今年2月には日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新。3月に初めて4万円を超えるなど、日本の株式市場は盛り上がっている。となればその波に乗りたいところだが、そもそもいまなぜ株価がこれほど調子がいいのか。
始まりは安倍元首相が音頭をとった経済政策「アベノミクス」だ。
「アベノミクスが打ち出されたのは2012年12月のことです。長引く円高・デフレ不況からの脱却を目的としていました。目玉の大胆な金融緩和策の効果により、徐々に円高から円安に向かい、現在の株価上昇へとつながったのです」
こう説明するのはファイナンシャルプランナーの伊藤江里子さん。カギを握った金融緩和策とは、日本銀行が市中に出回るお金を増やすこと。
「世の中に出回るお金が増えると金利が下がり、金利が下がると円が売られて円安になります。円安は輸出にプラスで、海外に製品を売る企業の儲けを生むため、それが株価上昇をもたらすという流れです。
一方で海外の投資家が円安で好調な日本株を積極的に買っていることや、今年からスタートした新NISAも追い風になっています」(伊藤さん、以下同)
株高は「一過性のものではない」
気になるのは今後だろう。株高が続かなければ、いざ投資を始めても儲けを得るのは難しそうだが……。
「5月、トヨタ自動車が日本企業初の営業利益5兆円超えを発表するなど、輸出企業を中心に好決算が報告されています。いまの株高は実態を伴っているので、一過性のものではないでしょう」
とはいえ、投資の世界に絶対はない。必ずリスクがついてまわることを忘れてはならないという。
「倒産した会社の株の価値はゼロになってしまいますし、不祥事や自然災害などで株価が大きく値を下げるケースも考えられます。ですから株でいえば複数の銘柄を購入するなど、分散して投資を行うことが大切です。また、投資は余裕資金で始めることが大前提です」
こうしたセオリーを踏まえ、例えば100万円を投資でいち早く築くにはどうしたらいいのか。
「私なら株高で円安の今、次から紹介する3つの投資先を考えます」
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配当で資産を増やせる「高配当株」が狙い目
投資といえば、つみたてNISAやiDeCoによる投資信託の積み立てが人気だが、株価上昇の波に乗って資産を増やすには個別株への投資に目を向けたい。
「初心者の場合、個別株を安く買って高く売るという手法は難しく、成果を得るのも困難です。売買の利益ではなく配当収入を得ることを目的に、『高配当株』に投資する手法が望ましいでしょう」
と、伊藤さんは言う。
個別株を購入して株主になると、配当金をもらえることがある。配当金は企業が利益の一部を株主に還元するために支払われる。その配当金をより多くもらえるのが高配当株で、株価に対する年間の配当割合が一般的に4%以上のものを指す。
「銀行に預金したときの金利をはるかに上回る高配当株は数多くあります。該当の銘柄を上手に見つけて持ち続ければ、銀行に預けるよりも断然有利な配当収入を継続して得られるのです」
高配当株の一例は、武田薬品工業(配当利回り4.74%)、日産自動車(4.49%)、JT(4.36%)など。
「複数の高配当株を100万円分購入して配当利回り4%と仮定した場合、配当収入は年4万円になる。500万円分購入した場合には年20万円になり、5年の配当収入で100万円を貯められる計算です。
ちなみに通常、配当には約20%の税金を課せられますが、新NISAを活用して個別株に投資すれば、売買による利益はもちろん配当の受け取りも非課税となるので税金はとられません」
もし、銀行預金の利息で100万円を築こうとしたらどうか。5年のスピードでは到底不可能だ。メガバンクの定期預金の金利は上昇傾向にあるものの、1年もので0.025%。100万円を1年間預けても、250円の利息しか受け取れない。
株主優待の魅力
「高配当株は配当収入によって着実に資産を築くことができます。ただし、高配当だからと飛びつかず、業績の良しあしなどをきちんと見極めるようにしてください。
なぜなら、業績が悪くて株価が下がっても配当利回りは上がるので、高配当だからと安易に購入するのは危険だからです」
個別株を保有する間、株主優待をもらえるのも株主にとってうれしい特典とのこと。
「株主優待とは、企業が株主に対して自社商品や各種サービスを贈る制度です。各種サービスには金券や割引券、電子マネーなど現金同等に使えるものも多くお得ですよ」
例えば、スーパーマーケットを全国展開するイオンの株主優待は保有株数に応じたキャッシュバック。半期100万円までの買い物金額に対し、100株以上3%、500株以上4%、1000株以上5%と、返金率が上がる。イオンは高配当株とはいえないが、株主優待が魅力的な株のひとつだ。
「私もイオンの株主の一人で、食料品や日用品を日々買い物していたころは半年ごとに2万~3万円程度のキャッシュバックを得ていました。優待はほかにもあり、長期保有者には1000株以上からギフトカードが進呈されます」
配当収入だけでなく、株主優待も目的に中長期の投資スタンスで臨むのが、初心者にはおすすめだそう。
「このスタイルで臨むと、購入した銘柄の株価が下がっても一喜一憂することなく、配当収入や株主優待を楽しみに無理なく投資を続けられます。株価が下がっても売らなければ損することはないですからね。その間、配当収入や株主優待を得ながら100万円を目指せます。
そして株価が大きく値が上がるタイミングを待って売れば、売買による利益も得られることになります。100万円プラスアルファのチャンスも望めるわけです」
利子と元本を約束、安心の「高利回り債券」
次に伊藤さんが紹介するのは「高利回り債券」への投資だ。だが、「そもそも債券って何?」「債券に投資するってどういうこと?」と疑問に思う人も多いはず。
「債券とは、国や民間企業などが資金調達を目的に発行する借用証書のようなものです。つまり、債券を購入すると国や企業にお金を貸したことになり、期間や利息があらかじめ決められているため、その受け取りと満期日に元本の払い戻しが約束される仕組みになっています。
株よりリターンが低い分、安全性は高い金融商品ですね。そんな中でも、高利回り債券が投資先として狙い目になります」
1つは社債。企業が発行元の債券だ。
「高利回り社債の利回りはおおむね2~3%台です。銀行の預金金利と比べると十分魅力でしょう」
直近でいえば、6月発行のソフトバンクグループの社債が一例(募集期間終了)。満期は7年で、その間、年2回受け取れる利子の利率は3.03%。
同社債に100万円を投資した場合、年約3万円の利子を受け取れるのに加え、満期の償還日には元本100万円が払い戻される。
「仮に1000万円を投資した場合に受け取れる利子は年30万円余り。7年後の満期までに100万円に到達する計算です」
“為替差益”にも注目
もう1つは外債。外国の国や企業などが発行元の債券だ。
「外債の代表格はアメリカ政府発行の米国債です。米国債の利回りは満期5年、10年ものが4.5%前後で推移しています。日本の個人向け国債と比較したらはるかに高利回りですよね」
例えば、利率4%、満期5年の米国債に100万円を投資した場合、この間に為替の変動がなければ、毎年4万円、5年間トータルで20万円の利子を受け取れる。そして満期の償還日には元本100万円が払い戻されるだけでなく、“為替差益”を得られるチャンスもあるという。
「米国債はアメリカの通貨のドルで購入します。仮に1ドル=150円のときに購入し、満期の償還日に1ドル=160円の円安になっていた場合には、1ドルで交換できる円が150円から160円になっていますよね。この増えた10円分を為替差益といい、米国債はその実入りも期待できます」
ここで冒頭に伊藤さんが説明した日本株上昇の理由を思い出してほしい。いまの株式市場の盛り上がりの背景には円安が関係している。円安トレンドのままなら為替差益を得られるのだ。
「為替の動向は予測できませんが、通貨を分散して保有することは、リスクを抑える効果があります」
ただし、社債も外債も、当然ながらリスクを伴う。
「債券投資は、発行元の信用力によって利子の支払いや元本の返済が保証されています。したがって社債であれば企業、外債であれば国や企業などを信用し、投資できるかが問われるわけです。
加えて外債の場合、満期時に為替差益が望める一方で円高になれば“為替差損”が生じることも覚えておいてください」
少額・ハイリターンの「FX」は金利収入で稼ぐ
最後は外貨投資の「FX」。FXとは外国為替証拠金取引の略称で、ドルなどの通貨を売買し、前述した為替差益を主目的とする金融商品のこと。
「投資は通常、手持ち資金内で行うものですよね。FXの場合、証拠金を預け入れることで手持ち資金の何倍もの取引を可能とし、少額資金で取り組めるのが特徴です。儲けも何倍にも膨らみ、ハイリターンを目指せます。
ただ、通貨の売買で利益を狙うのは非常にハイリスクのため、初心者にはおすすめできません」
伊藤さんは自らその怖さを実感ずみだとか。
「ひと昔前ですが、少額資金でFXに挑戦。ちょうど為替が円安局面を迎え、1日で20万、30万円と口座残高が膨らんでいきました。ところが一晩寝て朝になると口座残高は2万円に。
急激に円高にふれており、一気に資金が減っていたんです。勉強不足で痛い目に遭いましたね」
FXには「スワップポイント」と呼ばれる金利収入を得る投資手法もある。為替差益を狙うのではなく、通貨の中長期保有を前提とした取引になるため、FXビギナー向きかもしれないという。
「スワップポイントは、2国間の通貨を売買する際に生じる金利差を指します。高金利通貨を買い、低金利通貨を売って保有する間、スワップポイントを毎日受け取れる仕組みになっています」
高金利通貨の代表例はアメリカドル(政策金利5.50%)、オーストラリアドル(4.35%)、ニュージーランドドル(5.50%)など。対して低金利通貨の日本円(0.10%)を組み合わせる形だ。
例えば、FX取引で100万円を米ドルに投資した場合(米ドルを買い、日本円を売った状態。1ドル157円の場合)、スワップポイントは1日約60円入ってくる計算に。
「外貨預金のイメージですがFXの場合、外貨預金より手数料が格段に安いのでお得。手持ち資金以上の取引を低く抑えて行えば、スワップポイントもその分増やせます」
もちろん、スワップポイントを目的とするFX取引にもリスクはついてまわる。
「高金利通貨は値動きが激しいものが少なくありません。日本円とのペアでスワップポイントを積み上げられたとしても、円高に大きくふれて為替差損となれば利益は簡単に吹き飛んでしまいます。高金利通貨選びや為替の値動きには注意が必要です」
※本文中の「株価」「配当利回り」などの数値は、2024年6月3日の値。利子の計算は税抜き価格です。
「高配当株」「高利回り債券」選び方3つのポイント
1.業績が好調で、借金の少ない企業なら〇
高配当株は業績の良しあし、利益が順調に伸びている会社かどうかを第一の判断材料とする。また、借金が少なく(自己資本比率50%以上)、利益余剰金が多いことが重要になる。
2.安定性の高い事業内容が中長期保有に向く
高配当株は事業内容もチェック。提供する商品、サービスが社会に求められている会社ほど安定性は高く、中長期保有に向く。業種でいえば医薬品、食品、電力、鉄道などは盤石で強い。
3.企業、国などに対する信頼度を考える
高利回り債券の見極めは、社債の場合は高配当株と同じく、企業の業績の良しあし、事業内容の安定性などをチェック。外債は国や企業など発行元の信用度を第一に考える。
教えてくれた人……伊藤江里子さん●銀行員時代にファイナンシャルプランナーの資格を取得。その後、生保・損保会社勤務を経て独立。ライフプラン・キャリアプラン実現のためのマネー相談を多数手がける。
取材・文/百瀬康司