小池、蓮舫両氏の“2強対決”

 首都の顔を選ぶ東京都知事選(7月7日投開票)が6月20日の告示まで4週間足らずとなる中、3選を目指して5月29日にも出馬宣言する見通しの小池百合子知事(71)に先んじて、立憲民主の蓮舫参院議員(56)が27日に出馬表明した。これにより、4年に1度の首都決戦は「小池VS蓮舫」という女性同士の“頂上決戦”の構図が固まった格好だ。

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 蓮舫氏は27日午後、党本部で記者会見。冒頭に都知事選出馬を宣言したうえで「『反自民・非小池』を掲げて、広範な都民の支援を得る」との理由から、無所属で戦う考えを示した。もちろん、蓮舫氏を担ぎ出した立憲民主と共産両党は、「事実上の統一候補」として全面支援する構えで、これまで小池氏支持を模索してきた連合も、蓮舫氏支援に回るとみられる。

 対する小池氏は3選出馬にあたり、表向きは無所属だが、自らが率いる地域政党・都民ファーストを推薦母体とし、現在の都議会運営で協力関係にある公明党に加え、自民党の協力も受ける構えだ。このため、今回の首都決戦は「小池、蓮舫両氏を与野党それぞれが支援する『与野党対決』の構図」となる見通しだ。

 都知事選にはすでに、広島県安芸高田市の石丸伸二市長(41)ら20人以上が出馬を表明するなど、候補者数は過去最多となりそうだ。ただ、いずれも「初の女性総理候補」に名前が挙がってきた小池、蓮舫両氏の“2強対決”となることで、維新や新興勢力の日本保守党など他陣営が、「影が薄れるため、候補擁立を見送る可能性」(選挙アナリスト)も出てきた。

互いに「戦闘モード」、本番前にも舌戦激化へ

 蓮舫氏は出馬会見の中で、「小池氏が公約に掲げた電柱ゼロや満員電車ゼロといった『七つのゼロ』は何も達成できていない」と厳しく批判。ここにきての小池氏の自民への接近についても「自民党政治の延命に手を貸す小池都政をリセットする先頭に立つ」と高らかに“打倒小池”を宣言した。

 蓮舫氏は青山学院大在学中にグラビアアイドルとして活躍。その後、民放テレビの情報番組のキャスターを務め、2004年参院選東京選挙区に旧民主党から出馬して初当選し、現在4期目。2009年に誕生した民主党政権では、行政刷新担当相などを務め、野党転落後は、民進党代表などを務めた。

 蓮舫氏は2028年参院選東京選挙区の改選組だが、改選定数6の同区では現時点で補選対象にならず、2025年夏の参院通常選挙に併せて非改選組の欠員を補う「合併選挙」が実施される見通しだ。

 蓮舫氏の挑戦に対し、小池氏は27日、視察先の八丈島で記者団に対し「報道で伺ってそれ以上の詳しいことは存じ上げていない」とことさら平静を装った。ただ、周辺には「絶対に負けられない。過去8年の実績には都民の評価もあり、(蓮舫氏の)批判のための批判は論破する」(側近)と対決姿勢を鮮明にしているとされる。

 その一方で小池氏は28日午前に都庁で記者団に「29日から都議会が始まる。現職知事としてしっかり取り組みたい」と出馬は明言しなかった。その後、都民ファーストの会と公明党から、さらに都内の自治体トップの有志らから、相次いで出馬要請されたが「重く受け止める」と語った。小池氏としては29日の都議会定例会開会時に出馬宣言するとみられている。

静岡知事選や目黒都議補選で出馬決断

 今回の蓮舫氏出馬決断について、立憲幹部は「26日の2つの選挙での立憲勝利がある」と解説する。その1つは、事実上の与野党対決だった静岡県知事選で、立憲と国民民主党が推薦した鈴木康友前浜松市長(66)が接戦を制したこと。もう1つは、同じ26日実施の都議補選(目黒区=欠員2)で、立憲の候補が激戦を勝ち抜き、小池氏が支援した自民候補が落選したことだ。

 蓮舫氏自身は出馬会見で決断の時期について「ごく最近」ととぼけたが、「最近の各種選挙での自民不振を受け、今の政治状況なら当選のチャンスがあると判断した」(立憲幹部)のは間違いない。同氏は永田町だけでなく全国的知名度でも小池氏に引けはとらない。ここ数年の国会論戦でも、岸田首相や主要閣僚らへの鋭い追及の場面は、情報番組を軸に各メディアが大きく取り上げるケースが目立っている。

 そうした状況も踏まえ、現段階での「小池VS蓮舫」を予測すると、「過去に例のない200万票台の競り合い」(選挙アナリスト)とみる向きが多い。というのも、蓮舫氏は、前回2022年参院選では、改選議席6の東京選挙区で、約67万票の4位当選。その一方で、民主党政権だった2010年参院選東京選挙区では2位の倍以上の約171万票でトップ当選している。このため、「今回、立憲、共産両党に下支えと無党派層の取り込みに成功すれば200万票の大台に手が届く」(同)可能性は十分だ。

 これに対し小池氏は、2020年の前回都知事選では366万票超の記録的大勝。初出馬で、自民も含め各党が有力候補を擁立した2016年選挙でも約291万票を獲得、2位の自民支持候補に100万票以上の大差で圧勝している。しかも、最新の世論調査でも都民の5割以上が「小池都政を評価」しており、「どんなに逆風が吹いても、200万票を下回る事態は想定できない」(同)との見方が支配的だ。

過去に例のない「200万票台の大勝負」に

 過去の都知事選の「数字的構造」からみても、東京の有権者は約1100万人で、投票率50%と仮定すれば、総投票数は550万。その場合、小池、蓮舫両氏を除く今回予想される候補者の顔ぶれからみて、「その他候補の得票総数は100万票前後」(同)となることが想定される。とすれば、「小池、蓮舫両氏は450万票を取り合うことになり、まさに200万票台の大勝負」(同)となるわけだ。

そこで問題となるのが、小池、蓮舫両氏がそれぞれ抱える「負の要因」の影響。まず、小池氏については前回も大きな話題となった「カイロ大卒」を巡る学歴詐称疑惑。今回も月刊『文藝春秋』が5月号で、元小池氏側近で都民ファーストの事務局も仕切ってきた人物と小池氏のエジプト留学時代の同居人女性の「実名告発」を掲載、疑惑が再燃したが、「その内容は、これまで以上に信憑性が高い」(政治ジャーナリスト)とみられている。

 この点については、蓮舫氏の出馬会見でも「小池氏の疑惑をどう見ているか」との質問が相次いだが、蓮舫氏は「報道内容はすべて読んだが、まずはご本人(小池氏)が説明すべきだ」と繰り返した。もちろん、同氏周辺は「候補者討論で、厳しく追及する」としており、日本記者クラブや各テレビ局、さらには関係団体主催の候補者討論会でのメインテーマとなることは確実だ。

 その一方で、蓮舫氏も過去に「二重国籍」疑惑で追及された経緯もある。同氏陣営は「すでに決着した問題」(立憲幹部)と胸を張るが、最近急拡大し、選挙戦にも一定の影響を及ぼすとみられているSNSでも「学歴詐称疑惑と二重国籍疑惑の対決」などの口さがない書き込みも目立つ。

SNSには「緑のタヌキと白いキツネ」の書き込みも

 蓮舫氏は出馬会見にトレードマークの白のスーツに黒のインナーで登場した。一方の小池氏はこれまで通り「緑」をメインとしたいでたちで選挙戦に臨むとみられる。これについてSNSでは、有名な食品コマーシャルをもじって「今回は緑のタヌキと白いキツネ」と揶揄する書き込みが目立つ。

 まさに、「小池が勝か蓮舫が勝つかで、関係者だけでなく都民の多くが手に汗を握る戦い」(閣僚経験者)になりそうだ。ただ、冷静な有権者の間では「派手なアピール合戦やけなし合いより、都政の今後の在り方について地に足の着いた政策論争をしてほしい」との切実な声も広がっている。


泉 宏(いずみ ひろし)Hiroshi Izumi
政治ジャーナリスト
1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。