数万件の論文が出てくるのですが……。それぐらいマイナーな物質なんです。おそらく今回の問題が起こるまでプベルル酸という名前を知っていた医療関係者は、ほとんどいないはずです」
とはいえ、かなりの劇毒成分なはず……と思いきや、
「感染症のマラリアを治療するための候補に挙がった物質のひとつで、毒性は比較的、強い部類に入ります。しかし、人が飲むために作る薬の成分ですから、毒性としては中程度。劇毒というほどではないんです。さらに、腎臓の障害を引き起こすかどうかもわかっていません。これから検証されていくはずですが、時間がかかると思います」(同・柴田医師)
【Q5】過去に起きた似た事例は?
これまでも、同じような健康被害が起きているケースはあるのだろうか。前出の業界紙記者が話す。
「キノコ類の一種であるアガリクスは健康食品の商材として知られていますが、'06年にある企業が発売していたアガリクスを使った健康食品の1つに“発がんを促進する成分”が含まれていることがわかり、回収騒ぎになりました。これによる健康被害はありませんでしたが、当然のごとくアガリクス商品の売り上げは激減し、倒産する企業もありました」
大規模な健康被害が起きたケースもある。
「医薬成分を含んだ化粧品の事例ではありますが、“茶のしずく石鹸事件”を思い出しました」(同・業界紙記者、以下同)
どんな事件だったのか?
「'05年に化粧品販売会社が発売した『茶のしずく石鹸』を使用した人に、次々と小麦アレルギー症状が出たんです。'11年に問題が発覚しますが、当時は真矢ミキさんが出演するテレビcmが放映されるほどの人気商品で、被害者数は2000人を超えました。小麦アレルギーがなかった人にもアレルギー症状が出るようになり、意識不明の重篤な状態に陥った人も。
原因は、石鹸に含まれていた小麦由来成分『グルパール19S』だったことが判明しています」
'12年には、全国の被害者たちがいっせいに損害賠償を求めて提訴。請求した賠償額は総額100億円を超えた。
「'20年には、すべての被害者との和解が成立し、裁判は終結しています。石鹸は、小麦アレルギーを引き起こす要因となった成分を除いたうえで、商品名を変更し、現在も販売されています。
'13年には、また別の化粧品メーカーの美白化粧水で、使用した人の肌がまだらに白くなる健康被害が問題になりました。化粧品メーカーが確認した被害者数は、1万9609人にのぼりました。問題発覚から10年以上たちますが、いまだすべての被害者との和解は成立していません」
被害者たちは、今も苦しみ続けている──。
自主回収を発表しているサプリメント
【小林製薬】 紅麹コレステヘルプ、ナットウキナーゼさらさら粒GOLD、ナイシヘルプ+コレステロール
【天野商事】 乳酸菌プラス7
【メディアワークス・ブルーム】 恵みの麹青汁
【ナチュラルサイエンス】 ヒアロエラスチンゴールドPro
【サンセリテ札幌】 EPA&紅麹モナコリンK
【分子生理化学研究所】 ワカサプリ 紅麹&ナイアシン
【ワキ製薬】 ソルベント、N-キナミン スーパーエース、栓環通、龍寿EX、龍寿HLP、フラップSP-MIX
【ワップ】 レッダムプレミアム
【ツバキ薬粧】 発酵高麗あか人参+金時しょうが
【ジャパンギャルズSC】 からだにとどく食べる菌
【伝食】 納豆キナーゼ
【森川健康堂】 KIDSプロポリス
【富山薬品】 ルーレンゴールド、レッダームDX
【ヘルシープラス】 コレステライフ
【アドバン】 コレケアプラス
【ノエビア】 ノエビア DHA&EPA
【芳香園製薬】 エラスチンプラス&ナットウキナーゼ、ノンコレッセン プレミアム
【山本漢方製薬】 内脂ブロッカー
【元気プロジェクト】 血圧GABA100
【セシール】 リアルサプリ 紅麹
【プリセプト】 プロポリス&ローヤルゼリー
【日本ロレアル】 タカミサプリ
【食品資材研究会】 納豆精EX300
※4月5日時点の消費者庁ホームページの情報に基づき週刊女性作成
柴田 玲●医学博士。名古屋大学大学院医学系研究科 先進循環器治療学 特任教授。総合内科、循環器、高血圧、再生医療の専門医。生活習慣病や心臓病などの診療を行い、サプリメントにも詳しい