トータス松本、伊東四郎、岡部たかし、高橋克典

 母の日にちなんで開催した「朝ドラヒロインの最高な母親ランキング」の好評を受け、父の日には当然この企画。朝ドラヒロインの父親、がっかり&よかったランキング! なぜ父親だけがっかり部門がありなのか……それは朝ドラにダメ親父は必要不可欠ゆえ。30代~60代の女性1000人アンケートの結果は、はたして?

 朝ドラヒロインの父親は、基本的に序盤に登場して、前半戦で退場というパターンがほとんど。というのも朝ドラの場合、ヒロインは家族から独り立ちして自分の道を歩んでいくわけで、その時点で親の出番はなくなってしまい、その後にクローズアップされるのは死ぬときくらいなのだ。

「そんな限られた出番の中で数多くの票を集めたということは、これらの人たちは良くも悪くも印象的な存在だったということです」

 と、ドラマウォッチャーの漫画家・カトリーヌあやこさんは賛辞を送る。

朝ドラの序盤を盛り上げるのはうまい子役とクズ親父です(笑)。親父がクズであればあるほど健気な子役に視聴者は感情移入して、ドラマは盛り上がる。特に時代ものの朝ドラにとって、ヒロインの最初の壁になるクズ親父は、必要悪なのかもしれません

朝ドラ「がっかり」なヒロインの父親TOP10

 そんなクズ親父たちが顔をそろえたがっかり部門を見ていこう。5位は『スカーレット』('19年)川原常治(北村一輝)

朝ドラがっかり3大要素がそろった北村演じる常治

「酒を飲んでばかりで働かない。娘の夢を応援しない。大嫌い」(沖縄県・42歳)、「借金をつくって家族を苦労させているのに、自分は酒を飲んでキレ散らかす。典型的なダメ親父」(長野県・41歳)と散々な言われようだ。

「借金、横暴、娘の夢の全否定という朝ドラがっかり親父の3要素というのがあるのですが、北村さんが演じた常治は全部そろってました(笑)。亭主関白で酒好きな、いわゆる昭和の頑固親父。根はお人よしで、娘への愛情もあったから悪い人ではないんですけど、自分の父親だったらたまらない。

 ただ、娘を殴ったりはしない。これは描かれている時代ではなく制作された時代を反映している。『スカーレット』は'19年の作品ですから、コンプライアンス的に暴力は描けなかったんでしょうね」(カトリーヌさん)

 4位は『まれ』('15年)津村徹(大泉洋)

大泉演じる徹は、ある意味、ヒロインの人生に大きな影響を与えた

「一獲千金を狙って失敗、行方不明を繰り返す父親……家族としては怖すぎる」(京都府・53歳)、「なぜこんな行き当たりばったりのお父さんを家族が許し、ついていってるのかが謎でした」(大阪府・58歳)とその行動自体が理解不能な迷惑親父だった。

「大泉さんが3要素で当てはまるのは借金で、現代ものなので娘の夢自体は応援している。ただ、それに“いいかげん”という要素が加わっている。役割としてはヒロインに対する反面教師。

 土屋太鳳さん演じる希は、一獲千金の夢ばかりを見ている父親にあきれ、地道が一番と市役所に勤めます。ところが、その後はパティシエを目指して挫折、老舗漆器店の女将となるもまたパティシエに……と結局、父親のような人生を送る。あんた、やっぱりお父さんそっくりだなって(笑)」(カトリーヌさん)

 やはり、「いいかげんさ」が嫌われたのが3位の『ちゅらさん』('01年)古波蔵恵文(堺正章)だ。

人間味ある人柄で愛されキャラでもあった堺演じる恵文

「あまりにも頼りなく、すべてを『なんくるないさぁ』で終わらせる」(愛媛県・54歳)、「働かない。家族に迷惑をかける。言動が軽い」(大阪府・49歳)と、デフォルメされた能天気さに非難の声が寄せられた。

「10位『ちむどんどん』の大森南朋さん演じる比嘉賢三へのコメントで、『沖縄が舞台の朝ドラのお父さんはいいかげんに見える』というものがありましたが、まさにそのとおりで、制作側の沖縄幻想を体現させられていますよね。

 沖縄には本土とは違うウチナータイムが流れていて、すべては『なんくるないさぁ』で済まされるみたいな(笑)。南の島ならではの楽天的な男の代表として、何かといえば三線を弾いて、それでみんなが踊り出す(笑)。そこ以外は家族思いのいい父親だったし、愛されキャラでもありましたよね」(カトリーヌさん)

朝ドラ史上最低のクズ親父に多くの票が

 2位に入ったのは名作『おしん』('83年)谷村作造(伊東四朗)だ。

やはり『おしん』は強かった。伊東演じる作造はがっかり&最高両部門で選出

「貧しさゆえとはいえ、娘を売り飛ばすのは許せない」(愛媛県・54歳)、「伊東四朗の迫真の演技が子ども心に恐ろしく、こんな父親は嫌だと思った」(東京都・50歳)と寒村の極貧小作農をリアルに演じた伊東の芝居に圧倒され、強烈な父親像が刻まれているようだ。

「まさに明治の父親で、家でもニコリともしない。奉公先から逃げてきたおしんが脱走兵と一緒だったと知るや、気絶するまで殴り飛ばす。今では考えられない暴力シーンは強烈な印象がありました。これは1位の作品もそうですけど、娘を売り飛ばす父親はがっかり度が高い(笑)。

 伊東さんの演技がまた素晴らしいから、子役の小林綾子さんの健気さを際立たせ、結果、より父親がひどく見える。そういう意味では、きちんと朝ドラ父の役割を果たしていたと思います」(カトリーヌさん)

 堂々の100票超えで断トツの1位に輝いたのは『おちょやん』('20年)竹井テルヲ(トータス松本)だ。

がっかり親父1位にはダントツでトータス演じるテルヲに票が集中

「娘を捨てたくせに、その娘に金をたかる。朝ドラ史上最低のクズ父でした」(大阪府・58歳)、「借金をつくり、女をつくり、育児放棄のうえ娘を売り飛ばす。娘を食い物にする飲んだくれ」(広島県・41歳)などなど、まさに「どれだけ子どもに迷惑をかければ気が済むのか」(東京都・62歳)というクズ親父だった。

「朝ドラ史上最低とコメントされていますけど、その座は未来永劫動きそうにない(笑)。娘を売り飛ばし、奉公先にも女優になっても追いかけて金を無心し、通帳を盗む。逃げても逃げても追いかけてくるゾンビみたいなクズ親父でした。

 脚本の八津弘幸さんは『半沢直樹』や『下町ロケット』など日曜劇場御用達の作家さんで、悪人らしい悪人を描くのがうまい。結局改心することもなく、血ヘドにまみれて牢屋で死ぬ。毒親として描き切っていて、だからこそのこの票数。トータス松本さんが演じることで愛嬌が加わり、それが救いになってました」(カトリーヌさん)

朝ドラ「最高」なヒロインの父親TOP10

 安心してください。ひどい父親ばかりではありません。ということで、続いては最高だった部門をご紹介。『おしん』の作造は最高の5位にもランクイン。

「あの時代の厳しい父親だけど、家族を大切にしているのは伝わった」(広島県・57歳)、「奉公先に売られるおしんを追いかけていくシーンは忘れられない」(福岡県・52歳)と、その不器用な愛を評価する声も。

「極貧の中であがく男の哀れさみたいなものもありました。船で奉公に出る娘を、『おしーん』と叫びながら追いかける姿には涙、涙……。決して愛情がないわけではないけど、表現の仕方を知らない不器用な父親でした。

 しかも橋田壽賀子先生が書いていますから、夫も姑も息子も最悪。渡る世間はクズばかりで、お父さんはそれほど悪く見えなかった(笑)」(カトリーヌさん)

 4位にも『ちゅらさん』の恵文が入り、名誉挽回。「お調子者で頼りないけど、温かくて人間味のあるお父さんだった」(千葉県・59歳)と人柄自体は愛されていたようだ。

「勝子(田中好子)がほかの男性の子どもを身ごもっているのを知りながら結婚するなど実はおとこ気もある。勝子はよかった母親部門の2位でしたけど、父親がよかった部門に入っている作品は結構かぶってるんですよね。

 つまり、お母さんが人気がある=いい夫婦ということで、お父さんがちょっとくらいダメでも許せちゃうのかも(笑)」(カトリーヌさん)

 3位は『ブギウギ』('23年)花田梅吉(柳葉敏郎)

明るい父親役を演じた柳葉の演技にも好評価の声が

 確かにお母さんのツヤ(水川あさみ)は最高な母親の1位だった。「お調子者の明るい父親像がよかった。誰よりもスズ子のファンで『東京ブギウギ』の替え歌を一緒に歌いながら亡くなるシーンは泣けました」(北海道・51歳)

「奥さんが大好きで、大阪時代は明るくて優しいお父さんだったじゃないですか。ツヤが亡くなってからは荒れて、がっかり父になっちゃうけど、戦前の日本には珍しい愛妻家で、それが好印象を持たれています」(カトリーヌさん)

家族を愛する理想の父が1位と2位に

 2位には現在放送中の『虎に翼』('24年)猪爪直言(岡部たかし)が堂々ランクイン。

ヒロインの伊藤との親子の掛け合いも見事だった岡部

「あの時代には珍しい優しいお父さんで、いつでも娘の味方をしてくれた」(埼玉県・56歳)、「奥さんを愛しながら、子どもの意見も尊重し、金も稼いでいた」(鹿児島県・48歳)とクズ親父とは真逆のキャラだった。加えて、「死ぬ間際の笑えるシーンを見て、好きになった」(兵庫県・52歳)という声も。

「死ぬ間際のぶっちゃけ懺悔は最高でした(笑)。時代ものの朝ドラでは珍しい非常にリベラルでエリートな父親でしたが、岡部さんが演じることですごくチャーミングなキャラクターになっていた。父と娘の関係がクローズアップされている作品だし、朝ドラ史上最高に娘愛の強いお父さんでした」(カトリーヌさん)

 そして、最高の父親に選ばれたのは『舞いあがれ!』('22年)岩倉浩太(高橋克典)だ。

家族を大事にし、よく働く高橋演じる浩太が最高朝ドラ父親1位に

「ひたすら愚直に仕事に打ち込み、娘に背中で生きざまを見せていた」(静岡県・51歳)、「夢を追いかける大切さを身をもって教えていた」(愛知県・43歳)など自ら夢を追いながら娘を応援する姿に共感の声が寄せられた。

「思い返すとマイナスポイントがないお父さんで、しかもイケメン(笑)。現代ものの朝ドラのお父さんはヒロインの最初のサポーターなんです。奥さんラブで、娘の夢を応援して、ちゃんと働く。女性視点からのポイントの高さが上位2作品のお父さんの共通点です」(カトリーヌさん)

 ヒロインの父親役は著名なベテラン俳優が演じることが多いが、『虎に翼』の岡部はこれまで5作の朝ドラと大河に脇役で出続けてきた名バイプレイヤーの抜擢という新たなパターン。

「ヒロインの伊藤沙莉さんも職人タイプなので、2人のシーンは見ごたえがありました。次の朝ドラ『おむすび』の北村有起哉さんも名バイプレイヤー。ひっかき回し役は元ヤンお母さんの麻生久美子さんになるのかな? どんな夫婦になるのか、今からすごく楽しみです」(カトリーヌさん)

がっかりなヒロインの父親TOP10

1位 おちょやん('20年)竹井テルヲ(トータス松本) 115票
2位 おしん('83年)谷村作造(伊東四朗) 74票
3位 ちゅらさん('01年)古波蔵恵文(堺正章) 47票
4位 まれ('15年)津村徹(大泉洋) 43票
5位 スカーレット('19年)川原常治(北村一輝) 41票
6位 ブギウギ('23年)花田梅吉(柳葉敏郎) 38票
7位 純と愛('12年)狩野善行(武田鉄矢) 36票
8位 虎に翼('24年)猪爪直言(岡部たかし) 33票
9位 ひまわり('96年)南田徹(寺泉憲) 32票
10位 ちむどんどん('22年)比嘉賢三(大森南朋) 29票

最高なヒロインの父親TOP10

1位 舞いあがれ!('22年)岩倉浩太(高橋克典) 71票
2位 虎に翼('24年)猪爪直言(岡部たかし) 68票
3位 ブギウギ('23年)花田梅吉(柳葉敏郎) 62票
4位 ちゅらさん('01年)古波蔵恵文(堺正章) 49票
5位 おしん('83年)谷村作造(伊東四朗) 41票
6位 はね駒('86年)橘弘次郎(小林稔侍) 37票
7位 とと姉ちゃん('16年)小橋竹蔵(西島秀俊) 33票
7位 てるてる家族('03年)岩田春男(岸谷五朗) 33票
9位 なつぞら('19年)柴田剛男(藤木直人) 31票
10位 ゲゲゲの女房('10年)飯田源兵衛(大杉漣) 28票

カトリーヌあやこ 漫画家&テレビウォッチャー。著書にフィギュアスケートルポ漫画『フィギュアおばかさん』(新書館)など

取材・文/蒔田陽平