今ドキ老人ホームはエンタメも重視。入居者とスタッフが、レクリエーションを楽しむ様子やスタッフがホストに扮しておもてなしをする動画が、インスタグラムを中心に大バズり。話題を集める2つの施設に目的や反響を直撃!
「特養ですがホストクラブ始めました」
そろそろ親が、そしていつかは自分も入居するかもしれない老人ホーム。来年には人口の30%以上が65歳の高齢者となる日本では、介護施設の需要が高まり「有料老人ホーム」の数は毎年4%程度増加。
集客を増やし、経営を安定させるためには入居を検討している人や、その家族へのアプローチがますます重要になってくる。
そんななか、SNSを活用してアピールする施設も増えており、レクリエーション(以下、レク)やイベントの様子を収めた動画を公開。
入居者が、スタッフや他の入居者たちと笑顔で過ごしている様子に、《親をこの施設に入れたい!》《自分の国の介護施設では、こんなことはしてくれない》といったコメントが寄せられるなど、国内外から大きな反響があるという。
《特養ですがホストクラブ始めました》
そんな驚きの投稿でバズったのが、兵庫県丹波篠山市にある介護老人福祉施設やまゆりの里。自然豊かな里山に建てられた古民家風の特別養護老人ホームで、平均年齢90.6歳の入居者90人が暮らしている。
「年齢、男女問わず楽しんでもらえるイベントをと考え、ホストクラブとキャバクラをやったんです。施設のスタッフがホストやキャバクラのキャストに扮して接客をしたりしました。この様子を動画でアップしたら、えらいバズってしまって(笑)」
と話してくれたのは、施設長の首藤風さんと生活相談員の稲葉夏輝さん(以下同)。ホストクラブの様子をアップした動画は、449万回(2024年5月現在)再生され、バラエティー番組にも取り上げられたそう。
「もともと、この施設では飲酒を許可していて、おつまみなどを用意し居酒屋のようにスタッフが入居者にお酒を提供するイベントをやっていたんです。お酒が飲めるイベントを楽しみにしている方も多かったので、もうひと工夫できないかと考えているときに、スタッフからアイデアが出たんです」
スーツやワンピースで着飾った、いつもと違う雰囲気のスタッフとお酒を飲むこのイベントは好評。第2弾も検討中だという。
さらに、やまゆりの里では、A5ランクの和牛を味わえるイベントの開催や、日常的に焙煎コーヒーを提供するなど、食にもこだわりが。
「施設の食事は、入居前の食事と比べると物足りなく感じてしまう人も。コーヒーも、やっぱりインスタントではなくおいしいものが飲みたいじゃないですか。そういうちょっとしたエンターテインメントを提供して楽しんでもらうために、限られた予算でどう工夫するかを考えてます」
「イベントは、スタッフが月ごとに持ち回りで担当します。マンネリ化しない内容で、スタッフ自身も楽しめることを大切にしています」
SNSを始めたのは若者世代への求人が目的だった
やまゆりの里では、料理や手芸、畑作業など、入居者自身が主体になるイベントも活発。その様子も公開されており、《おじいちゃんが一生懸命料理する姿に癒される〜》など、たくさんの温かいコメントが寄せられているのだ。
「施設に入居する前に、その人がどんな生活をしていたのかを、丁寧にヒアリングすることが大切だと思っています。すると、介護が必要になる前は畑仕事が日課だったとか、危ないからと調理を家族に止められるまでは料理をするのが生きがいだったとか、本当にやりたいことが見えてきます」
その入居者の“やりたいこと”をイベントに落とし込んでいるのだという。
「介護のプロがいる施設なら、安全に配慮してそれを叶えてあげられます。私たちのモットーは、施設に入ったら終わりではなく、施設に入ったからこそ、夢を叶えてあげるということなんです」
さらに、SNSで拡散された施設の様子は、人材が不足しがちな介護業界で若い人材の呼び水にもなっている。
「実は、SNSを始めたのは若者世代への求人が目的でした。施設での取り組みを発信してそれに共感してくれるスタッフを増やしたかったんです。そのおかげで、SNSを通じて応募してきてくれた他府県からのスタッフが全体の半数を占めています。平均年齢は30歳。若い人が集まってくれて、施設もさらに活気づきました」
つなぎ合わせた新聞紙を、足先で素早くたぐり寄せる「新聞足こぎゲーム」。高齢者2人が“爆速”で新聞をたぐり寄せ楽しんでいる動画が、4000万再生をたたき出した。
インスタグラムには、《イスの上で安全に配慮しているし、足腰も鍛えられるいいレクですね》《想像を超える速さで新聞が巻き取られていって笑ってしまった》といったコメントがあふれている。
「特に意識せず、普段施設で行っているレクの様子を投稿しただけだったので、反響の大きさに職員も入居者のみなさんもとても驚きました」
と話すのは、新潟市内で住宅型有料老人ホーム・スマイルホームの2棟を運営する、株式会社ヒロセの介護管理課、中村峻さんと渡邉久美子さん(以下同)。
「SNSを始めたのは3年前。閉鎖的なイメージがある介護施設の中でどんなことが行われているのか、いろんな人に知ってもらいたいと思って始めたんです。入居している方のご家族や、介護に携わっていない人にも見てもらい、介護施設のマイナスなイメージが払拭できればと。入居者の方が楽しそうにしている様子を伝えられる明るい内容を意識して投稿しました」
スマイルホームは、入居時の年齢制限がないため、入居者は50代後半~90代と幅広い。そのため、さまざまな年齢層の人が楽しめるよう、レクにも工夫をしている。
「ルールが単純でわかりやすいこと、職員が内容の説明をしやすいことが前提です。さらに、チーム分けをして競い合う要素を入れると、コミュニケーションが増えてお互い刺激になる。そこも大事な点だと考えています」
職員もより積極的にレクなどの提案をしてくれるように
「新聞足こぎゲーム」のような足腰を鍛える運動系、ひらがなを並べ替える頭脳系、紙コップに入った毛糸を割り箸で使う巧緻性を鍛えるゲームなど、多彩なレクを行っているスマイルホーム。レクの種類は多いが、安価で身近にあるものを使うよう工夫している。
「レクは基本的に自由参加。たくさんの種類を用意して、やりたいと思ったものにだけ参加してもらいます。入居者同士で、誘い合うこともあるようです。個室なので自ら外に出ないと話をすることがないのですが、レクがきっかけで仲良くなったり、新しい入居者が施設に慣れたりする場にもなっています」
介護施設という場所に不安を抱えて入居する人も多いが、中には20歳年上の入居者と交流が始まり、部屋を行き来するようになることも。
「SNSをきっかけに、職員もより積極的にレクなどの提案をしてくれるように。入居者のご家族の方も、普段の様子がわかると喜んでくださいました。投稿を見ていただいている方にも、元気な入居者さんたちの様子が励みや癒しになっているのなら、とてもうれしいです。これからも介護の現場のイメージを変えるような、明るい動画を公開できたらと思います」
取材・文/後藤るつ子