4月20日は1871(明治4)年に新式郵便業務が始まったことにちなみ定められた「郵政記念日」。それに合わせて、切手収集の趣味の普及を図る「切手趣味週間」(今年は4月19日から1週間)も実施。毎年、美しく芸術性の高い記念切手が販売される。メールの普及で手に取ることが減ってきた切手だが、ネットオークションでは、額面以上で取引されるものも。はたして、どんな切手がレアで価値があるのか徹底解剖!
22万円の評価額のレア切手も
メールやSNSの普及により、姿を消しつつある手紙文化。今年の年賀状販売枚数も国民1人あたり約12枚と、1970年以降でもっとも少ない数字となった。
40代以上の世代なら、昭和30~50年代の文通ブームを懐かしく思い出せるはず。雑誌の伝言板で知り合った文通相手や、遠方に住む祖父母などに宛てて手紙やはがきを書くことは日常であり、コミュニケーションの重要な手段だった。
それと時を同じくして起こったのが「切手」ブーム。大切な切手に指紋がつかないよう、ピンセットで1枚ずつ、切手アルバムに並べた思い出がある人も少なくないはずだ。
「国内最大の切手収集家団体である公益財団法人日本郵趣協会には、ピーク時で約3万人の会員が在籍していました。今の会員数は6000人ほど。ずいぶんと減ってしまいました」
と話すのは、切手収集家で郵便史研究家の板橋祐己さん。
ブーム最盛期、せっせと収集に励む少年少女の憧れの切手といえば、やはり歌川広重画の「月に雁」と、菱川師宣画の「見返り美人」の2枚だろう。もしかしたら実家のタンスに眠っているかもしれないこれらの切手、プレミアがついているかも?
「日本郵趣協会発行のカタログでは、未使用で状態のよい『月に雁』は2万5000円、『見返り美人』は1万8000円の評価額とされています。ただし最近では需要が少ないため、実際にはこの3分の1から半額ほどの価格で取引されているようです。シミがあるなどあまり状態のよくないものでは、2千〜3千円で手に入る可能性もあります。30~50年前ではとても考えられなかった価格帯まで値下がりしていますね」(板橋さん、以下同)
この2枚はいずれも、1940年代の「切手趣味週間」に発売された記念切手。ちなみに過去に発行された記念切手のうち、現在最も高額で取引されているものは1916(大正5)年に発行された「裕仁立太子礼記念切手」の10銭だという。
昭和天皇である裕仁さまの皇太子即位を記念したもので、当時1銭5厘、3銭、10銭の3種が発売された。
「その中でも10銭切手は特に発行枚数が少なく、日本郵趣協会のカタログでは22万円の評価額です。現在でも5万円前後で取引されており“切手の王様”といえる1枚です」
記録的な円安もあって値崩れしているプレミア日本切手だが、世界的に見ればまだまだ人気は根強い。昨年、スイスで開かれたオークションでは、1枚の古い切手がなんと約8億円で落札された。しかもそれが日本の切手だというから驚きだ。
「1871年に日本で初めての切手が、4種発売されました。その中でもっとも高額だったのが500文切手ですが、これには文字が上下さかさまに印刷されたエラー切手が存在します。大変貴重な、国宝級の切手として知られています」
当時は40枚の切手を1シートとして製造・発行していたため、残存していればあと39枚のエラー切手がこの世のどこかに存在していることになる。しかし現在に至るまで、所在が確認されているのはこの1枚のみだという。
「エラー印刷でない通常のものでも、10万円ほどの値がつく切手です。状態があまりよくないものでも3万円ほどで取引されています」
「伊勢志摩サミット特殊切手」は約3倍の価格に
これに次ぐレア物とされるのが、1875(明治8)年に発行された6銭切手、通称「玉六のヨ」。たまごの黄身のような鮮やかな黄色で、「ヨ」の仮名文字の刻印があることからこう呼ばれている。
「世界的な切手収集家である、ルーマニアのカロル2世のコレクションに収められていたことで知られています。約6枚現存していることがわかっており、2006年にはそのうちの1枚が約1000万円で取引されました」
こんな宝くじ級の超お宝が実家に眠っている可能性はさすがにゼロに近いが、もう少し身近なところではこんな面白い切手も。
「2016年発行の『伊勢志摩サミット特殊切手』は、日本で初めてシルクを用いて作られた珍しいデザインです。発売当時の価格は1300円ですが、現在は4000円前後で取引されています」
また2004年に発行された、酉年の「干支文字切手」シートも人気。この年からシリーズとして毎年発行され、2015年の「申」で一巡した。
「80円切手10枚で構成されており、それぞれに10人の書家が書いた『酉』のひと文字が印刷されています。同じ漢字文化圏の中国人がこぞって購入したことで品薄になったという珍しいいきさつがあります。額面は800円ですが、現在は2000円ほどで取引されています」
プレミアがついているのは一部の切手だけではない。まさか価値があるとは思いもしない古い年賀状が、思わぬ「珍品」であることも。
「1944年から終戦までの約2年は、太平洋戦争が激化し年賀状どころではなかった時代です。厳しい戦禍をかいくぐってやりとりされた年賀状はそれ自体がきわめて希少価値が高く、5000~3万円ほどで取引されることもあります」
紙などの物資も貴重であった戦時中は、郵便を取り扱っていた通信当局ですら年賀状の自粛を呼びかけるほどだった。
もし祖父母の家から古い年賀状を見つけたら、消印や通信文を確認してみよう。それが昭和19年、20年のものであれば、年賀郵便の取り扱いが中止されたなかで届いた、奇跡のお宝はがきといえる。
「また、年賀状といえばはがきが一般的ですが、昭和の初めは封書の年賀状が存在しました。非常に珍しく、ものによっては10万円ほどのプレミアがついたこともあります。特に、昭和30年代のものが人気です」
なぜはがきではなく封書なのか。当時、ビジネスシーンの一部では「はがきではなく封書」という風習があったようだ。またコレクターの間では、封書の年賀状だけに押されていた特別デザインの消印も、価値を高める要素となった。
「切手ブームにかつての勢いはないものの、最近では『クールジャパン』効果で日本のアニメキャラクターの切手がアジア各国で人気の兆しを見せているようです。また国内では、レトロ郵便局を巡る旅がSNSで注目されています。いまや郵便は廃れゆくインフラですが、利用者が新しい価値を見いだしていることをとてもうれしく思います」
総務省が今年3月に郵便料金の大幅値上げを承認し、日本郵政が今秋を目安に実施予定。実現すれば30年ぶりの改定となる。はがきは63円から85円に、定形郵便は84円から110円に改定される見込みで、改定に合わせた新切手の発売も予定。
わずか数センチ四方の中で、色彩豊かにあらゆるものを表現する日本の切手は、まさに精巧な芸術品。とっておきの封筒や便箋を用意して大切な人へ思いを伝えてみてはいかがだろう。
板橋祐己 切手収集家、郵便史研究家。最近では、「レトロ郵便局」を提唱し、明治・大正・昭和の郵便局舎の再生・活用のための活動を展開