子どもの風邪とあなどっていると、大変な目に遭うことも(※写真はイメージです)

《4月から絶賛慣らし保育なのだが、溶連菌感染症治ったと思いきやウイルス性胃腸炎でなかなか長期間通えずにいる 保育園の洗礼受けまくり》
《娘から菌をもらい私もダウンしました 保育園の洗礼が親にもくるとは…》
《保育園の洗礼辛い 私も鼻詰まりと微熱と節々の痛みが》        SNSより

『保育園の洗礼』という言葉をご存じだろうか。これは、保育園に通い始めたばかりの乳幼児が風邪などの感染症に次々とかかることについていつしかついた呼び名で、今や毎年5月ごろになるとSNSに飛び交うのが恒例になっている。

 春から夏にかけて子どもがかかりやすい感染症は、「手足口病」「ヘルパンギーナ」「咽頭結膜熱(プール熱)」「溶連菌(溶血性レンサ球菌)感染症」と言われ、喉の痛みを伴うことが多い。

子から親に感染症が移り、共倒れに

 冒頭のSNS投稿のように、親に感染症が移ってしまい、子どもの看病もままならない“親子共倒れ”のケースも多い。1歳の長女が“保育園の洗礼”を受けたという40代男性は当時をこう振り返る。

「娘は春先、風邪に1~2度感染し、夏は手足口病にかかって水疱を口の中にも作ってしまったんです。私にも移ったのですが、熱が出ると水疱が手と喉にできて、それが燃えるように痛がゆい。熱はすぐ下がったものの、水疱は治らず、夜は寝られず……。食事はもちろん水を飲むのも本当に辛かったです。結局、水疱は2週間後にやっと治りましたが、あんな思いは二度としたくありません」(40代男性)

 春から夏にかけての保育園での感染症の広がりについて、保育の現場の声を聞いた。リトカ知育保育園 羽田の渡辺百合園長はこう話す。

「例年、4月からの新入園児は、ゴールデンウィーク前ぐらいから感染症にかかる子が出てきます。喉が痛いと、子どもは唾を飲み込むのがつらくて口の中によだれがたまるので、よだれの量が多い場合は喉の感染症かなと判断しています。クラスの中で1人出ると複数名に広がり、親御さんも感染してしまうことが多いです。半年後の秋ごろに子どもたちの体調は落ちついてきます」(渡辺園長)

 年齢が低く、まだ言葉で症状を訴えられない事が多い保育園児の健康状況の把握は苦労を伴うようだ。

『保育園の洗礼』が起こる原因について、竹内内科小児科医院院長の五藤良将医師に聞いた。

竹内内科小児科医院の五藤良将医師

「乳幼児が保育園で集団生活を始めると、さまざまな菌やウイルスに接するようになります。乳幼児はマスクができず、唾液の付いたおもちゃを舐めたりしますし、感染するリスクが高いのです。都内では今シーズン、溶連菌感染症の患者さんが増えてきており、これは大人でも感染することがあります。喉に白い膿ができて高熱が出るのですが、抗生剤を一定期間服用すればよくなります。反対に、手足口病などウイルス性感染症の場合は抗生剤は効かないので、休息と水分を十分に取り、自己の免疫力で回復させるしかありません。症状が悪化した場合は医師の診断が必要です」(五藤院長)

病み上がりに再感染…『感染症ドミノ』の恐ろしさ

 ところで、このような感染症への罹患には、『免疫負債』が悪影響を及ぼすこともあるという。免疫負債とは、社会的な接触の機会が減少した結果、感染症全般に対する免疫が欠如している状態のことで、新型コロナウイルスの流行後、特に懸念されている事柄だ。

「新型コロナウイルスのパンデミック中は徹底した予防策や行動制限が取られたため、特に子どもたちは一般的な感染症に対する免疫システムを育てる機会が持てなかったという事情があります」(五藤院長)

 免疫負債は、将来的に感染症の増加を引き起こすリスクがあるという。

子どもたちは厳重な対策で新型コロナから守られていたが、それが「免疫負債」につながっている!?(※画像はイメージです)

「’22年にコロナ第7波が起きたころはコロナ以外のウイルスが駆逐されていたのですが、それが落ちついた’23年9月ごろにインフルエンザが大流行しました。これは’23年5月に新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行されたことで通常の社会生活が戻り、マスクをつけなくなって一気に病原菌にさらされるようになったことで、免疫負債の問題が直撃したと考えられます」(五藤院長)

 国立感染症研究所が発表する「感染症発生動向調査週報」によると、今年の第16週(4月15日〜21日)は、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較して、「RSウイルス感染症」「咽頭結膜熱」「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」の定点あたり報告数が「かなり多い」、手足口病が「やや多い」となっている。

 加えて、感染症に繰り返し罹患する『感染症ドミノ』という状態に陥る危険性もある。

「保育園や学校で集団生活を行う子どもは、短期間で複数の感染症にかかることがよくあります。親が子どもの看病疲れで寝不足だったりすると、移る場合も多いです。治っても病み上がりは免疫力が弱っているので、別の感染症にかかる可能性が高いのです。例えばコロナにかかって、治りかけた時にインフルエンザにかかってしまうケースもあります」(五藤院長)

 例えば新型コロナウイルスに繰り返しかかると、さらにリスクが高まるケースも。’22年に発表されたアメリカのVAセントルイス・ヘルスケアシステムによるコホート研究では、新型コロナウイルスに2回以上感染すると、1回感染した場合と比べて、死亡と後遺症リスクは2倍超、入院リスクは3倍超になると報告されている。

 普段から免疫力を高めて感染を防ぐことが重要なのだ。

免疫力アップのために毎日の食事を見直そう

 手洗い・うがいという基本的な感染対策に加え、免疫力を上げるためにできることは何だろうか。五藤院長は第一に「バランスのいい食事」だという。

「野菜や果物、全粒穀物(精白していない穀物)、良質なタンパク質をバランスよく組み合わせた食事を心がけてください。特に、緑黄色野菜や果物に含まれるビタミンC、魚介類などに含まれるビタミンD、牡蠣や牛赤身肉などに含まれる亜鉛は免疫力向上に役立つ栄養素なので、意識的に摂取しましょう。また、食生活で全てを補う事が出来なさそうな場合にはビタミン剤などのサプリメントで補充することも効果的です。ただサプリメントにはカロリーが想像以上に含まれていたり、含有成分に注意が必要なものもあるので注意が必要です」(五藤院長)

 さらに、ヨーグルトや納豆などの発酵食品も腸内環境を整え、消化吸収をスムーズにして栄養がすみずみまで届く体づくりに役立つという。リトカ知育保育園 羽田では、保育士をはじめとするスタッフ全員、ヨーグルトドリンクを1日1本飲んでいるという。

「今年2月からヨーグルトドリンクを飲み始めましたが、個人的には風邪をひきにくくなって、便通がよくなりました。他のスタッフからは、風邪をひいても引きずらずに短期間で治った、回復力が高くなったという声もあります」(渡辺園長)

ヨーグルトを始めとした免疫に良い食材を摂ることも対策の一つ

 五藤院長は「定期的な運動」「十分な睡眠」も効果的だと話す。週に数回、ウォーキングやジョギングなど30分程度の運動を行うことが免疫力向上を助けるという。また、免疫システムは睡眠中に回復し強化されるため、7~8時間の睡眠をとることが重要だ。

「多忙で時間の捻出が難しければ、エスカレーターを使わずに階段を昇るなど、日常でちょっとした運動を心がけてみてください。睡眠も、“絶対に8時間寝ないと”と思うと逆にストレスになって良くないですから、無理せずにできることを積み重ねていくのが大切です」(五藤院長)

 新型コロナによる自粛ムードもすっかり過去のものになったが、まだまだ予断を許さない状況が続く。『保育園の洗礼』のみならず、『感染症ドミノ』に陥らないために免疫力アップを意識してみてはいかがだろうか。

お話を聞いたのは
五藤良将(ごとう・よしまさ)医師
2006年、防衛医科大学校医学部卒業。自衛隊中央病院や自衛隊横須賀病院、千葉中央メディカルセンター・糖尿病センターなどで勤務後、2019年9月から竹内内科小児科医院を継承開業。2021年には医療法人五良会を設立し理事長に就任。2023年3月医療法人社団正友会浜クリニック理事長就任し五良ファミリークリニックセンター南(旧;浜クリニック)を継承。2023年6月には五良会クリニック白金高輪を開設。日本内科学会認定内科医、日本抗加齢医学会専門医、難病指定医、日本温泉気候物理医学会温泉療法医など。著書に『内臓脂肪 中性脂肪 コレステロールがみるみる落ちる 血液と体の「あぶら」を落とすスープ』(アスコム)など多数。