有働由美子をMCに迎え、この春鳴り物入りでスタートした日本テレビ系の音楽番組『with MUSIC』。日テレのゴールデン帯では34年ぶりとなる本格的な音楽番組で、初回は宇多田ヒカルと椎名林檎のテレビ初共演で話題を呼んだ。またTBS系の『CDTV ライブ!ライブ!』は春の番組改編で放送時間を拡大し、月曜夜7時~の2時間枠に。長く低迷が叫ばれていた音楽番組が今復活の兆しをみせているようだ。
音楽番組につきもののハプニング
「なぜ音楽番組が復活しているかというと、ライブ番組だから。友達やファン同士がSNSでつながって見るというライブならではの楽しみがそこにある」
と話すのは、テレビ解説者の木村隆志さん。生番組といえば、つきものなのがハプニング。音楽番組花盛りのころはアクシデントもたびたびで、今なお語り継がれる名珍場面も多い。そこで、みんなの記憶に残るハプニングを男女500人に大調査。木村さんと共にその結果を見てみよう。
最も票を集めたのが、『t.A.T.u.ドタキャン事件』(2003年/159票)。『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)の生放送中にロシアのデュオ、t.A.T.u.が突然姿をくらますという、前代未聞のドタキャン事件だ。コメントには「海外のアーティストってわがままだと思った」(東京都・50歳)との声が寄せられた。
「日本の芸能界では考えられないことが起きた。t.A.T.u.=ドタキャンのイメージが定着して、いまだにお笑い芸人が“それタトゥーやないか”なんて笑いに使っていますよね。急きょミッシェル・ガン・エレファントが穴埋めしたのも伝説で、そこは生放送の醍醐味でもありました」(木村さん)
『ミュージックステーション』では、『山下智久の口パクバレ事件』(2006年/11票)も挙がっている。『抱いてセニョリータ』を歌っていたときのこと、スタンドマイクが倒れてしまうが、なぜか歌は続いて……。これには「見てはいけないものを見てしまった」(福岡県・47歳)との声が。
「山下さんだけでなく、激しく踊る人は基本、口パクだったりする。いわばパフォーマンス重視の楽曲で、口パクも責められることではないと思います。ただ隠していてバレちゃった、というのはちょっとカッコ悪い」(木村さん)
『NHK紅白歌合戦』は伝説のハプニングの宝庫。なかでも票を集めたのが加山雄三の『仮面ライダー紹介事件』(1986年/53票)で、司会の加山雄三が少年隊の『仮面舞踏会』を『仮面ライダー』と言い間違え話題に。「一瞬何があったかわからなかった。次の瞬間爆笑が起こった」(福岡県・60歳)などのコメントが多く寄せられた。
「その2年前、元NHKの生方恵一アナウンサーが都はるみさんを“美空”と言う事件があって、またやったかという空気にもなった。でも加山さんには誰もツッコめなくて、失笑で終わっていましたね」(木村さん)
「爪痕を残そうとするのはアーティストの性」
お次はやらかし系。『DJ OZMAのバックダンサー裸ボディスーツ事件』(2006年/53票)で、DJ OZMAこと氣志團の綾小路翔のバックダンサーが裸に見える衣装で登場、NHKに苦情が殺到した。「裸かと思った。天下のNHKでとんでもないことをしたのでびっくりした」(北海道・69歳)と大騒動に。
「これは確信犯で、話題づくりのつもりが思った以上に攻撃されたケース。でも爪痕を残そうとするのはアーティストの性。今の時代はなおさらそうで、目立ってなんぼ、話題になろうとみんな必死。今後も怒られない程度に攻める人は出てきそう」(木村さん)
舞台にシャンパンをぶちまけギターに火を放った『吉川晃司大暴れ事件』(1985年/16票)、NHKスタッフを罵倒したあげく勝手に持ち時間を延ばした『長渕剛ブチギレ事件』(1990年/14票)も記憶に残るハプニング。この2人に関しては、「当時の吉川晃司らしい」(東京都・56歳)、「長渕ならやりそうだなとしか思わなかった。やったことはガキだけど」(神奈川県・55歳)と納得のコメントが。
「彼らに関してはキャラどおりで、またかという感じ。ただこういうことは今後はまず起きないですね。今のアーティストはもっと賢くて、不満があれば最初から出ないし、出演を断った事実も含めて全部発信してしまうから」(木村さん)
『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ系)では司会のやらかしにも注目が集まった。『加賀まりこの歌手たちへの暴言』(17票)で、酒井法子に対して「キャバクラに行けば1番になれるわよ」など、まさに怖いもの知らず。「幼心にハラハラドキドキした」(埼玉県・48歳)とのコメントが多数。
「男女問わず毒舌を浴びせ、言いっぱなしで何のフォローもない。今なら炎上案件だけど、当時はそれが面白いとも言われました」(木村さん)
暴言事件は系列番組『ヒットスタジオR&N』でも。『ザ・タイマーズFM東京罵倒事件』(1989年/6票)で故・忌野清志郎さんが歌唱中にFM東京を罵倒する言葉を連発。コメントには「本物のロックンローラーは違うなと感じた」(広島県・62歳)との声が上がった。
「今はこういう人はいなくなりました。昔はロックな感じでカッコいいと言われたけど、今は逆。それにアーティストが自分で発信できる時代なので、わざわざ生放送の音楽番組でやる必要性もないですよね」(木村さん)
アイドル全盛期には今では考えられないアクシデントもあった。その筆頭が『松田聖子暴漢事件』(1983年/21票)。コンサートのステージに男が乱入し、聖子に殴りかかるという大事件だ。『ザ・トップテン』(日本テレビ系)の中継が予定されていたが急きょ中止に。だが事件の模様をカメラは捉えていた。「びっくりして何が起こったのかわけがわからなかった」(埼玉県・56歳)とのコメントがその衝撃を物語る。
「当時はこうしたハプニングは多々ありました。というのもあのころの歌番組は中継が多く、移動の途中で駅前で歌ったり、ということが毎週のように行われていて、そこでファンにもみくちゃにされることもたびたびでした。いかに当時の危機意識がゆるかったかということ」(木村さん)
「サブスクやネット動画では味わえない臨場感」
『ザ・ベストテン』(TBS系)の『アルフィーファン宅へアポなし訪問』(1984年/5票)も、昭和の時代ゆえのハプニング。アポなしでファンの自宅を訪れるも、ファンは不在で……。コメントにも「生放送でアポなし突撃するとは今では考えられない」との声が。
「家はバレてしまうし人は集まるしで、今なら警察が出動するような騒ぎになる。けれど当時は“面白いからおいしいでしょ”みたいなノリ。怒られるという発想があまりなかった時代」(木村さん)
近藤真彦との熱愛に怒ったファンが起こしたのが、『中森明菜帰れコール事件』(1984年/9票)。『ザ・トップテン』での出来事で、「近藤真彦のファンは最低だと思った」(北海道・55歳)との声が。
「当時のアイドルファンは団結力が強く、自分たちが悪さをするとアイドルに迷惑をかけてしまうと自制ができていた。でもそれを超えて怒りが出たケース。いかに本気で怒っていたかがわかる」(木村さん)
さて、気になるのが新番組の行方。これからの音楽番組は何を目指していくのだろう。
「今の音楽番組は生放送でお祭り感を出す、いわばミニフェスのような番組作りが定番。ライブで見てSNSで盛り上がってもらえる演出を心がけていて、サブスクやネット動画では味わえない臨場感を作ろうとしています。
なので作り手側もハプニングは醍醐味のひとつとみなしていますし、一方のファンも熱のこもったパフォーマンスゆえのハプニングは大好物。生で見られてよかったね、と話題にもなる。なかにはそこを狙って、あざとく仕掛けるアイドルも出てくるかもしれません」(木村さん)
どんなアーティストからどんなアクシデントが生まれてくるか、次なる伝説のハプニング誕生はいかに?
取材・文/小野寺悦子