どれだけ人気があっても訪れる「その時」──。結婚、病気など、さまざまな事情でマイクを置く歌手たちだが、「あと一度だけでも……」と思ってしまうのがファンの常。あなたの心の中で歌い続けている歌手は、誰ですか?
2014年の『NHK紅白歌合戦』出演以来、表舞台にほとんど出ていなかった中森明菜が、YouTubeチャンネルで『TATTOO』のジャズバージョンを披露。再生回数は1か月で600万回を超え、変わらぬ存在感を見せつけた。そんな明菜と同じく4月に、81歳にして歌手活動の復帰を発表したのは橋幸夫。昨年、声の衰えなどを理由に引退を宣言してから1年弱──。
「みなさんのお許しをいただければ声が枯れるまで歌い続けたい」
と思いを語った。一方、歌手の太田裕美は4月末に、脳腫瘍の治療と静養を理由に「当面の活動休止」を発表。年明けの復帰を目指しているという。
健康問題や結婚、はたまた事務所とのトラブルなど、さまざまな理由で引退を宣言した歌手は大勢いるが、なかには何事もなかったかのように復帰する者、あるいはファンにひと言もなく、いつの間にか姿を消してしまった者もいる。
「もう一度あの人の歌を聴きたい……!」とあなたが復帰を熱望する歌手は誰? 今回は40代~60代の男女を対象にアンケートを実施。1000人から回答を得た。
現役復帰してほしい歌手ランキング
8位にランクインしたのは、4月末に復帰を発表したばかりの氷川きよし。24年間所属したプロダクションから独立。新会社を設立し、満を持しての再出発だ。
「美しく変化した姿を見てみたい」(茨城県・女性・51歳)
など復帰を歓迎する声が続々。芸能評論家の宝泉薫さんは、
「本来の自分をさらけ出したいと思いながらずっと“氷川きよし”を演じ続け、すでに46歳。本人としてはもう少し早く、せめて30代で路線変更したかったのでは」
と話す。演歌界のプリンスとして長年不動の地位を築いてきた氷川だが、'19年に週刊誌のインタビューで、
「本当の自分を出さないように生きてきた」
と発言。これまでの歌手としての“スタイル”に悩んでいたことを告白した。
「例えばカルーセル麻紀さんやピーターさんは、“多様性”なんて言葉もないときからバッシングをものともせず、堂々と自分を表現していました。氷川さんは前事務所の意向もあり、それができなかったのかもしれませんが、本当の自分を隠しながら切なく女性の心を歌い上げる姿もある意味、不思議な魅力がありました。今後の新たな活動に期待です」(宝泉さん、以下同)
6位は同率で2人。まずは冒頭でもふれた太田裕美。
「私にとって『木綿のハンカチーフ』は歴代歌謡曲のナンバーワン」(京都府・男性・63歳)など、特に50代~60代の男性の支持を集めた。
もう1人は、'80年代アイドルの代表的存在でもある河合奈保子。1996年に結婚を機に芸能活動を休止。それ以来公の場に姿を見せていないが、家族でオーストラリアに移住している様子が'10年に週刊誌で報道された。
「西城秀樹の妹分ということで注目していました。初めてレコードを購入した女性歌手です」(宮城県・女性・57歳)などの声が。
「男性より女性からの支持が高かったことが意外。近況すら報じられないところがミステリアスですし、同じ女性としてどんなふうに年齢を重ねているのか、興味をそそられる部分があるのでは」
「彼がいなければ今のJポップはない」
5位となったのは、フォークソング界のカリスマ、吉田拓郎。'22年に芸能界引退を表明した。
「人生の師匠的な存在。歌とも叫びとも思える魂のこもった言葉がよかった」(東京都・男性・59歳)など、男性ファンを中心に票を集めた。
「彼がいなければ今のJポップはない。そこまで言い切ってもいいくらい、音楽史に大きな影響を与えた存在です」
6月には自ら選曲したベストアルバムが発売予定。楽曲への思いをつづったセルフ・ライナーノーツや写真集も同梱され、拓郎復帰を熱望するファンの期待が再燃している。
「もともと、権威や権力が大嫌いな人。昔のヒット曲にしがみつき、老いた姿を見せたくない彼の気持ちもわかります。ただ、ファンを驚かせたい気持ちを常に持っている方ですから、みんなが諦めたころにひょっこり戻ってくる可能性も。そこに期待したいですね」
4位は、活動休止から30年以上たった現在も、その魅惑の歌声が語り継がれるちあきなおみ。'92年に最愛の夫であった俳優の郷えい治さんと死別。「静かな時間を過ごさせて」とコメントを発表し、ステージを去った。
「一度でいいから実際の歌声を聴いてみたい」(愛知県・男性・50歳)など、類いまれなる歌唱力に絶賛が集まった。
「最大のヒット曲である『喝采』が亡くなった恋人を悼む歌であることも相まって、宿命的な引退となりました。彼女の歌声を再び聴きたいけれど、もう二度と戻ってこないことはわかっている──。そんな複雑なファンの心理が、コメントからも垣間見えます。実際に、彼女が復帰する可能性はないに等しいでしょうね」
3位は、'19年に全国ツアーを開催して以来、活動休止状態が続く井上陽水。昨年には、出身地である福岡県で隠居生活を送っていると週刊誌で報じられた。
「独特な歌声は唯一無二。また聴かせて」(東京都・女性・51歳)など、復帰を待ち望む声は絶えない。
「同じフォーク出身でも、世間を驚かせたいという気持ちのある(吉田)拓郎と違って、陽水は世の中の空気をまったく読まない(笑)。あくまで自分の美学を貫く人だから、非常に残念ですが、もう彼はこのまま表には出てこないだろうと僕は予想しています」
2位にランクインしたのは昭和を彩った“伝説の歌姫”山口百恵。わずか7年半の芸能活動の後、俳優の三浦友和との結婚を機に引退。'80年、百恵が21歳のときのこと。
「活動期間があまりにも短かった。もう少し見ていたかった」(東京都・男性・64歳)と、引退から40年たっても復帰待望論はやまない。
「引退時に発売された著書『蒼い時』は《新しい運命に生きる》という宣言でもありました。その言葉を覆しての復帰は、ファンを喜ばせることではなく、むしろ裏切りだとまで彼女は感じているはず。
複雑な生い立ちの彼女は、家庭や家族への思い入れも人一倍強いんです。ファンも姿を見たい反面、このままの幸せな生活で静かに過ごさせてあげたいと願っている人がほとんどでしょう」
圧倒的な票数を集め1位となったのは、'18年に引退した安室奈美恵。
「今の時代に、彼女がどんな歌を歌うのか興味がある」(岡山県・女性・54歳)
「年齢を重ね、これまでと違う魅力にあふれた歌も聴きたい」(千葉県・女性・57歳)など、女性からの熱い支持がひと際目立った。
「美しすぎる引退劇だったからこそ、逆に復帰のハードルは高い。実現するとしたら、かなり先の話になるでしょう。若いころの激しいパフォーマンスと比較されなくなり、新しい魅力が増してくる60歳前後になるかもしれません」
引退後、代理人の弁護士から“取材自粛要請”が出されたため、私人となった安室奈美恵の消息はこの6年近く一切報じられていない。
「復帰した時点で、もうレジェンドではなくなる。安室さんはもちろん、姿を見せないほかのアーティストたちも、それを十分わかっているのです」
引き際が美しいからこそ、往年の功績がますます輝く。レジェンドたちの「引き際の美学」に学ぶことは多そうだ。
《現役復帰してほしい歌手ランキング》獲得票(男/女)
1位 安室奈美恵 335票(168/167)
2位 山口百恵 139票(91/48)
3位 井上陽水 98票(79/19)
4位 ちあきなおみ 95票(58/37)
5位 吉田拓郎 55票(48/7)
6位 河合奈保子 38票(27/11)
6位 太田裕美 38票(33/5)
8位 氷川きよし 31票(14/17)
取材・文/植木淳子