4月1日に施行された『孤独・孤立対策推進法』。年々増加傾向にある孤独死や、孤独や孤立から生じる心身への影響といった社会問題の解決に取り組むべく、制定された法律である。
「内閣官房が公表した調査結果によると、日本に住む人の約40%が孤独を感じたことがあると回答しているとか。それを踏まえ、この法律では《孤独・孤立に悩む人を誰ひとり取り残さない社会》と《相互に支え合い、人と人との「つながり」が生まれる社会》を目指す、とされています。
実は、2021年に日本は、イギリスに次いで世界で2番目に孤独・孤立対策担当大臣を任命しているんです。現在は加藤鮎子担当大臣のもと、さまざまな施策をうっています」(全国紙記者、以下同)
“こんな孤独なメタバースはない”
5月は『孤独・孤立対策強化月間』と定められており、孤独・孤立問題に取り組むNPOや一般社団法人の紹介など、集中的な広報・啓発活動を行っている。同法が成立してから初となる今年の強化月間では、目玉企画として“特設メタバースイベント”が実施された。
「インターネット上の仮想空間であるメタバースを用いた取り組みで、正式名称は『ぷらっとば~す』。開設期間は、強化月間である5月1日から31日までの1か月間で、お悩み相談やウェビナーへの参加、NPO法人や政府の孤独・孤立対策への取り組みが閲覧できるなどとされており、これまでにない挑戦的な施策だと感じました」
ところが、思わぬ形で注目を浴びることとなってしまった。
「社会学者の古市憲寿氏が自身のXにてぷらっとば~すについて言及し、ネット上で大きな話題となりました。というのも、ぷらっとば~すでは“ユーザー同士のコミュニケーションが禁止”されており、毎日10時から18時の間までしか利用できないんです。また、ご自身が実際にログインした際に利用人数が少なかったことも古市氏は指摘しており、“こんな孤独なメタバースはない”と痛烈に批判しました」(スポーツ紙記者)
ネット上でも、
《マジで孤立するしかないメタバース》
《30年前のゲームかな》
《何の工夫もなく、使う人への配慮もない税金のムダ使い》
という声があがるなど、炎上騒ぎに。
幸か不幸か、古市氏の投稿をきっかけに利用者が増え始めたようで、一時は200人ほどがログインしていた。しかし、何らかのトラブルが発生したのか、5月30日には《メンテナンス中》と表示されたまま利用できなくなり、翌日には復旧の目途が立たないとして当初の予定よりも1日早く開設終了になってしまった。
“税金のムダ”という批判がある一方、ぷらっとば~すのコンセプトや取り組みそのものを評価する声があるのもまた事実。企画した内閣府の孤独・孤立対策推進室はどのように考えているのか、取材を申し込むとメールでの回答を得られた。
「一括しての費用は約3450万円」
まずは、ぷらっとば~すを開設した意図について。
「孤独・孤立対策の広報の一環として実施いたしました。政府の孤独・孤立対策の基本情報や、この5月の月間中に孤独・孤立の問題についての社会の理解を深めるために行っている、各地のNPO等の活動の見える化、孤独・孤立の問題に関する理解者を広げるためのイベントの開催、孤独・孤立に悩む方に対する相談員による相談場所、孤独・孤立対策の重要な担い手であるNPO向けの情報発信、などをワンストップで提供できないか検証する観点でメタバースは広報のツールとしてもポテンシャルが高いと考え、今回採用いたしました。政府から発信する情報はURLなどが散逸して分かりづらいと考えており、一つの空間から様々なリソースにアクセスできるところに注目しております」
開発、運営にかかった費用については、
「ぷらっとば~すに係る費用以外にも、強化月間の広報にかかる他の業務とその費用も一括しての発注としておりますため、ぷらっとば~すのみを取り出してお答えすることは難しいです。一括しての費用は約3450万円です」
ネット上で指摘された“コミュニケーション禁止”への批判に対する見解は、
「現に孤独・孤立状態にある方や他者とのコミュニケーションの苦手な方にあわせて、相互のコミュニケーションは不可といたしました。メタバースの通常の使い方とは異なる活用であることは認識の上で、利用者の安全性確保を最優先する運用を行いました」
最後に、ぷらっとば~すの今後の運用について尋ねると、
「今回はいわば試行実施であり、孤独・孤立対策強化月間である5月限定の運用としました。メタバース空間の活用については、孤独・孤立の広報手段や、孤独・孤立に悩む方の相談の場として効果的かどうかなど、今回の試行結果を踏まえて今後よく検討してまいりたいと考えています」
とのことだった。
本来の目的とは異なる形で注目を浴びてしまったぷらっとば~す。今回の反省が来年の強化月間にどのように生かされるのか、注目したい。