NHKの朝ドラ『虎に翼』で伊藤沙莉扮するヒロイン・寅子の母親を演じる石田ゆり子が存在感を発揮している。家庭を切り盛りしつつ、人前では“スン”と控える昔ながらの良妻賢母。都合のいい女の葛藤を抱える複雑なキャラを好演する石田に絶賛の声も多い。朝ドラでヒロインの母親は重要で、これまでも多くの印象的な“母”がいた。そこで30~60代女性1000人にアンケート。最高だった“朝ドラヒロインの母親”は誰?
最高な朝ドラ母親ランキング
「昭和など古い時代からスタートすることが多い朝ドラでヒロインに最初に立ちはだかる壁は、家父長制度の頂点に君臨する父親。逆に母親は最初の味方なんです」
そう語るのはドラマウォッチャーの漫画家・カトリーヌあやこさん。それゆえ、良妻賢母を絵に描いたようなキャラが多いのだが、そのパターンから外れていたのが5位にランキングされた『まんぷく』('18年)の今井鈴(松坂慶子)だ。「“私は武士の娘です”と厳しいことを言いつつ、愛嬌があった」(福岡県・49歳)、「あんなに可愛いお母さんは松坂慶子さん以外無理」(北海道・49歳)など厳しさとキュートさを兼ね備えたキャラが愛された。
「“#ぶしむす”がSNSでバズったほどの人気キャラ。『まんぷく』はヒロインの父親がいなかったので壁の役割を果たしていました。福子(安藤サクラ)の夫の萬平(長谷川博己)が破天荒な人で、それを全肯定する福子に対して異議を唱える、いわゆるツッコミのポジション。
朝ドラでは異色といえる母親像を、松坂さんのチャーミングさが魅力的なキャラクターにしましたよね」(カトリーヌさん)
4位は名作『おしん』('83年)の谷村ふじ(泉ピン子)。「あの時代の日本の母の象徴だった」(静岡県・62歳)、「厳しくつらくあたるだけでなく奥深い愛情を感じさせた」(神奈川県・51歳)など極貧ゆえに娘を売らなければいけない東北の寒村の母親の哀しい姿は、今でも多くの人々の目に焼きついている。
「当時、泉ピン子さんは女優というよりも『テレビ三面記事 ウィークエンダー』の身体を張ったリポーターでおなじみでした。貧しさの中で必死に生きる母親像は朝ドラではよくあるのですが、それが彼女の平坦ではない芸能人生と重なるリアルさもあったんじゃないかな。吹雪の中、子どもを堕ろそうと腰まで川につかったシーンは衝撃でした」(カトリーヌさん)
情に厚い大阪の義理の母に称賛の声が
3位の『あまちゃん』('13年)の天野春子(小泉今日子)も朝ドラ母としては異色キャラ。「破天荒でこれまでの朝ドラの母親にはいなかったキャラで面白かった」(兵庫県・52歳)、「がさつで厳しいが、実は娘を思う気持ちが強い」(青森県・49歳)などのコメントが。母親自身の青春時代が描かれるなど、ヒロイン感の強い母親だった。
「現代が舞台だったというのもありますが、元スケバンの母親は朝ドラ史上初(笑)。小泉さんが醸し出すやさぐれた雰囲気も最高でした。
この作品は祖母・母・娘の3代を描いていて、娘のアキ(能年玲奈)をはさんだ祖母(宮本信子)と母の親子の再生物語でもある。そういう意味ではヒロイン的な立ち位置でもありました」(カトリーヌさん)
2位に入ったのは『ちゅらさん』('01年)の古波蔵勝子(田中好子)。「明るく朗らかで寛容。愛情深くおちゃめな感じが周りを和ませる素敵な母親でした」(千葉県・45歳)、「沖縄のお母さんらしさ全開。おっとりとした感じが田中さんの優しい雰囲気にピッタリ」(埼玉県・56歳)と朝ドラの王道ともいえる大きな愛で家族を支える優しい母親像が多くの支持を得た。
「田中さんは母親役の名女優のイメージがありますが、この時期に母親役にスライドしてきたんですよね。実はゴリさん演じる長男は元彼の子どもだったなど、意外なドラマもあった。家族全員総ボケの中、唯一のツッコミ役で、スーちゃんの柔らかな感じともキャラがよく合っていましたよね」(カトリーヌさん)
そして1位に輝いたのは、まだ記憶にも新しい『ブギウギ』('23年)の花田ツヤ(水川あさみ)だ。いつも番台に座っているしっかり者の大阪のオカン。「大阪弁がカッコよく、いつでも子どもの味方であり続けた」(福岡県・46歳)、「血のつながらない娘を思う母親の本音が胸に響いた」(秋田県・58歳)という意見も多く、実は義理の母だったという設定が生んだドラマに涙した人も多かった。
「病で早世しちゃうんですけど、自分だけがスズ子(趣里)の母親でいたかったと亡くなる前に告白するシーンなど、血がつながっていないゆえの葛藤も描かれており、情に厚い部分だけではなく哀しい母の顔も見事に表現されていました。
水川さんは趣里さんとは7歳差なんですけど、ちゃんと母親に見えた。今後母親役にシフトしていく上でのターニングポイントになった役だと思います」(カトリーヌさん)
6位以降は比較的新しめの作品が並ぶが、その中で異彩を放っているのが9位『ひまわり』('96年)の南田あづさ(夏木マリ)。
「'90年代で脚本も井上由美子さんだからか、朝ドラなのにトレンディードラマの香りがするんですよね。
夏木さんは獣医として女手ひとつで娘を育てる自立した母親で、彼女の恋も描かれる。恋愛に関してはむしろそっちに比重が置かれていて、朝ドラ母としては異端でした(笑)」(カトリーヌさん)
ランキング形式で朝ドラヒロインの母親役を振り返ってきたが、現在放送中の『虎に翼』で石田ゆり子が演じる母親の描かれ方は、今までの朝ドラとは少し違うのではないかとカトリーヌさんは分析。
「『虎に翼』はあらゆる女性の前に立ちはだかる見えない壁をテーマにしていて、石田さん演じる母親のはるも昭和初期という時代に生きる女性の典型的な例として描かれています。
家事もやりくりも完璧で猪爪家を支える優れた女性なのに、外に出ると言いたいことをのみ込み、“スン”としている。それが賢い女の生き方だと思っているから、娘の寅子(伊藤沙莉)の法学部進学も当然のように反対する。
なのに、寅子が若手判事の桂場(松山ケンイチ)から『逃げ出すのがオチだ』と言われたとき、『この若造が!』と啖呵を切り、娘に六法全書を買い与える……このシーンがすごく良くて。ふとしたきっかけで変わっていく女性の姿が、母親のはるを通して見事に描かれているんです。
実は、社会における女性の変化というのは今までの朝ドラではきちんと描かれてこなかった。基本、ヒロインが力業で突破しちゃうので(笑)。今回も寅子はすでに目覚めている女性ですから、意識の変化という点では母親のほうが大きくなる。はるに視点を置いて見るのも面白いかもしれません」
橋本環奈主演の次期朝ドラ『おむすび』では麻生久美子が母親役に決定。年齢的にもさほど母親のイメージがない麻生が、どんな母を演じるのかも楽しみだ。
「今後は麻生さん世代がどんどん母親役をやっていくでしょうし、かつてヒロインを演じた方が母親役というのも増えると思う。
宮崎あおいさんは絶対やりそうだし、石原さとみさんも見たい。母親役へのシフトチェンジは朝ドラが一番いいと思うんです。国仲涼子さんは沖縄を舞台にした朝ドラで。いずれは“おばあ”までやってほしいです(笑)」(カトリーヌさん)
最高だったヒロインの母親TOP10
1位 『ブギウギ』('23年)花田ツヤ(水川あさみ) 89票
2位 『ちゅらさん』('01年)古波蔵勝子(田中好子) 79票
3位 『あまちゃん』('13年)天野春子(小泉今日子) 76票
4位 『おしん』('83年)谷村ふじ(泉ピン子) 64票
5位 『まんぷく』('18年)今井鈴(松坂慶子) 58票
6位 『舞いあがれ!』('22年)岩倉めぐみ(永作博美) 49票
7位 『ちむどんどん』('22年)比嘉優子(仲間由紀恵) 43票
8位 『なつぞら』('19年)柴田富士子(松嶋菜々子) 39票
9位 『ひまわり』('96年)南田あづさ(夏木マリ) 33票
10位 『半分、青い。』('18年)楡野晴(松雪泰子) 26票
取材・文/蒔田陽平