「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
第100回 フワちゃん
フワちゃんってすごいなぁと思うのです。
今年の4月に、自身のX(旧ツイッター)において、海外移住を発表したフワちゃん。2020年11月8日放送の「マツコ会議」(日本テレビ系)において、海外に行きたいと話していたので、とうとう夢が叶ってハッピーなのかもしれません。けれど、テレビでの露出が減ると、芸能活動はおのずと制限されてしまうのも事実。芸能人としてはどうなんだろうと思ったのです。
今撮ったでしょ。携帯貸して。消すから
それなのに、フワちゃんったら、ヤバいくらいの存在感を放っているではありませんか。まず話題になったのが、5月1日放送の「これ、余談なんですけど・・・」(ABCテレビ)に出演した際。YouTuberでもあるフワちゃんはすぐに動画を取る癖があるそうで、司会のかまいたち・濱家隆一の楽屋を訪れた際もいきなり動画撮影をするそうです。相手が何をしているのかわからない、仕事前の集中したい時間に先輩に対してそれはどうかと思いますが、フワちゃんはそのあたりに対する配慮はなさそう。その一方、自分が無許可で撮られることは許せないよう。「フワちゃんは街中で歩いていても、ちょっと誰かが撮ったなと思ったら行く。『今撮ったでしょ。携帯貸して。消すから』って」と一般の人に対してキレる癖があることを、山内は指原莉乃から聞いていたそうです。同番組共演者のNON STYLE・井上祐介は「自分はあんだけ撮るのに? ズルくない?」と指摘していましたが、この「自分はいいけど、他人にされたら許さない」というのは、フワちゃんの大きな特徴と言えると思うのです。
これまで、フワちゃんが世間をお騒がせしてきたネタとしては、大御所に対するタメ口と遅刻が思い出されます。芸能界は礼儀を重んじる社会という話を聞いたことがありますし、一般人の職場でもこれらが歓迎されることは、ほぼないと言ってもいいでしょう。それなのに、どうしてフワちゃんが許されてきたかというと、フワちゃんが怒ってきた人の名前をテレビで口にするからではないでしょうか。本人は番組で聞かれたから答えたまでだ、本当のことじゃないかと言うかもしれませんが「やられたらやり返す」体質というか、怒った側のメンツを考えない人なんだなと思います。ハラスメントNOの時代、正当な注意であっても「パワハラされた」と解釈する人がいないとは限りません。テレビはもちろんのこと、フォロワーの多いフワちゃんのSNSで「あの芸能人に怒られた」と情報が拡散されたら、自分のイメージに傷がつかないとは言い切れない。そうなると大御所たちは「怖いオジサン(オバサン)」と思われたくないがために、「触らぬフワに祟りなし」とばかりに鷹揚にふるまうか、LINEを交換するなど表面的に仲良くふるまって、厄介ごとに巻き込まれないようにしているのではないでしょうか。ですから、大御所ほどフワちゃんに優しいのだと思います。
傍若無人にふるまうのはテレビ用のキャラなのかもしれませんが、千原ジュニアのYouTubeで、お笑いトリオ・ネルソンズの青山フォール勝ちが、フワちゃんの飛行機内での迷惑エピソードを明かしています。飛行機が離陸する前に、座席のリクライニングを戻しシートベルトをつけることを求められたけれど、無視して寝ていたため、客室乗務員が2人がかりでベルトを装着していたこと。着陸時もリクライニングを倒して寝ていたために、客室乗務員の手をわずらわせることになったものの、着陸すると寝ていたとは思えないくらい、すぐに起き上がったそう。このあたりはフワちゃんにも言い分があるでしょうから、何とも言えない部分もありますが、寝たフリをして客室乗務員の指示を無視したのだとしたら、自分のしたいことはするけれど、他人の立場を考えないというテレビでのキャラとあまり変わりないように感じます。
増加するフワちゃん風芸能人
テレビ出演するたびにかなりの確率でネットニュースになるフワちゃんは、テレビの制作側にはある意味貴重な存在と言えるのではないでしょうか。なので、テレビはフワちゃんがヤバいほうが都合がいいし、当分手離さないと予想しますが、私が注目しているのは「フワちゃん風芸能人」が増えていることなのです。
最近、芸能人による被害者告白が増えたように感じています。タレント・小倉優子は4月10日放送「上田と女が吠える夜」(日本テレビ系)で、今では仲良しのママ友さんに、かつては挨拶を3年無視されていたこと、「どこの馬の骨かわからないので無視した」と出自をけなされたことを告白し、お笑いコンビ・霜降り明星の粗品は、YouTubeチャンネルで木村拓哉に挨拶をしたけれど無視されたことを明かしています。二人とも「本当のことだから、言ったまで」なのかもしれませんが、名前を出された側は下手に反応すると騒ぎが大きくなるため、じっと耐えるしかありません。
自分がきちんと礼を尽くしているのに無視されたというのなら、ぶちまけたくなる気持ち自体はわからないでもない。しかし、そういう人ばかりでもないようです。5月2日放送「ダウンタウンDX」(日本テレビ系)に出演した俳優・和田正人は、同じ事務所の女性芸人がMCを務める番組にレギュラー出演していたものの「全然、ルールとか知らなくて、楽屋のあいさつに一回も行かなかったんです。収録現場で挨拶もなく収録して帰っていくってしてたら、『事務所の先輩がブチギレてる』って言われて」「謝りに行ったときに無言で近づいてきて、この距離まで顔を寄せられて、ずっとにらまれました」「若手の頃にそんなことされたら、トラウマレベルの恐怖ですよ」と顛末を語っています。知らなかったとはいえ、お世話になっている先輩に挨拶しなかったのなら、怒られても仕方ないのではと個人的には思いますが、怒られる原因を作ったのは自分でも「自分が傷ついた」と思えば暴露していい。それがフワちゃんが作ったヤバい流れのように感じるのです。この流れはどんどん加速し、「あの先輩ヤバい」がバラエテイ番組の主流になるかもしれません。
思わぬ暴露をふせぐ方法
もしそうなら、ベテランや大物芸能人受難の時代と言えるでしょうが、このヤバい流れにうまーく対応しているように見えるのが、ベテラン・島崎和歌子です。3月31日放送の「アッコにおまかせ!」(TBS系)に出演したフワちゃんは海外に拠点を移すものの、2週間後には帰国すると発表。それを受けて共演者である島崎和歌子は「すごいナメた仕事してるね。フラっとアメリカ言って、フラっと日本に帰ってきて」とつっこみます。例によってフワちゃんは「フワちゃんのオールナイトニッポン0」(ニッポン放送)で「怒られちまったな」と冗談まじりにネタにし、帰国後は食事に行く予定だと友好関係を強調していました。島崎のウマさはテレビカメラの前ではっきり「ナメてる」と言ったことだと思うのです。番組が終わった後に、カメラのまわっていないところで「ナメてる」とフワちゃんに言ったとしたら、なんとなくパワハラもしくはいじめっぽい感じがしてしまう。しかし、万人が見ている前で正々堂々とナメてるということで、これはハラスメントではなく意見なのだという証拠になりますし、視聴者が証人となってくれるでしょう。
部下や後輩を人前で叱ると、さらし者にしたという理由でパワハラ認定されることがあるそうですが、テレビの世界ではカメラの前で話して証拠を残すか、カメラの前で本人に向かって言えないことは、どんな形でも言わないことが、フワちゃん系芸能人による思わぬ暴露をふせぐことになるかもしれません。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」