NHK『おかあさんといっしょ』で「体操のお兄さん」として人気を得た佐藤弘道さん。番組卒業後も、親子体操教室をはじめ、テレビ、イベント出演などで活躍中だが、なんと今年55歳! 20代後半になる2人の息子を持つ“お父さん”なのに、颯爽とした“ひろみちお兄さん”の印象はそのままだ。
ところが、そんな佐藤さんも、実は5年前にひざを痛めて手術を経験。そのリハビリにも苦労した。ひざトラブルをこじらせる中高年は多いが、“ひろみちお兄さん”もそのひとりだったのだ。
「ある日、帰宅しようと歩いていたら左ひざに激痛が走って、ひざが中途半端に曲がったまま動かせなくなってしまったんです。関節の曲げ伸ばしができなくなる『ロッキング』という状態でした」(佐藤さん、以下同)
「『また手術か』くらいの気持ち」
病院のMRI検査で、ひざ関節にある半月板が割れているとわかり、「半月板損傷」と診断。半月板は太ももの骨とすねの骨の間にあり、骨と骨の間のクッションの役割を果たしている。多くの中高年を悩ませている「変形性膝関節症」はひざ関節の軟骨がすり減ることで起こるが、半月板を痛めると軟骨がすり減りやすくなるので厄介だ。
「実はその前年からときどき左ひざが痛くて、安静にしてやり過ごしていました。でも、このときは割れた半月板の破片が関節にひっかかり、ひざが半端に曲がったまま固定されてしまったんです」
転倒や打撲などのきっかけはなく、原因は長年のひざへの負担の蓄積だろうとの診断。外科手術が必要だった。
「子どものころから体操、テニス、トランポリンと、さまざまな運動を続けてきて、仕事でもひざに負担をかけてきましたからね。高校生のときには宙返りで頭から落ちて、頸椎損傷という命にかかわる大ケガをしたし、手首にもネジが入っているし『また手術か』くらいの気持ちでした」
リハビリ中のアクシデント
ただ仕事も多数入っており、すぐに手術は受けられない。ひざをだましだまし過ごし、半年後に手術を受けることになった。手術法は2択。半月板の亀裂を縫う「縫合術」は半月板の機能は保てるが、運動に復帰するまで半年かかる。一方割れた部分を切り取る「切除術」は半月板の機能は制限されるが、3か月で復帰できる見込みだった。「早く仕事を再開したかったので、『切除術で』とお願いしました。ところが、その後、コロナ禍に突入! 仕事が一気に減ってしまい、こんなことなら『縫合術』にすればよかったですよ(苦笑)」
手術後は3日で退院。しばらくは週に1回通院し、理学療法士にリハビリ指導を受けることになるが……。
「そのとき指導されたリハビリが、僕にはゆるすぎるように感じたんですよ。ひざの下にタオルを巻いて、それを上から押すとか、ひざを伸ばして、かかとを少し上げるとか。地味でしょ?(笑) いつコロナの外出制限が解除されるかわからないし、これで仕事再開に間に合うの?って」
心配になった佐藤さんは自己流でリハビリを開始。スクワットを始め、ジョギングも時間を延ばしていった。ところが、手術から10か月後、左ひざに再び異変が。
「左ひざの裏にポコッと硬い部分ができて、『リハビリで新しい筋肉がついた!』なんて喜んでいたんですよ。ところが病院に行ったら、『これは水がたまっているんですよ』と言われちゃって」
これは「ベーカー嚢胞」という症状で、ひざを酷使したことが原因で関節を覆う膜に水がたまった状態。そのままでは正座もできず、嚢胞が破れる心配もあるので、たまった水を抜くしかなかった。
「自分では無理しないようにしていたつもりなんですけどね。コロナ禍の前は1年365日中360日仕事をしているような生活だったのに、急に時間ができて、ついやりすぎました。特にひざに衝撃がかかるジョギングは慎重にすべきでしたね」
「ケガの後は以前の自分の身体ではない」
何より佐藤さんが反省するのは、「ヘンに自分に自信があったこと」だという。
「ひざ痛を改善するには、ひざの負担を減らすために、関節のまわりを『鎧』のように支える筋肉を鍛えるしかありません。でも思えば、手術を受ける前、ひざの調子が悪い期間に運動量が減り、かなり脚の筋力が落ちていたんですよ。それをまず補う必要があったのに、自分の前々からの経験で判断した結果、やりすぎちゃったんですね」
幼少期からスポーツを続けて身体をつくってきた佐藤さん。術後は「駅の階段を2段飛ばしで上れなくなってショック」だったとか。一般の人とは基準が違うが、「ケガの後は以前の自分の身体ではない。段階的なリハビリが第一」と実感したという。
「僕の体操教室でも、子どもたちが身体の基礎をつくれるように、段階的に身体を動かす工夫をしているんですよ。なのに、自分がこれじゃ、いけませんよね(苦笑)」
佐藤さんは、ひざまわりの筋肉を鍛えるスクワットなどリハビリを地道に継続。一昨年は渡嘉敷島、今年は熊本のマラソン大会で、それぞれ3kmを走るまでに回復した。
「以前は『3kmなんてすぐそこ』だったのに、久々に走って、『こんなに遠かった?』と焦りましたけどね(笑)」
そんな経験も通して、ひざ痛に悩む人の気持ちが理解できるようになったという。
「ひざの負担を減らすには、足首や股関節を柔軟にするストレッチも大切で、その効果も実感しました。ひざが痛い方は試してほしいですね」
また、すり足で歩くのもおすすめだとか。足腰を支える筋肉が鍛えられるので、ひざ痛予防にもよいとのこと。
「今後も正しいリハビリをしながら、未経験のハーフマラソンやフルマラソンを目標に、しっかり身体をケアしていきたいですね」
取材・文/志賀桂子