春は、新生活がスタートした人だけでなく、心機一転して生活を刷新したくなる季節。整然と片付いた部屋に憧れて、模様替えやモノの整理をしたいと思っている人も多いのでは。
リビングの床には何ひとつ置かないルール
そんな人に、ぜひ見てもらいたいのが究極の“スッキリ部屋”をSNSで公開し、大きな支持を得ている主婦でミニマリストのNozomiさんの暮らしだ。
彼女が家族4人(夫、2人の子ども)で住む実際のリビングだが、まさか乳幼児2人がいるとは思えないほど“空っぽ”。
ソファやテレビといった大型家具だけでなく、バッグなどの小物に至るまで“床にはモノを置かない”といったマイルールを設け、常にこの状態をキープしているというから驚きだ。
さらに、YouTubeやインスタグラムでは「散らかってもすぐ片付くので、掃除や片付けの時間が短縮され、捜し物にかかるムダな手間もないからラク」だと、その快適さを発信している。
とはいえ、子育てをしながら、これほどモノが少なく整然とした部屋を維持するには、よほど完璧主義でストイックな生活が必要なはず!
ところが、実際に話を聞いてみると、意外にもさにあらず。
「家族には家族の価値観があるので、ミニマルな生活を強制することはないです。夫は昔も今も、どちらかといえば持ち物が多いほうなんですよ」
とおおらかに笑う。一見、“普通の主婦”に見える彼女がどうやって家族と一緒に無理なく“なんにもない”生活を続けているのか。気になるその暮らしぶりを聞いた。
1枚のワンピースを毎日洗濯して着倒す
まず、驚くべきは洋服。持っているのはワンピース1枚(ほかアウター2枚)のみで、毎日、どこへ行くにもそれだけで過ごしている。
「夜のうちに洗濯、乾燥し、翌朝また着るので、困ることはありません」
ただし、1枚を何年も着続けているわけではない。もったいないからと同じ服を10年も着続けるような“節約家”とは異なり、目的はあくまで快適に暮らすことで、そのためにモノを減らしているだけ。
シーズンごと(春夏用、秋冬用)のシンプルなシャツワンピースを厳選し、“1枚を着倒したら手放して1枚だけ新調”を繰り返している。また、少し値段が張っても、条件に合うものを優先。
「GUやユニクロで購入することが多いのですが、昨秋冬は上質な『SOEJU』というブランドの19800円のワンピースを買いました。乾燥機を使ってもシワにならないところがお気に入りです」(Nozomiさん、以下同)
正直、ずっと同じ服で飽きないのかと思ってしまうが、自分に似合う色やシルエット、ポケットの有無など、毎日を気持ちよく過ごせる条件を備えた服を選んでいるので、まったく問題なし。
「むしろ、毎日の服選びや洗濯後の服の整頓、季節ごとの衣替えといった手間や時間がなくなって、ストレスが減っています」
衣類関係はワンピースとアウターのほか、タイツが1〜2着、下着(ナイトブラと吸水ショーツ)がそれぞれ2、3枚など、1年を通じて少数精鋭で過ごしている。
さらに、驚異的なモノの少なさは衣類だけにあらず。スマホや家の鍵、マイナンバーカードなど必要不可欠な貴重品から日用品、消耗品を含めても、自分の持ち物は40個にしかならないと教えてくれた。
「まだ使えるかどうかではなく、“今、必要か”、私が“使いたいものか”、というところに焦点を当てていったら、自然にモノが減っていきました。
日常的に使えて、生活を豊かにしてくれるものだけに囲まれているので、モノは少ないですが、すごく満たされた気持ちで過ごしています」
モノを厳選すれば家事時間も短縮できる
Nozomiさんのモノ選びの基準は6つ。その考えは、消耗品にも及ぶ。例えば、ラップは巻きの長いもの、トイレットペーパーは芯なし、シャンプー類は家族4人で共有でき、リンスやボディソープにも代用できるもので一元化している。
「買い替えの頻度が少なくて、モノ自体の量が減らせるかどうかを重要視しています。ラップを買い足すというのは、些細(ささい)な手間かもしれませんが、家事の1つ1つは、そういった小さいことの積み重ね。
やらなくてよい作業や手間をコツコツとなくしていくことで、かなりの時間を浮かせることができます」
そんなモノも時間も効率よくコンパクト化しているNozomiさんだが、家族の反応は? 家族がいてもモノが“極少”の暮らしを保つには、どんな秘訣(ひけつ)があるのか。
「前述したとおり、夫は比較的“モノ持ち”派。“いつか使うかも”と思ったものは残しておこうと考えるタイプです。それを理解できず、夫の私物を“ずっと使っていないし要らないだろう”と勝手に捨ててしまい、もめたこともありました」
と、過去の失敗を話してくれたNozomiさん。
それ以降、夫婦間でも価値観が違うことを意識し、家族で共有するモノに手をつけるときは、相談しながら減らすようにしたと話す。
また、キッチンなどにも“夫スペース”を設け、そこだけはどんなにモノであふれていても手出しをしない聖域に。お互いの考えを尊重する工夫をした。
一方、夫にも変化が。
「“減らしたら?”と言うことはありませんが、以前はクローゼットからあふれていた服が、今ではきちんと収まって、余白があるほどに減っています。
衣類など個人の持ち物が究極に少ない私を間近で見て、“モノが少なくても生活に支障はない”と感じてくれたり、不要なモノがない部屋を気持ちいいと感じてくれたからかなと思います」
旅行で気づいた!モノは少なくても大丈夫
“スッキリした部屋=心地よい”を家族で自然と共有できていることが、今の部屋の維持につながっているとNozomiさんは話す。
「モノが極端に少ないと“子どもがかわいそう”とか、モノトーンの部屋で“子どもの目が悪くなるのでは”といったコメントをSNSでいただくことがありますが、わが家の子どもたちは、いたって普通(笑)。
そのとき遊びたいモノを自由に持ってきて、のびのびと遊ぶ姿を見ていると、子どもこそ何もない広々とした空間を楽しんでいるなと思っています。モノは少なくても子どものおもちゃはありますし、本当にごくありふれた家庭なんです」
では、無理することなく、整えられた部屋にしていくには、何から始めるべきか。Nozomiさんいわく「衣替えや引っ越しのほか、これからの旅行シーズンもモノを見直すチャンス」だとか。
「実は、私がミニマリズムに目覚めたきっかけの1つは旅行でした。独身時代は、必要な最低限のモノをバックパック1つに詰めて、海外旅行へ行くのが趣味だったんです。
足りなくなったら現地で新しい洋服を買えばよいという感覚で、着古したTシャツ1枚だけで出発したことも。そうしているうちに、旅行中、たったこれだけのモノで過ごせるのだから、日常も同じようにいけるんじゃないかなと思うようになりました」
旅行やお出かけでいつも大荷物になってしまう人は、一度、思い切って荷物を最小限にしてみるのがよい。
「究極は財布とスマホ、海外ならパスポートさえあれば大丈夫。“なんとかなる”を体感できれば、モノを手放す不安が減ると思います」
と後押しする。
次に、実際に自宅のモノを減らすときは、“執着のないもの”から手をつけること。
「書類など、要・不要の明確なものは比較的取捨選択がしやすいですが、そうではないものは、関心の薄いものから始めると手放しやすいです。例えば私のように着るものにこだわらない人は、洋服から整理していくのもよいですね」
ほかには、押し入れなどの大きな収納も手始めにおすすめ。1年以上まったく使っていないモノ、あったことすら忘れていた季節用品など、不要だと判断しやすいものがあふれているので捨てやすい。
「整理することで空きスペースが生まれ、リビングなどの住空間にはみ出していた“今必要なもの”がきちんとしまえるようになります」
逆に、キッチンやリビングなど、モノが持ち込まれやすい場所から始めると、一時的にキレイになってもすぐにリバウンドしがち。まずは散らかっているモノの定位置を決められるよう、場所を空けることが肝心だ。
「モノが少ないと、誤って同じものを買ってしまうことも減るので、経済的にもメリットを感じています」
思い出の“あのころ”より今を大事に!
そうはいっても、いざ捨てるとなると“もったいない”“思い出は捨てられない”という気持ちが湧きがち。
「その気持ちはわかります。でも、使うかもしれない“いつか”やそれを買ったりもらったりした“あの時”より、今の暮らしの充実を優先したほうがよいと思いませんか?たとえ手放しても、そこに詰まっていた思い出までがなくなるわけではありません。
“終活”もそう。人生の最期に向けてモノを減らしていく悲しい作業ではなく、今の一番若い時間をより快適に過ごすための前向きな整頓と捉え、思い立ったら積極的に始めるのがいいなと思っています」
さらに、モノが少ないと片付けのハードルも下がるので、キレイな状態を維持しやすい。年齢を重ねたとき、生活上の安全面でも利点に。
「なにより、掃除など家事の手間が減って自分の時間が増えたことが大きな喜びです。好きなことができる時間が生まれると、気持ちに余裕ができ、自己肯定感もアップ。モノから解放された今の生活は、本当に幸せです」
お話を伺ったのは……Nozomiさん●夫と子ども2人の4人暮らし。子育てをしながらも“モノも家事も最低限”にした生活がSNSで注目を集める。Instagram、YouTubeチャンネル「ミニマリスト Nozomi」ほか、Voicy、ブログでミニマルな暮らしぶりを発信。初の著書『ものも家事も最低限。子どもとミニマルに暮らす』(集英社クリエイティブ)が4月26日に発売。Instagram:[@nozominimam]
取材・文/河端直子