公立トップ校に合格した子は、どのような家庭で育ったのか、また親御さんはどのようなタイプの傾向があったのでしょうか

【質問】
中1の子どもがいます。地元の公立中学校に通っています。今後、公立高校受験をすることになりますが、公立トップ校や上位校に合格する子の家庭はどのような共通点があるのでしょうか。勉強は本人がやるので、本人しだいですが、親として子どもに接するうえで注意点などあれば教えていただきたいです。  佐藤さん(仮名)

公立トップ校に受かる子の家庭環境

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

  中学生たちを指導して以来、早35年が経ちました。その間、公立トップ校に合格した子の数は計り知れませんが、同時に、どのような家庭で育ったのか、また親御さんはどのようなタイプの傾向があったのかをつぶさに見てきました。また、主に母親対象の子育て・教育相談会を通じて延べ1万3000人を超える相談を受けてきた経験から、子どもがぐんぐん伸びる家庭にはある一定の傾向があることを感じてきました。

 公立トップ校や上位校に合格する家庭にはいくつかの特徴があることは確かです。しかしその前に、一つ別のお話をしておかなくてはなりません。佐藤さんに該当する話ではないかもしれませんが、これまで多くの保護者と接してきた中で誤解されている方も少なくなかったため本論の前書きとしてお話ししておきます。

 トップ校や上位校に合格すること、進学することが勉強の目的でもなければ、人生の目的でもありません。たまたまそのような学校に合格できるだけの境遇や能力があっただけかもしれないからです。人間はそれぞれ才能や能力を個別に持って生まれていると考えています。大切なことは、その固有の能力が発揮されることであって、トップ校という俗称の付いた学校に行くことがゴールではありません。ましてや、トップ校に行けるように親が振る舞いや愛情を変えるとしたら、その道理もおかしいものです。

 また、子どものタイプによっては公立が向いている子もいれば、私立が向いている子もいます。さらに高校進学後に伸びる子、社会に出てから自分らしさが発揮できる子もいます。いずれにせよ、学力というたった一つの尺度で多感な時期の子どもたちの優劣を測ることは適切であるとは思えません。子どもたちにはそれぞれ多様な価値があり、それを基軸に育てていくことが教育の本質であると考えています。この点を前提としてこれからのお話をしていきます。

《公立トップ校に合格する子の親の6つの特徴》

 それでは、ここから質問の回答になります。特徴を詳細に見ていけば例外はもちろんありますが、全体としてまとめると次の6つの傾向に収束します。

親の「勉強しなさい」はモチベーションが下がる

(1)子どもに「勉強しなさい」と言ったことがないか、ほとんど言わない

 これは最大の特徴です。公立トップ校に合格する子は「勉強しなさい」と言われた記憶がほとんどありません。このお話をすると、必ずと言っていいほど次の疑問が出てきます。

「勉強しなさいと言わなくてももともとやる子だったから、言わなくて済んだだけでは?」

 もちろん、その可能性もあります。生来、自ら目標を作ってそれに向けて邁進する子は実際にいます。どこでそのようなメソッドを学んだのか知りませんが、筆者もそのような子に何人も会ってきました。

 一方で親から「勉強しなさい」と言われ続けて勉強が嫌いになり、やる気を失った子は数知れません。そのような場合、「2週間、勉強についていっさい触れないようにしてください」とアドバイスすると、子どもが自ら勉強し出したケースが多々あるのです。ということは、親の「勉強しなさい」の一言が子どものモチベーションを下げていたということになります。したがって、「親が勉強しなさいと言えば言うほど、子どもは勉強しなくなる」ということが推測されます。

(2)子どもの興味を大切にし、長所を伸ばすことに視点を向けている

 長所伸展が大切と言われて久しいですが、現実は、長所を伸ばすよりも短所をいかに是正させるかに焦点を当ててしまうことが少なくありません。なぜ、短所是正からではなく、長所を先に伸ばすことが望ましいかといえば、次のような背景があるからです。

「長所をさらに伸ばすことで、子ども側に気持ちのゆとりができ、その結果、自覚している短所を“後から自己修正”していく」

 さらに公立トップ校に合格した子の親御さんとお話ししていると、「子どもが興味を持ったことを応援するスタンスでいた」と聞きます。もちろん、学びにつながることを子どもに提案したり、体験させたりすることもやっていますが、基本的に子どもの興味関心を大切にしていたようです。

 すると日常、子どもには「指示・命令・脅迫・説得」ではなく、自然と「自己肯定感を高める言葉」を使うようになります。

(3)親自身も自分の人生を楽しんでいる

 親子関係で最も大切なことの一つとして、「子どもの成長は親の犠牲によって成り立っているわけではない」ということです。「あなたのために私は頑張っているのよ!!」と言葉にしないまでも、そのような雰囲気を出されたとしたら、子どもは大きな心理的負担を感じます。

 かつて、東大生をゲストに招いて、母親対象のカフェスタイル勉強会「Mama Cafe」を行っていたときのことです。筆者が学生に「どのような親に育てられましたか?」と毎回変わるゲストに聞いていましたが、そのとき何人からも同じような回答が返ってきたので参加者一同驚いていました。その回答とは次のようなことです。

「普通の親です。父はサラリーマンで、母は専業主婦(もしくはフルタイム会社員)です。そういえば、両親が楽しむ所によく連れて行かれましたね」

 両親が楽しむ所とは、例えば登山やスポーツなどが例としてあがっていました。ただ連れて行かれたのではなく、「親の楽しむ所」というのが重要なキーワードです。親としては特に自分の楽しんでいる姿を見せようと思っていたわけではないと思いますが、結果として子どもは「親の楽しむ姿を見て育ち、それが印象に残っている」という共通点があったのです。公立トップ校に合格する子の親も、自分の人生と子どもの人生を分けて考える傾向があり、自分の犠牲によって子どもを育てるという発想はありませんでした。

人として大切なことを重視

(4)単に点数を取ること以上に人生には人として大切なことがあると認識している

 公立トップ校、上位校に合格した子の親御さんと面談していると、トップ校に進学してほしいという欲がないことに気づかされます。それよりも、「人の迷惑にならないように」「自分らしい生き方をしてほしい」という、道徳的、倫理的な話が出てきます。

「勉強ができる子だから、そのような考え方になるのでは?」と思うかもしれませんが、そうではないと思えるエピソードがあります。

 良かった成績が落ちていった子で後に公立トップ校に合格したケースです。そのようなときに面談すると親は心配になり、勉強についてあれこれと話が出てくることが一般的ですが、成績のことはいっさい、意に介さず、「勉強のことは、子どもに任せているので……」「自分で乗り越えていかないといけないので……」という雰囲気です。勉強を心配している素振りはありません。点数を取ること、成績を上げること以上に、人として大切なことを重視していることがうかがえます。

(5)自分のことは自分でやらせたり、考えさせたりしている

 もちろん、親がサポートしなければならないことは、サポートします。しかし、自分でできることは自分でやらせる傾向にあります。考えることもそうです。「自分のことなんだから、自分で考えなさい」というスタンスです。

 子どもから相談を受ければ傾聴し、アドバイスを求められたらアドバイスをする姿は、まるで他人の子どもの相談を受けるカウンセラーのようです。このような状況から、子どもは「自分でやらないと先に進めない」ことを学びます。しかし、親というアドバイザー、カウンセラーがいることで、子どもは安心して過ごすことができるわけです。

子どもが自分らしく生きていくために

(6)子どもの意見を尊重している

 子どもは親と比べて、知識と経験がないだけで、人としての価値は同じです。そのため、親は子どもの意見をしっかりと聞き、尊重します。上から目線で話をすることは、めったにありません。上から目線になるときは、道徳的に倫理的に人の道を外し、さらに子どもがそれに気づいていないときです。このときは、年長者として子どもに叱る、怒るという行為をします。

 三者面談で勉強のこと、進学先の話をしていると、親御さんは「勉強や進学のことは子どもに聞いてください」と言われるため、筆者は主に子どもと話を進めていきます。その間、横で親御さんは聞いていて、追認している感じです。もちろん、子どもが「お母さんどう思う?」と聞けば、それには答えていますが、基本的には子どもの意見をまずは尊重しています。

 以上、6つの特徴についてお伝えしました。この6つのことをやれば公立トップ校に行く子になるというわけではありません。また、トップ校に行かない子の親はこれらができていないという意味でもありません。あくまでも、これまでの経験から共通点をまとめて書いたものです。

 しかし、お気づきになったかもしれませんが、これら6つの特徴は、子どもが自分らしく生きていくためのあり方とも一致します。ですから公立トップ校に行ったというのは、あくまでも結果の一つであって、この6つの特徴がもたらすゴールはほかにもあります。

 公立トップ校に行く子を育てるのではなく、その子らしさが発揮できるように育ててみてください。


石田 勝紀(いしだ かつのり)Katsunori Ishida
教育デザインラボ代表理事、教育評論家
1968年横浜生まれ。20歳で起業し、学習塾を創業。4000人以上の生徒に直接指導。講演会やセミナーを含め、5万人以上を指導。現在は「日本から 勉強が嫌いな子を1人残らずなくしたい」と、Mama Cafe、執筆、講演を精力的に行う。国際経営学修士(MBA)、教育学修士。著書に『子ども手帳』『子どもを叱り続ける人が知らない「5つの原則」』、『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』ほか多数。
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