2022年、映画『トップガンマーヴェリック』来日会見時のトム・クルーズ 順調なキャリアを重ねてきたが、娘とは会えない状況だった

 世界を沸かせたあのベイビーが、いつのまにか大人になっていた。トム・クルーズとケイティ・ホームズの娘スリ・クルーズが、今月18日に、18歳の誕生日を迎えたのだ。だが、祝福の場に、父の姿はない。毎月きちんと養育費を払ってはいても、トムはもう10年以上、娘に会っていないのだ。

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父娘は最初からこんな関係にあったわけではない。スリが幼かった時には、娘を抱っこして歩いているトムの姿がたびたびパパラッチされていた。スリは、トムにとって初めての血のつながった子供だ。最初の妻ミミ・ロジャースとの間には子供をもたないまま別れ、2番目の妻ニコール・キッドマンとは、イザベラ、コナーという名の2人の養子を育てた。

出会いから7週間でケイティにプロポーズ

 トムが15歳下のケイティと付き合い始めたのは、ニコールと離婚した5年後の2005年4月。出会ってわずか7週間後にプロポーズをするという、早い展開だった。共演歴もないこのふたりが関係を公にしたのは、ローマでのイベントに一緒に出席し、熱々の様子を披露した時。オプラ・ウィンフリーのトーク番組で、トムが「僕は恋をしているんだ!」と宣言してカウチの上を飛び跳ねたのは、即座に伝説となった。

 この頃、トムは『宇宙戦争』、ケイティは『バットマン ビギンズ』の公開が控えており、宣伝効果への思惑もあったのかは不明。だが、“トムキャット(TomKat)”と呼ばれてゴシップのトップに上がるようになったことがもたらしたのは、プラスばかりではなかった。

 クリストファー・ノーラン監督はすっかり辟易してケイティを続編『ダークナイト』からクビにしたし、トムのカウチでのジャンプは何度となくジョークのネタにされている。

 スリが生まれたのは、出会いからちょうど1年後の2006年4月18日。ヘブライ語でプリンセス、ペルシャ語で赤い薔薇を意味するスリという名前がつけられたことは発表されたが、写真は長いこと公開されなかった。

 ウィル・スミス夫妻はスリに会ったという報道も出たものの、「本当に存在するのか」「なぜ隠しているのか」と疑問が湧き始めたところへ、この話題の赤ちゃんは『Vanity Fair』の表紙で華々しく姿を表す。

 撮影したのは、超有名写真家アニー・レヴォヴィッツ。トムとケイティがスリを微笑みながら見つめているショットで、見出しは「Yes, Suri, She’s Our Baby!」(そう、スリは私たちの赤ちゃんだ)だった。いかにも大物セレブらしいやり方である。

ケイティの離婚申し立てにトムはびっくり

 結婚式は、出産から7カ月後、イタリアで、トムが信仰するサイエントロジーのしきたりに従って行われた。ケイティはカトリックとして育てられたが、トムと付き合うようになってすぐ、サイエントロジーの勉強を始めている。

 しかし、時間が経つにつれ、彼女の心は次第に変わっていったようで、結婚から5年半後の2012年6月、突然にして離婚を申請。『オブリビオン』の撮影でアイスランドにいたトムは、この思いもかけぬ展開に、世間と同じくらいびっくりしたようだ。

 離婚理由についてはどちらも公に語っていないが、サイエントロジーが関係しているのは確かだと見られている。密かに、しかし着々と離婚の準備を進めるうえでは、弁護士であるケイティの父マーティン・ホームズが尽力したようだ。だとしても、このセレブカップルの離婚が、財産もあって子供もいるにもかかわらず、申請からわずか1カ月弱で成立したのは驚きである。

 最近のケビン・コスナーの離婚に代表されるように、アメリカのセレブにとって常識である婚前契約(Pre-nup)を交わしていたとしても、どちらかが異議を申し立てて揉めることはよくあるのだ。

単独親権にこだわったケイティ

 ケイティとって一番大事だったのは、単独親権を得ること。スリをサイエントロジーが関わる学校に通わせていたカリフォルニアではなく、ニューヨークで離婚を申請したのも、そのためだ。ニューヨークは、敵対している元夫婦に共同親権を与えるのを好まないらしい。

 離婚申請後、ケイティはすぐニューヨークのチェルシー地区に新たな家を借りて引っ越した。以後、ケイティとスリはニューヨークで生活をしてきている(一方、トムは、近年主にイギリスをベースにしている)。

 ケイティはまた、離婚の条件の中に、スリをサイエントロジーに関するものに触れさせないことを入れたと言われる。トムは、教会や、教会が主催するイベントにスリを連れていくことはできない。面会は許すものの、その際にはサイエントロジーに関係のない、ケイティが認める人たちが付き添うことも、彼女は要求したようだ。

 しかし、トムは、その面会権をほとんど行使しないできた。そのことについては、トムがサイエントロジー信者でないスリと関係を築くことを教会が許さないのだとの説が聞かれる。

 それにしても、こんな顛末になったのはトムにとってなんとも皮肉である。トムは、同じことをニコールに対してやっているのだ。

 トムから離婚を言い渡されたのは、ニコールにとって青天の霹靂だった。トムは「こうなることは彼女にもわかっていたはず」と述べているが、ニコールは、その少し前にトムの子供を妊娠して流産していたという、それまで誰も知らなかった事実を明かしている。それが本当ならば、夫婦関係はまだあったということである。

 離婚後、サイエントロジーの信者である養子のイザベラとコナーは、ニコールと疎遠になった。それを知っていたから、ケイティは、娘との関係を断たれるのが自分ではなくトムになるよう、先に動いたのだ。

娘は自らの意思でトムに会うこともできるように

 スリが18歳になったことで、トムは、毎月40万ドル、日本円に換算すると年間で7億円超の養育費を払う必要がなくなった。それに、大人になった彼女が自分で父に会いたいと思えば、自由に会うこともできる。

 成長した彼女の顔は、ますます両方の親に似てきた。まだ若い彼女には、これからいろいろな人生の節目があるだろう。それらの場のどこかで、血を分けた両親が揃うことはあるのか。それは、誰にもわからない。だが、もしそれがかなわなかったにしても、世界一有名な映画スターは、自分の娘の幸せを常に心の中で願い続けているに違いない。


猿渡 由紀(さるわたり ゆき)Yuki Saruwatari
L.A.在住映画ジャーナリスト
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。