ウルフルズのトータス松本が、関連会社の会長職を辞任した。
関連会社といっても音楽系ではなく、妻の父が創業したアパレル企業。この会社がコロナ禍にともなう「雇用調整助成金」を1億円以上も不正受給しており、国に返還していたことがわかった。
《本当に情けない話なんですけど、僕は何も知らなかったんです(略)名前を貸してるだけになってました》(文春オンライン)
というのが、本人の説明だ。
これで思い出したのが、彼が作った『借金大王』という曲。バンドがブレイクした翌年、ドラマ『ナニワ金融道』(フジテレビ系)の主題歌に使われた。
カネにだらしない友人に対して「金 返せよ」と連呼するサビが印象的だが、今回は国から「金 返せよ」と怒られてしまったわけで、なんとも皮肉な話である。
なお、筆者はこの人のことがあまり好きではない。そもそも、代表作『ガッツだぜ!!』に象徴される男っぽくて泥くさいロックというのが苦手だ。さらに妻の父への「恩返しだと思って」就任したものの「その重みもわかってなくて」と後悔するような、どこか軽はずみなお調子者的キャラについてもなんだかなぁである。
シャツのボタンを外しただけで叩かれる
おそらく、筆者みたいな人が一定数いるのだろう。東日本大震災の直後にはACのCMに起用されたものの、ちょっと叩かれるハメに。
「日本は強い国。(略)みんなで頑張れば絶対に乗り越えられる」
と、力強く語ったが、シャツのボタンを2つ外していたことが偉そうだとツッコまれ、その後、ボタンを留めたバージョンが放送されるようになった。また、共演していたのがSMAPだったため「格が違うのでは」という声も。
一方、トータスのファンはそんな彼の「情けない」ところも好きなのだろう。
実際、それが生かされることもある。2020年度後期のNHK朝ドラ『おちょやん』にヒロイン・千代の父・テルヲ役で出演。酒と博打に溺れ、それこそ「借金大王」となって娘に迷惑をかけまくる姿が「朝ドラ史上最悪の毒親」とまで呼ばれ、強いインパクトを与えた。本人は、
「テルヲ出てくんなって言われたらわかるんですけど、トータス出てくんなって言われるとへこむんですよね。俺じゃないねんけどって」(『あさイチ』NHK総合)
と、こぼしていたが―。
国を相手に「借金大王」と化した
今回の事件で、カネにも人間関係にもちょっとルーズなことが判明。ある意味、ハマり役だったわけだ。ちなみに『借金大王』ではその友人に対し「嫌いになれない」とか「変わるなら今だ」とも歌っている。そこからくみ取れるのは“ダメに見えてもみんないいヤツ”的な人間観であり、ファンはそんなところに元気づけられるのだろう。
ただ、彼が1億円超の不正受給をした会社の会長だった事実は揺るがない。いわば、国を相手に「借金大王」と化してしまったのだ。カネにだらしない友人を説教する曲まで作っていた彼にとって、さすがにへこまざるを得ない状況だと考えられる。
とはいえ「何も知らなかった」が本当なら、それほど良心の呵責も感じないタイプなのではないか。自身のラジオ番組では「心底、反省しています」としつつ、
「いつものように底抜けに明るくとはいかないかもしれませんが(略)今日もしっかりお送りしていきたい」
と、通常運転をアピールしていた。
なんだかんだいって『ガッツだぜ!!』の精神ですぐに立ち直りそうだ。