割烹着に身を包み、多能性幹細胞「STAP細胞」を発見したと発表した小保方晴子さん。世界的な科学誌『ネイチャー』に掲載され、世紀の大発見……のはずだったが、発表から2か月後、論文に不正が発覚し、反論会見を開くことに。その場で飛び出た、「STAP細胞は、ありまぁす」は、いまだ多くの人の脳裏に焼きついているはず。
その後、論文は撤回され、彼女がユニットリーダーを務めていた理化学研究所の「発生・再生科学総合研究センター」は改組。小保方さんも博士号を取り消され、表舞台から姿を消した。手記『あの日』(講談社刊)など間接的に世間の目に触れることはあっても、今も公の場に姿を現すことはない。
専門家も問題視する“研究不正”
洋菓子店で働く姿が確認されていたが、今年に入ってから旧知の仲であるAさんと結婚をしたという報道が。Aさんは同じ早稲田大学の出身で研究員といわれるだけに、理解者を得た小保方さんのこれからの人生に幸が多いことを祈るばかり。
だが─、「STAP細胞」という世紀の大間違いがあったにもかかわらず、「いまだ日本の研究不正は続いている」と説明するのは、病理専門医で科学・医療ジャーナリストの榎木英介さん。どういうことか?
「2024年1月23日付の米国サイエンス誌のニュースサイトは、日本人の研究不正を厳しく批判しています。日本人研究者(医師)が100を超える論文を撤回し、疑惑の論文はそれをはるかに上回っているという内容です」
「身内が身内を調査」
割烹着姿やリケジョといった、わかりやすい記号があったがゆえに小保方さんは注目の的になった。だが、数ある研究不正の一例に過ぎないという。
「名古屋大学で研究不正により研究費停止の処分を受けている最中の研究者に対して、理化学研究所は研究室を与え、多額の予算を配分するといいます。理化学研究所は改組することで禊は済ませたと考えているのかもしれませんが、本質的なところは変わっていない。大学の研究機関を含め、研究不正防止の体制はいまだになってないといえます」(榎木さん、以下同)
問題が起これば、当事者だけに責任があると突き放す。
「論文では、『この治療法が効くかもしれない』と記述しているのに、プレスリリースでは『効果があります』と誇張するといったことも珍しくありません。1を10、100として発表してしまう研究不正が多い」
北欧などでは、政府に研究機関をチェックする部門があるというが、「日本はそれがない。各研究機関に任せてしまうことで、身内が身内を調査することで隠してしまう」。
隠蔽体質に加え、仮に発覚してもトカゲの尻尾切り。榎木さんは、「不正のやったもん勝ちのような状況が続いています。こうした事実をもっとたくさんの人に知ってほしい」と警鐘を鳴らす。
小保方さんをはじめ一部の人間だけが追放されたこの騒動。実は、何も決着していないのかもしれない。
取材・文/我妻弘崇