“浪速のモーツアルト”こと作曲家のキダ・タローさんが14日、93歳で亡くなった。
「と~れとれぴーちぴち、カニ料理」「あ~らよ、出前一丁」など、だれもが耳にしたCM曲や『2時のワイドショー』『プロポーズ大作戦』などテレビ番組のテーマ曲のほか、歌謡曲や市町村歌など、生涯“5000曲を軽く超える”数を作曲したと動画番組で語っていたキダさん。
また、別のテレビ番組では“(CM曲のギャラは)編曲、演奏、スタジオ代など全部込みで1曲200万円”だと明かしていた。つまり、キダさんの生涯年収は、ざっくり100億円にのぼる!?
1曲200万円は「破格」
「大阪出身のボクからすると、神様的な存在のキダさんですが、ご本人のあたたかい人柄を考えると、おそらく校歌やまちの応援歌については寄贈の形を取っていたのではないでしょうか。さすがのキダさんでも、生涯年収100億円はいったかどうか……」
と、語ってくれたのは現在、横浜を中心に活躍する作曲家でミュージシャンの庭瀬幸一郎さん。
「ボクも企業広告用の曲をいくつか作らせていただいていますが、そのギャラは本当にわずか。“1曲200万円”というのも、キダさんや小林亜星さんクラスの大御所だからこその破格だと思います。世の中のイメージからすると、それでも安く聞こえてしまうかもしれませんが……」(庭瀬さん、以下同)
音楽を取り巻く時代の変遷
過去には、依頼を受け大手鉄道会社のCM曲を作った庭瀬さんだが、その際のギャラも“その金額には遠く及びません”と苦笑い。ただし1曲あたりの単価が低くても、作曲家には印税という強い味方があるのでは?
「CM曲は印税契約ではなく“1曲買い取り”がほとんど。例えば誰もが知るようなサザンやスピッツなどの“広告用に作られたものではない楽曲”をCMで使用する場合のみ印税がかかります。現在のCM曲の多くは、CMのコンセプトに合わせて作られた楽曲で、制作会社がコンペ形式で選んだものだと思いますよ」
キダさんの高額ギャラの背景には時代もあったのでは、と庭瀬さん。
「いまは音楽にお金を出すことがない時代。若い人たちはCDを買いません。YouTubeで簡単に新曲を聴けますし、サブスクなら月500円で好きなアーティストの曲もダウンロードし放題です」
演者側にとっても、昔のようにデビューへの道が限られているわけでもない。
「レコード会社を通さなければ発表の場がない、という時代ではない。プロでなくても誰もがSNSで世界に発信することもできるのが今です。ある意味、誰でもミュージシャンになれてしまう世の中なので、以前と比べると、その存在自体に夢がなくなってしまったかもしれませんね」
実際、庭瀬さんが音楽指導をした高校生から“大学に入ったら音楽はやめる。だってミュージシャンなんか職業にはならないでしょ”と言われたことも……。
「レコードが生まれ、テープができてCDになって……と音楽を取り巻く時代は変わってきました。その時代に沿った形で曲を提供し、ファンを作っていくことが、これからのミュージシャンにとって大事なことだと思います」
モーツアルトが生まれるのがあと200年遅かったら“ウイーンのキダ・タロー”と呼ばれていたはず――テレビ番組でそう語ったのは故・上村龍太郎さんだ。次世代の“〇〇のキダ・タロー”を、首を長くして待ちたい!