『ズームイン!!朝!』(日本テレビ系)の名物コーナー「ウィッキーさんのワンポイント英会話」で一躍人気者となったアントン・ウィッキーさん。
「87歳になった今も、都内のカルチャーセンターで英会話を教えています」と、あの当時と変わらない優しい口調で語る。
アントン・ウィッキーさんの現在
「いろんなカルチャーセンターで計15クラスを受け持っているから、週7日ペースで教えています。今日も、午前中は二子玉川で教えて、午後は西新宿に移動して、違うクラスを担当しました。あと5か月で米寿を迎えるのに働きすぎだよ(笑)」(ウィッキーさん、以下同)
生徒のほとんどは、「ワンポイント英会話」を見ていた世代だという。
「英語に対してあこがれを抱いていた世代ですよね。年配の方も多いですから、私は難しいことは教えず、会話で大事なことだけを伝えるようにしています。
例えば、『今日は寒いですね』と話す場合、トゥデイイズコールドと話す方がいますが、イッツベリーコールドが正しいんです。トゥデイよりもコールドが大事。相手に伝えたいことを前に持ってくる。それが英会話のコツです」
長年、日本の英語教育を見続けてきたウィッキーさんは、日本人が「英語を怖がらなくなった」と感慨深げに話す。
「ワンポイント英会話のときは逃げる人がたくさんいたでしょ?(笑) 昔は、英語を目からインプットしていたけど、今は本を読む人が少なくなったこともあって、耳からインプットする時代に変わったことも大きいと思う。
よく若い人は、『今、なんて言ったの?』って恐れずに聞き返してくるけど、目ではなくて耳から情報をインプットすることが多いからだと思います。年配者の多い私の生徒たちには、まず目から耳に移行させることも教えていますね」
来日して半世紀が過ぎた。活躍して稼いだお金は、5つもの保育園をつくるなど祖国スリランカのために役立てた。
「今もスリランカとの交流はあります。日本各地で行われる『スリランカフェスティバル』で、スリランカの魅力を伝えています。近々だと5月18、19日に千葉県鎌ヶ谷市で行われるので、ぜひ遊びに来てください」
そう言って、目の前の昆布茶をごくりと飲む。「昆布茶、大好きなんです」。その姿は、すっかり日本に溶け込んでいる。
「私が来日するとき、母は『あなたはもうスリランカには戻ってこない』と予言めいたことを言ったのですが当たりました。母が寂しくならないように私は国籍を取得しなかったけど、自分は心から日本人だと思っています。
この年になっても働けるのは、私を必要としてくれる人がいるから。英語を学びたいという生徒さんの情熱が、私にパワーをくれる。自分で歩けるうちは英会話を教え続けたい。貧乏暇なしなんです(笑)」
取材・文/我妻弘崇