「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
第98回 元尼神インター・誠子
尼神インター解散のニュース。驚くと同時に、そう言えば最近テレビで見ていないと思ったのでした。もちろん、テレビに出ることだけが芸人の仕事ではありませんが、渚はともかく、誠子を特に見ていない気がします。
早速彼女のインスタグラムを見てみると、なんだかほっそりした様子。誠子は20キロのダイエットに成功したそうですが、その極意は丁寧に暮らすこと。エステやジムに行ったのではなく、料理と掃除を丁寧にすることで、健康的に体重を落としていったというのです。
テレビに出られるかどうかが生命線
誠子はナチュラルな暮らしを愛する人の雑誌「リンネル」(宝島社)が主催するリンネルチャンネルにも登場し、発酵食品を使ったレシピを紹介しています。料理家の荒谷未来さんとライフスタイルブランドmerciをたちあげるなど、興味の方向はお笑いよりも、食や暮らしに向いているよう。
お笑いは続けつつ、ていねいな暮らしのような興味のあることを発信していくのでしょうが、お笑いで新しい何かを見つけて一人でテレビに出られるようにならないと、お笑いはもちろん、ていねいな暮らし路線もちょっと中途半端になってしまう気がするのです。テレビを見ない人が増えていると言われていますが、そうはいっても誰もが出られるわけではありませんし、幅広い層に名前を浸透させるには一番効果的なメディアであることには間違いありません。テレビでの発言がネットニュースになり、SNSがそれに反応することでもわかるとおり、未だに「テレビありき」なわけです。誠子の知名度がますます高まると、メディアも彼女のライフスタイルブランドを取り上げるでしょうから、テレビに出られるかどうかは、今後の彼女の生命線と言えるかもしれません。
けれど、テレビだけでは不十分と言えるでしょう。現代はSNS社会であり、コンテンツ無限社会が到来していると言えるのではないでしょうか。人類がスマホを持ち始め、ひまさえあればSNSをいじる時代、コンテンツは無限に必要とされていると思うのです。
そして、そのコンテンツは、何も特別なことでなくていいと思うのです。たとえば、オンナ芸人のレジェンド、えみちゃんこと上沼恵美子は「上沼恵美子ちゃんねる」で家庭料理を披露し、多くの視聴回数を稼いでいます。これはもちろん、えみちゃん本人に知名度があってこそ。もとより料理上手と評判の高いえみちゃんでしたが、亭主関白のご主人の下、働きながら二人のお子さんを育ててきただけに、手際の良さが光ります。テレビのように作りこまれた笑いではなく、ゆるーく、それこそお茶でも飲みながら見られるもののほうがウケるのではないでしょうか。えみちゃんのYouTubeを見ていると、大衆の求めているものが見えてくる気がするのです。まず、えみちゃんはスーパーで手に入りやすい調味料、手ごろな食材で料理をすることがほとんどです。高額納税者として名をはせたえみちゃんであれば、お高いものを使っていても不思議はありませんが、視聴者に合わせてくれているのではないかと思います。
また、えみちゃんであっても、高級感があったり、ちょっと手間のかかる料理の時は、再生回数があまり伸びていない。これは、一般人がセレブの生活を見たいのではなく、「自分たちに近い人を見たい」と思っているからではないでしょうか。
知名度と親近感と言えば、オンナ芸人に勝る人たちはいないでしょう。そのせいか、彼女たちの活躍はめざましいものがあります。「多芸は無芸」ということわざがありますが、今はむしろ逆で今、お笑いコンビ・Aマッソの加納愛子は中京テレビのドラマ「スナック女子にハイボールを」を担当、三人のお子さんを持つ横澤夏子はママ特化型バラエティ「夫が寝た後に」(テレビ朝日系)のMC、3時のヒロイン・福田麻貴はドラマ「婚活千本ノック」(フジテレビ系)の主役と、お笑いの枠を超えて自由に活躍しています。
プライベートのあり方も多様化しています。かつてはオンナ芸人はモテないで笑いを取っていましたが、女芸人No.1決定戦 THE Wの七代目王者に輝いた熊本プロレス・紅しょうがは「八方・今田の楽屋ニュース2023」(朝日放送テレビ)でホストクラブ通いを公言していますし、その相方、稲田美紀は2023年12月28日放送の「おかべろ」(関西テレビ)で、「俳優さんと結婚するんです」「そのために東京に来たんです」と積極的な姿勢を見せています。テレビではホストや俳優さんとの婚活の話はしづらいかもしれませんが、そういうヤバい話はYouTubeで話せばよい。これからの芸能界は、二刀流が基本になるのかもしれません。
誠子は“女性誌の中の人になりたい”タイプ
なので、誠子も誰もやったことのないお笑いを見つけてテレビに出ながら、ていねいな暮らしをYouTubeで配信したほうがいいような気がしてしまうのですが、その一方で、お笑いがやりにくいだろうなとも思うのです。
誠子がテレビに出だしたころは、まだ見た目いじりがウケることから、誠子がいいオンナふうな発言をし、渚がつっこむという勘違いブスのネタをよくやっていたと記憶しています。ブスという言葉を自称する人には二種類いて、男性からの評価が自分の価値だと思いこんでしまっている人と、自分の美意識に現実がおいついていかない(なので、他人から見てブスでなくても、本人は頑なにそう思いこんでいる)人がいるのではないでしょうか。前者が「ちょうどいいブス」(主婦の友社)で大炎上した相席スタート・山崎ケイで、後者が誠子なのだと思います。2017年放送の「ノンストップ」(フジテレビ系)によると、誠子は東京進出を機に、芸能人の聖地・中目黒に住み、浜崎あゆみと同じ美容院に通うなど、キラキラ女子的な生活を始めます。今のていねいな暮らしもそうですが、誠子はどちらかというと、女性ウケしたい、女性誌の中の人になりたいタイプなのだと思います。
誠子の「美女に変身」にヤフコメは辛辣
だんだんと、見た目イジリはよろしくないという考え方が浸透しだし、誠子も時流を読んで、見た目で笑わせるネタを封印します。「見た目で人を判断しない」というのは、主に学校や採用試験、職場など評価を伴う場所で「美人は性格がいい」「イケメンは能力も高い」というふうに、その人の能力を見た目で決めつけるのはよしましょうという話なのですが、ネットニュースの中には「ほめるニュアンスであれば、見た目の話もOKなのでは?」と捉えているところもあるようです。そのため、誠子がダイエットをしたり、新しい髪型やメイク法に挑戦した場合、「美女に変身」というようなタイトルがつけられることが多いのですが、辛口で名高いヤフーコメントには「前よりましになったが、美女ではない」と書き込まれてしまう。なかには「調子に乗っている」とか「芸人なのに、勘違いしてヤバい」という意見もありました。多様性の時代という割には、美容好きなオンナ芸人に世間サマはあまりにも冷たい。誠子は自分の好きな美容をやっているだけで、「私、きれいになったよね?」とリアクションを求めているわけでもないのに、悪く言われてしまって気の毒だなと思います。
人の見た目をアレコレ言わないということは大分浸透したものの、その人の見た目によって他人が美容とのつきあいを制限したり、きれいになろうとする人を冷笑したりする。ルッキズムNO!と言いながら、日本の美容整形が増える一方なのは、こんなヤバさを反映しているのかもしれません。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」