左から二宮さん、善本考香さん、あさみさん

 早期発見につながる、がんの予兆。わずかな体調の変化から大きな異変まで、さまざまな症状があるが、突然痛みに襲われる脳梗塞や心筋梗塞などに比べると、がんの予兆は比較的ゆるやかで気づきにくく、見逃してしまうことも少なくない。

 運よく初期で異変に気づき、病院で治療を受けられれば助かる可能性は高いが、異変に気づかなかったり、大したことはないだろうと見過ごしたりしてしまうと、がんが進行してしまう。

 そこで、身体の異変を察知して命拾いをしたがんサバイバーに、実際にどんな予兆が起きていたのか、話を聞いた。どれも日常で起こりうる症状で、人ごととは思えないものばかりだ。ぜひ、参考にしてほしい。

筋トレしていたのに減り続けた筋肉【大腸がん】

吐き気や貧血、体重減少、いくつもの異変に襲われた……あさみさん(61)

 1人目は、2015年11月に大腸がんを宣告されたあさみさん。がん宣告の半年前からいくつかの体調不良に悩まされていたという。

「2015年の春、吐き気で食事が食べられなくなり、近所のクリニックに行くと胃腸炎と診断されたんです。出された胃薬を飲むと症状は治まるのですが、すぐにぶり返して病院で薬をもらう、ということを繰り返していて。だんだん不安になり、総合病院も2か所に行きましたが、診断はやはり胃腸炎でした」(あさみさん、以下同)

 このころのあさみさんは、毎週ジムで筋トレをしていたが、体組成計で測るとなぜか体重と筋肉量が減っていた。

「トレーナーさんにはタンパク質不足ではないかと言われましたが、特に食事制限はしておらず、鍛えているのに変だなと違和感を覚えました」

 さらにあさみさんは食べ物を少し食べただけでお腹が張り、吐き気や嘔吐(おうと)、貧血にも悩まされた。

「その当時は立ち仕事をしていたのですが、立っていられないこともありました。もともと健康体で、貧血とも無縁だったんですが……」

 9月にたまたま仕事を退職することになり、いい機会だからと人間ドックを予約したが、4か月先まで予約が取れなかった。しかし胃の不調は続いていたため、胃と大腸の検査だけ先に受けることに。

「内視鏡検査は初めてでしたが、もしこのとき検査を受けていなければ、今の私はいなかったかもしれないと思います。結果的に胃には問題なく、大腸にがんがあると告げられました。その場で見た内視鏡の画像は衝撃的で恐ろしく、一瞬死がよぎりました。

 医師はその場で大学病院に検査入院の予約を入れ、ここなら大丈夫だからと言ってくれたのですが、自分はそれほど重い症状なのかと、かえって怖くなったのを覚えています」

あさみさん

 結局、大学病院でステージ4の上行結腸がんを宣告され、肝臓に8か所転移があることも判明。翌年1月に結腸と肝臓の転移部分を手術で摘出した。

「その後、肺や肝臓に合計3度の再発転移を経験し、手術ですべて切除しました。しかし2020年に4度目の再発で多発性肺転移と転移性甲状腺がんが見つかり、主治医からこれ以上は手術できず、何もしなければ8か月、抗がん剤治療をしても25か月と余命宣告を受けました。

 以来、抗がん剤治療を続けつつ、経過を見ながら肺へのラジオ波焼灼術や甲状腺の手術も受けて現在に至ります」

 振り返ってみると、吐き気や貧血、体重の減少など、どれもがんの予兆だったとわかるが、当時は結びつけて考えなかったというあさみさん。

「大腸がんの症状は、肛門に近い直腸にできた場合に起こる下血や便の細りなどのイメージが強いですが、大腸は長く、がんができる部位によって症状もさまざま。

 私が患ったのは大腸の始まりの部分で、上行結腸という場所にできるがん。症状が現れにくく、かなり進行してから見つかることが多いんです。

 ネットで検索して当てはまらないからと見過ごしてしまうのは危険。少しでも違和感を感じたらすぐに病院で検査を受けることをおすすめします」

陰部の異常な臭いと風呂場での大量出血【子宮頸がん】

性交痛の痛みと出血に加え生理の異変で月の半分は出血……善本考香さん(53)

 2人目は2011年に子宮頸がんを宣告された善本考香さん。

善本考香さん

「夏になって、陰部から鼻をつくような酸っぱく異常な臭いがするようになり、病院に行ったほうがいいなと思っていました。それから少ししたころ、お風呂場で髪を洗っていると、膣から大量の鮮血がドバッと流れ出たんです。

 不正出血はそこまで珍しいことではありませんが、血の色と量を見て、もしかしてがんかもと強い恐怖に襲われました」(善本さん、以下同)

 国立病院の婦人科を受診すると、医師から「命の危険がある。子宮体がんか、子宮頸がんかもしれない」とあやふやな“がん宣告”を受け、恐怖で頭が真っ白になった。

 振り返ってみれば当時は目がチカチカしたり、血糖値が下がったときに起こるような変な汗が出たりすることもあった。また5年近く前から、性交時にも異変が起きていたという。

「毎回痛みと出血がありましたが、あまり気にしないようにしていました。数年前から生理も2週間続くようになって、出血が日常になっていたんです。今思えばどれも異常な症状ばかり。身体は明らかにSOSを発していました」

 それから新しい病院を受診し、再検査を受けるとステージ1の子宮頸がんが見つかり、子宮と卵巣の摘出手術を受けることに。ようやく、がんの正確な状態がわかってホッとした。

 手術では、骨盤内のリンパ節に転移も見つかり、同時切除。術後は抗がん剤治療を行ったが、2012年にお腹のリンパ節への再発が判明し、すぐに2回目の抗がん剤と放射線治療を行った。

「3度目のリンパ節転移が見つかったときは命の危険を感じました。セカンドオピニオンで、標準治療以外の保険診療にもトライしてくれる医師と出会い、その後の2度にわたる全身転移も乗り越えて、2013年の年末にはすべてのがん細胞が消滅しました」

抗がん剤の副作用で脱毛が進んだ善本さん。しばらくはウィッグをつけて生活していた

 その後、再発なく元気に過ごしている善本さんだが、性交時の異変について我慢せずにパートナーと話していればと、悔やむこともあるという。

「出血や痛みを伝えると相手の性能力を否定することになり、男性は性行為に自信を持てなくなってしまうのではないかと思ったんです。

 それで一人で我慢していましたが、こうした異変は命に関わる場合もあるので、遠慮せずにパートナーと話せばよかったと今は思います」

肺に転移したがんを摘出した際の背中の傷痕。痛みでしばらく横になって眠れなかったという

転院が遅れていたらどうなっていたか【卵巣がん】

水っぽい“おりもの”が2週間続いた……二宮さん(48)

 3人目は、2022年に卵巣がんが見つかった二宮さん。身体の異変を感じて近所のクリニックを受診したが、なかなか異常が発見できなかったという。

ある日、尿漏れしたのかな?と思うような水っぽいおりものが出て、それから2週間近く、徐々に量が増え続けたんです。それまで粘度のあるおりものしか経験がなかったので、おかしいなと思い、9月に近所の婦人科に行きました」(二宮さん、以下同)

 しかし経膣エコー検査でも異常は見つからず、子宮頸がんと子宮体がんの検査を受けることに。

二宮さん

「検査は2つとも問題がなく、先生から更年期障害かもしれないから、薬を飲んで様子を見ましょうと言われました。しかし、おりものはなかなか治まらず、3回ほど徐々に強い薬に替えてもらいましたが状況は変わりませんでした。

 とても不安でしたが、先生に『悪い病気ではないから大丈夫ですよ』と言われていたので、しつこく『大丈夫ですか?』と尋ねるのも気が引けたので様子を見てしまったんです」

 ところが、おりものに血が混じり薄茶色になってきたため、2023年2月に思い切って大きい産婦人科を受診する。

「実は私の友人の妹さんも同じ近所の婦人科に通っていて症状が好転しなかったため、転院したところ、卵巣がんが見つかったという話を聞いたんです。友人からその話を聞いてまずいなと感じ、その場で転院の予約を取りました。

 あの話を聞かずに転院が遅れていたらと思うと怖いですね……。長く診てもらっている主治医だと、遠慮してしまうこともありますが、不安を感じたら迷わず別の先生に見てもらうことがとても大切だと感じました」

 転院先で検査すると、4cm程度の卵巣の腫れを指摘された。ここでも子宮頸がんと子宮体がんの検査を受けたが特に問題はなかった。

「念のため腫瘍マーカーとMRIを受け、翌月に結果を聞きにいくと、卵巣がんの疑いがあると告げられ、大学病院を紹介されたんです。ショックでしたね」

※写真はイメージです

 紹介先の大学病院で、卵巣がんの疑いで間違いないので手術を、という話に。初めのクリニックを訪れてからすでに半年が経過していた。

「大学病院で卵巣と子宮、周囲のリンパ節の切除手術を受け、ステージ1〜2の卵巣がん、それにステージ1の子宮体がんも見つかりました。術後は半年間抗がん剤を続け、昨年の9月から経過観察中です。

 がんの発見まで紆余曲折ありましたが、思い切って別の先生に相談したことで命拾いしました。診断に不安があれば躊躇(ちゅうちょ)せずに別の病院に行ってみるべきだと思います」

 がんの予兆といえど、普段の体調の変化の中に埋もれてしまうような小さな変化も多く、見逃してしまうことも少なくない。特に女性の場合は、婦人科系の症状だと受診を先送りにしがちだ。

 少しでも不安を感じていたら、早めに病院で検査を受けたり、複数の先生に相談したりすることが大切なのだ。

「振り返ってみると、あれが予兆だったのかなと思うけれど、そのときは信じたくないという気持ちもあって見過ごしがちだった」と語るがんサバイバーの3人

取材・文/井上真規子