スターの役目は、大衆を驚かせることだ。それを続けられるかどうかで、スター性が決まる。その点、松田聖子ほど、この役目に忠実な人はいない。今回は「勉学」という意外なところで驚かせてくれた。
《通信教育は孤独な戦い》
中央大学法学部の通信教育課程を卒業。『弁護士JPニュース』では、同じ大学の先輩にあたる弁護士が、
《通信教育は孤独な戦いです。1人でレポートを1枚1枚コツコツ作成していく。勉強していることが好きじゃないとなかなか続かない》
と、コメントしていた。
もっとも、聖子はデビュー前、中学の教師から「まず無理」と言われた高校に、猛勉強して合格している。歌手デビューも、父親の猛反対を半年以上かけて説得し、実現にこぎつけた。何事も狙いを定めたら必ずものにする、というのが彼女の生き方だ。
そんな「らしさ」が大いに発揮されてきたのが恋愛だろう。高校時代、友人の前で、芸能界に入って郷ひろみと結婚すると宣言したという話も伝わっていて、実際、結婚目前までいった。その郷との破局を涙ながらに明かした1か月半後には、神田正輝との交際を笑顔で告白。翌月には、神田にとっての「ボス」石原裕次郎がふたりの婚約を勝手に公表してしまう。
投資ジャーナル事件で騒がれていた倉田まり子からメディアの関心をそらす目的だったともされるが、これを機に神田をビッグにできるという計算も働いていたという。裕次郎もまた、大衆を驚かせるのがスターだと知っていたわけだ。
なお、聖子や裕次郎に共通するのは「見る前に飛べ」的な感覚である。特に聖子には、興味を持ったものにどんどん飛びついていくところがあり、それが「恋多き女」という評価にも、時にはバッシングにもつながってきた。
聖子という星は複雑な多面体
落ち着いた生き方を好む人には、異様に見えたりもするのだ。ただ、3度目の結婚(2012年)あたりからは平和な日々を送っていた印象がある。しかし、その平和を崩すような悲劇が2021年12月に起きた。ひとり娘・神田沙也加の死だ。
そのショックは計り知れないが、彼女は大学に通い始めて2年目の途中でもあった。法律の勉強にコツコツ励むことが、癒しにつながったという。興味を持って飛びついていたことが、救いももたらしたわけだ。
もちろん、歌の力にも彼女はすがった。今年2月に発表したジャズアルバムで、エリック・クラプトンの『ティアーズ・イン・ヘヴン』をカバー。4歳の息子を転落死で失ったクラプトンがその思いを託した曲だ。3月に出演した『ミュージックフェア』(フジテレビ系)でもこの曲を披露して、
「何があっても、どんなときも、前向きに生きていかなければいけない、頑張っていかなければいけないというのを、この曲から教えてもらいました」
と、語った。生き生きと動く、動き続けることで負の出来事をも乗り越えようとする力。それが転機を目まぐるしく繰り返し、大衆を常に驚かせるような生き方につながっている。
それにしても、デビュー当初のぶりっ子、ウソ泣き(?)に始まり、破局直後の結婚、不倫、ブランドショップ開店、米国進出、ビビビ婚、娘の死、そして今回の大学卒業と、彼女の驚かせ方はさまざまだ。ひとつの色で輝き続けるスターもいるが、聖子という星は複雑な多面体なのだろう。
多様性を求められる時代でも、スターでいられる理由がそこにある。
宝泉薫(ほうせん・かおる)アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)